518話 男装女子と女装男子が増えた
いつもみたいに、なんか最近は放浪癖が芽生えたらしいリリさんと一緒に来た、ノーネームさんの「援軍」。
けども――全然姿は違うけども、雰囲気も変わったけども、暗がりでよく見えていないけども。
でも。
「……もしかして、アレクくんとアリスさん……の、でっかいの?」
見た目は全然違う。
背も高いし――後ろで長い髪を結った姿の、姉妹に見える子たち。
リリさんと同じくらいの年頃で――リリさんと同じく、どこか僕の見知った顔たち。
「おう! 俺たち、ずっとないないされながら待ってたぜ! まぁ『あっち』で稽古つけてもらってたんだけどな!」
「ノーム様――じゃない、ノーネーム様。私たちも、ようやく出番なんですね。1年間、ずっと待っていました」
――話し方にも、面影があって。
なにより、背が高くて声が低めな方の「お姉さん」の話し終えてからひと呼吸のタイミングで、背が低くて声が高めな方の「弟くん」が会話を続ける――言葉が分からなくても、その順番と店舗で、もう暗くたって見えなくたってよく聞こえなくたって――。
「……おろ? あたし?」
「ぼく……?」
そこには――2人の姉弟に、またどっかに行って戻ってきたリリさんが、立っていた。
「小さい私と大きい私な感じです!」
どやっと見慣れた顔をしているリリさん。
この子……もしかして、あの2人を呼ぶためにどっかへ?
「……あー、リリが2人居たときのアレか」
「つまり、ぼくたちが成長した姿……」
【朗報・時空系使徒、増える】
【草】
【時空系使徒……斬新だな……】
【まぁリリちゃんは確かにそうねぇ】
【ガチ女神が手ずから育てたからな……おかしくはない】
【あー、この後に黒髪姉弟がこの時代に残れば、リリちゃんたちとおんなじ時間を地球で過ごすから】
【リリちゃんが居たんだからおかしくはないけど……】
僕は、小さい姉弟と大きい姉弟を見比べる。
「……お兄さんみたいに見えるのがアリスさん、で、妹さんみたいなのがアレクくん……だよね?」
なんだか忍者みたいな格好してるし、アリスさんのお胸はぱっと見で目立たず、アレクくんの体はくびれとかはっきりしてて、顔と髪と声はそっくりだけども。
……ていうか、お姉さんの方がお兄さんみたいで、弟くんの方がどう見ても妹さんに見えちゃうけども……あと、お胸もあるように見えるけども、気のせい。
……いや、異世界出身ならそういうのもあるのかな?
「! ほらアレク、やっぱアルテ様なら分かってくれるって言っただろ! 一発だ!」
「うん、……すごいね。私――いや、ぼくって分かっただなんて。第二次性徴したのに……」
「うん、なんとなく」
第二次性徴?
……たいまつの光くらいしかない中、特におひげとか見えないけども。
【朗報・姉弟、高校生?くらいになっても男装&女装継続】
【え、逆だと思ってたわ】
【それをひと目で見抜くハルちゃん】
【これは女神様】
【すげぇ】
【美人姉弟……ふぅ……】
【高身長スレンダー姉弟……】
【リリちゃんと同じ属性か……】
【いい……】
【ショタよ!! ……ショタよね? ……ショタ! ……よね? あ、ショタの匂いがしたからショタよ!!!!】
【草】
【すげぇ……一瞬でも姉御を戸惑わせたぞこの姉弟……!】
【感動した】
【草】
【でもマジでこの子たち、逆だと思ってたわ】
【普通に忍者ってか忍びの姉妹に見えたよな】
【褐色くノ一か……ふむ】
【\50000】
【えぇ……】
【でも姉御、なんか画面越しに匂い感じて判別してて草】
【なにそれこわい】
【もしかして:姉御もなんらかの能力者】
【あー】
【私、ダンジョン適正ないんだけど!?】
【草】
【知ってる】
【会社のHPのプロフに書いてあったね☆】
【ポエム書いてたブログにも書いてたね☆】
【草】
【身バレして黒歴史まで知られてる姉御】
【やっぱおもしれーけどやべー女】
【脳が……書き換えられる……】
【落ち着け、ダウナーロリ女神僕っ子ハルちゃんで立て直せ】
【ふぅ……助かる そうだよな、ショタっぽいロリが最高だよな!】
【草】
【そうよ、ハルきゅんはショタよ!!】
【このショタコンは……】
「GU……」
かなりのダメージ――HPは半分を割り込んでるどころか3割くらいになってそうだし――を受けた……えっと、侍っぽい格好の巨体が、ゆっくりと起き始めている。
「アルテさま。来るとき、ノームさまが言ってました! このあとがあるので魔力、節約してほしいって!」
僕は、さりげなく胸元をくすぐってきてたノーネームさんの手を掴んで、聞く。
「……そうなんですか?」
「そう」
わきわき。
なんでか僕の体をまさぐっていないと気が済まない――きっと猫とか犬がじゃれてる感覚なんだろうその手を、ゆっくり下ろさせる。
「なんで直接言わないんですか?」
「ないない」
またわきわき。
「僕たち、ずっと一緒に居ましたよね?」
「ないない」
また下ろさせる。
ほとんど離れないでずっと一緒で、ずっとくっついてるのにね。
【あの】
【ノーネームちゃん……お前……】
【ノーネームちゃん! セクハラはいけけけけけ】
【ノーネームちゃん!!!】
【草】
【ハルちゃんが気にしてないせいで、このセルフ百合出産コピーっ子がセクハラばっかして……】
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