516話 ボスにちくちく急降下ゼロ距離爆撃
「――はぁっ!」
「どっせい!」
「良い!? とにかくみんなは攻撃を受けないことにだけ集中して! 私たちじゃ軽い傷以外は治せないから!」
「相わかり申した――皆の者、女神様、使徒様に余計な心配を掛けぬ程度に気張れぇ!」
「「「応!」」」
すばしっこいお姉さんが一撃を入れ、それに対応しようと動き始めたイモリさんの視界外から弟くんが一太刀。
与えるダメージ自体は少ないけども、この子たちにはこういう、陽動と攪乱みたいな戦い方が似合っているね。
たぶん、あの5人の中で最も斥候職が似合っている子たち。
アリスさんとアレクくんは、疲れも見せずにちょこまかと――2人でお互いに注意を引き合って、ボスのトカゲさんからみんなへのヘイトを逸らしている。
無駄におっきくて重い鎧を着けてるからか、ヤモリさんは2人からの攻撃に対処しようとしてダメージを受けるループに入ってしばし。
それでもときどき「相手しちゃダメだ」って気づいて、爬虫類さんから離れたところで取り巻きたちと戦っているおじいさんたちへ目を向けようとするも、
「GUAA!?」
「わ、私だって安全圏からならへっちゃらなんだから!」
――と、近接線に向いてないけども5人一緒に鍛えてたおかげで、2人と連携がとれているキャシーさんが魔法攻撃。
それでダメージ受けて一瞬ひるむあいだに体勢を立て直した姉弟が攻撃を再開。
うん、完全な――ダンジョンでのボス戦のお手本みたいなコンボになってるね。
もっとも、僕、そんなのはほんとに最初の頃にるるさんとえみさんのダンジョン攻略配信をちょろっと見たときの、コメント欄の人たちが訳知り顔で語ってたのの聞きかじりなんだけどね。
【ハメコンボループに入ったか】
【いいね】
【あの子たちも、難易度的に中級者ダンジョンの中ボス程度なら撃破できるくらいのレベルだろうし】
【ハルちゃんと延々狩って回ってたからね】
【ああ、「かり」だもんな】
【あの子たちのカタコトでの「かり!」かわいかったんだけどなぁ】
【まぁ今も個性豊かでかわいいし……】
上を見れば、ひょろひょろではあっても魔法や石や矢や銃弾が、校門の外側へと飛んでいる。
これで――少なくても確実に学校の周囲のモンスターたちの総HPは減り続けている。
そうだ、この――あ、両生類かもしれないね、だってモンスターさんだもん――ワニさんさえ倒せば、ダンジョンの法則的には状況が改善するはず。
たとえそうでなくとも、強い敵を倒せばみんなも気が休まるだろう。
だから、
――たぁんっ。
僕の狙撃が――ボスさんの頭のコアへ、クリーンヒット。
「GUA!?」
そんな戦場を上空から――ノーネームさんに後ろから抱えられて飛んでる僕が、急降下しながらぎりぎりまで近寄ってのゼロ距離射撃。
落下速度と銃口から限りなく近い距離での攻撃で、威力をかさ増ししてのそれは。
「おっし! アルテ様、ありがとな!」
「や、やっぱり、話せないのに戦ってたから、いつ攻撃来るか分かって安心します……!」
――けども。
「……コアには当たったのに、弾かれたなぁ……ダメージは出たけど……」
ぐんっと持ち上げられて校舎の屋上より高いところでひと息つき、ダメージの通りが悪いのに首をひねる。
【ハルちゃん……】
【ヘッドショットは決まってるのに】
【ダメージが通らないって】
【レベルが下がってるってこと……?】
かちゃっ。
前線で頑張る人たちのためにって、きちゃない袋さんの底の方から発掘した狙撃銃で頭を打ち抜いても――ダメージは通っていても、それでコアを破壊して弱らせるまでには至っていない。
けど、僕たち以外でいちばん強い子供たちの攻撃よりは、それなりに効いているはず。
【急降下爆撃だし、何秒かのけぞってたから効いてはいそうだが……】
【急降下爆撃で草】
【ハルちゃんが説明してくれないまま垂直落下したから、目の前がげろげろになっちゃったよ……】
【うわ、えんがちょ】
【草】
【こんな空気で居られる程度には、ハルちゃんが落ち着いてるから安心できるんだが】
【ハルちゃん、どんな状況でも焦ったり……いや、子供たちがピンチになったら変わるか】
【おろろろろろろ】
【ノーネームちゃん、ハルちゃんを抑えてね……あれ、怖いから……】
【深谷るる「ノーネームちゃん……ハルちゃん、大丈夫だよね?」】
「だいじょぶ」
戦いを眺めているしかない――いや、正確には、これ以上の魔力を込めようとするとノーネームさんが「んむ」って怒ってくるから、僕はただ、姉弟の攻撃ルーチンの隙ができたら打ち込ませてひるませるだけ。
このままだと――あと30分、それとも1時間はかかる。
これまでの出力なら、もっとさくっと倒せるはずなのに。
「……どうしても、ダメですか」
「だめ」
「でも」
「だいじょぶ」
ノーネームさんは――多分いつもの無表情で、ただただ僕の体をぎゅっと抱きしめながら飛んでくれている。
「もうちょっと」
「援軍……でも、ここ、隔離された空間だし、なによりあの日なら、来るはずなんて」
分かってる。
ノーネームさんは、僕の知らないことをいろいろ知ってるって。
でも、この子はいつも僕に教えてくれないんだ。
秘密主義過ぎる、ノーネームさんだから。
「ごめん」
「……良いです。ノーネームさんが、そう判断したんなら」
「しゅきぃ……♥」
……けど、僕が羽で飛ぶのさえやめさせられてるなんてね。
これじゃまるで、最初のころに戻ったみたいな感じがする。
それはそれでなんだか懐かしいし、今はみんなが居るから僕ががんばらなくてもなんとかなりそうだけどね。
◆◆◆
ないない明けです。
ですので新作を投稿し始めました。
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女装少年ジュリオンくんのお話です。
書き貯め分はもりもり投稿です。
『悪役貴族転生【女装】悪役令嬢ルート ~99通りで断罪される悪役に転生して女装したら死亡フラグが無くなる代わりに周囲の目が怖くなってくんだけど?~』
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