51話 『250Fダンジョン脱出RTA』3
【怖かった……怖かった……!】
【おろろろろろ】
【じょばばばばば】
【カメラさんが無駄に高性能なハイライト機能かなにかで崩れる床の方を中継してたもんだから、息もできない数十秒だったわ】
【成仏して】
【ハルちゃんの生還を見届けてからにする】
【草】
【さりげなく幽霊っぽいコメントが】
【こわいよー】
「こうなるならもっと弾とかいろいろ買っておいたり、ドロップも、できる範囲で拾っとけばって思いますけど……しょうがないですね」
249階層。
昔懐かしな「真後ろから地面が崩れてくる」とかいうとんでもアトラクションだった250階層から、どうにか階段にたどり着いて駆け上がった僕。
様子を見るため、いつでもジャンプできるようにしながら荷物の確認をしたりしてみた。
――結果……どうやらここからは、さっきみたいなことにはならないらしい。
とりあえずほっとするね。
問題はなんも解決してなくてもさ。
「あんなことあるんですね。 びっくりしました」
宝箱の目の前での、感知できない落下罠。
ボスモンスターの代わりに、崩れる床トラップ。
今日だけで新しい罠を2個も見つけたんだ、テンションも上がるよね。
【草】
【あんなのを体験した直後の幼女の反応がこれです】
【ハルちゃん、普通の人はダンジョン最下層が抜けて「びっくり」どころじゃすまないのよ……?】
【ほら、ハルちゃんのメンタルぶっ飛んでるから……】
【ぶっ飛んでる(やべー方向に】
【肝が据わりすぎている】
【なぁにこれぇ……】
「でも、あんなことが起きるんだったら……僕の到着が遅れていたら、リリさんしかいない状態で、あの80層で今みたいなのが起きてたかもしれませんし。 助けられたので、よしってことで」
うんうん、僕ならなんとかなるけどもさすがにあの子じゃ無理だっただろう。
や、あの子の実力は知らないけども、僕は身軽だし、逃げるのに特化しているからね。
【とりあえず救助要請はクリアしたからひと安心か】
【それくらいしか安心できる要素がねぇ……】
【草】
【でもハルちゃんが】
【大丈夫だろ】
【それもそうだな】
【急に安心してきた】
【ちょっと1杯やって落ちつくか……】
【草】
【こんなの普通は想像できないし、これでも上出来ってもんじゃないよね】
【普通っていうか、たぶんここまでのはダンジョン史上初めてなんじゃないかな】
【初めてだろうね】
【いや、初めてじゃないぞ】
【え?】
【あー……まぁいっか けっこういろんな国で、ダンジョン関係は予想外のトラブル起きてるんよ でもそれ公開しちゃうとみんな潜ってくれないからってなかったことになってる 『そういう噂』だよ、あくまで噂な 特に箝口令敷ける軍隊とかでは多い『噂』だよ】
【あっ……】
【噂ね……】
【そ、そうだね、噂ってことにしようね】
【こわいよー】
【うぇ、マジかぁ】
【噂だとしても怖いなぁ】
【さすがに今回のは隠し切れないよな?】
【どうだろう】
【ハルちゃんになんかあったら俺、どうなるかわかんないぞ】
【大丈夫だ……後で会議で】
【OK】
【ハルちゃん、手元の武器と水分とか大丈夫?】
コメントさんたちは始原さんたちだからか、ときどき雑談も入るようになった。
まぁこの人たち……1人を除いて、あと僕を除いて、顔見知りだしなぁ。
仲がよさそうで、なによりだね。
けども推されてるっていう僕以外がほぼ全員友達って……あ、ちょっと涙。
でも、足元が崩れるとかいう仕様がなくなったのをみんなもわかってきたみたいで、ちょっとは安心した様子。
「大丈夫……ではないですね。 水とかは普段の買い物とか食べ残しとか、この袋に突っ込んでおいたのでなんとかなりそうですけど」
画面に映るように掲げる、ナニカのシミとかだらけのきちゃない袋。
……これ、何回洗濯してもきちゃない見た目なんだよなぁ……あ、きゅっと紐縛っとくと中に水とか入らない素敵仕様なんだよ、これ。
「……やっぱ汚いですねこれ。 ぼろ布です。 ばっちいです。 きちゃないです」
洗っても抜けない、ばっちさ。
まぁ衛生的には問題ないし……。
【草】
【駄目でしょ! そんな汚い袋に食べ残ししまって持ち歩いちゃ!】
【なんかもう完全に小学生のそれ】
【あー、机の引き出しに入れたパンとかああいう系】
【大丈夫? カビ生えてない??】
【けどやっぱかわいい服着てるね】
「あ」
【どうした!?】
【ハルちゃん逃げて!!】
「あ、いや、ちがうんです。 ただちょっと思いだしたことがあって」
ちょっと血の気が引く感覚。
……ま、まあ、緊急事態だったし、それにきっとえみさんたちが……。
「……そうだ、この服……全部まだ、タグついてるので、買わずに盗んできちゃったことになってたり? その、試着の最中に抜け出してきたので……」
……しかも、リリさんと一緒にフリーフォールしてきたときにあっちこっち擦っちゃったから、ぼろぼろになってる……。
まだ、着てから数時間も経ってないのに……。
そうだよね……ダンジョンの装備とかドロップ品じゃない、普通の服だからね……耐久性なんてないよね……。
……大丈夫だよね?
ちゃんとえみさんたちが建て替えてくれてるよね?
今さらながらに不安になってきたけども――逆に言えば、今さらになって緊張がほぐれてきたんだろうね。
【草】
【えぇ……】
【そっちかよ!?】
【うちの――失礼、一緒にいた誰かが買ってくれてるよ、きっと】
【えみお母さんならそれくらいしてくれてるだろ】
「そうですね。 そう信じておきます。 ちがったら……あとで謝りに行ってきます。 わざと盗んだわけじゃないんです」
【えらい】
【かわいい】
【まぁこの配信見せれば大丈夫だろ、買う予定だったんなら】
【ついでにどんな服? えみるるの趣味って】
「えーっとですね。 上は今映ったみたいに袖のところまで……フリル?とかリボンとかついてるやつで、下のスタートも、なんかいい素材のやつです」
うーん、こういうときに説明する語彙が足りない。
あの3人が僕の服選んでるときの会話とか、完全に外国語ってレベルだし。
【お嬢様だな】
【いい……】
【すごくいい……】
【ああ……】
【というかハルちゃん、さっきまでこのスカートで飛び降りたり走ったりしてたの!?】
【女の子がはしたない!】
【でも男の子なら?】
【男の娘です!!】
【大変によろしい】
【うむ】
【でも姉御はいらない】
【草】
「で、髪の毛は……なんていうのか忘れましたけど、こう、左右にぴょこんとリボンで結ばされたやつです。 ツインテじゃないやつ。 後ろ髪はいつも通りです」
【あっ……(昇天】
【あっ……\50000】
【ツーサイドアップ……いい】
【わかってるじゃないか】
【さすがはるるえみ、女子力が高い】
【活発な幼女にはツインテが似合うからね】
【ツインテじゃないぞ、ツーサイドアップだぞ】
「……よしっ」
かちゃんっ。
簡単だけど、手持ちの武器――今日より前のダンジョンとかで拾ったものとかも含めて、軽く整備。
弾薬とか矢の数も、大雑把に把握。
継戦能力と脱出までの持ちも、だいたい把握だね。
「ここからは普通に攻略しなきゃですのでドロップも拾いますけど、それを抜きにすると……銃は、最初の100層も持ちません。 矢の方も……弓の弦の本数的にも、そこまで期待はできませんね」
まぁドロップ品で補給はできるだろうけども、あくまでああいうのはランダムだからなぁ。
【なるほど】
【そうだよなぁ、来るときは落ちればよかったけど帰りはなぁ】
【落ちる(落とし穴からダイヴ】
【落ちる(爆発罠で爆風を浴びながら加速】
【下から上に落ちるとかミラクルは……さすがのハルちゃんも無理か】
【順当に、普通に階段ひとつずつ上がってクリアするしかないか】
「また足元が崩れ始めたら急ぐしかないですけど、ここからはいつもみたいに静かにゆっくり攻略します。 もちろん休憩も取りながら」
【把握】
【この状況伝えなきゃ】
【あ、俺、直接――いや、事務所に連絡してさっきから配信画面、直撮りして流してるんだわ だからもう伝わってる】
【さっきから少しずつ古参以外もこの配信に入れるようになってきてるみたいだしな】
【助かる】
【直撮り……そんなアナログな手があったか】
【ロートルだからこその発想だな】
……不安がるだろうからみんなには言ってないけど、魔力はすっからかんなんだよね。
だから、ここからはミスったらおしまい。
リストバンドも救助も期待できないから、本当のダンジョン攻略だ。
「……………………………………」
ぶるっ。
そう思うと身震いする体。
――怖いんじゃない。
なんかわくわくしちゃうんだ。
そんな僕は、きっとおかしいんだろう。
その自覚は、ちゃんとある。
コメントでもよく「ちょっとおかしい」とか言われてるし。
――けども、「ちょっと」なんだから、この感覚とかわかる人もそれなりにいるんだろうけどね。
【なに考えてるのかわからないけど、たぶんちがうと思うよハルちゃん】
【ハルちゃんが黙ってるあいだって、なに考えてるんだろうな】
【ちょっとおかしい幼女にしか理解できない深淵だよ】
【草】
おっと、コメントさんたちが安心したのか、元気になってきてる。
僕も、精いっぱい元気に配信しないとね。
まぁ、戦闘少しでも回避するために、すぐに静かになっちゃうけどさ。
「じゃ、ここからはまた静かにします。 安全なときとか休憩のとき以外は黙ってても安心してください。 いつも通りなので」
【はーい】
【優しい】
【気配りのできるハルちゃん】
【すっかり配信慣れしてきたね】
【なんか嬉しいな ハルちゃんが黙ってて、こうして高レベルダンジョンを黙々と攻略するって】
【ああ……】
【ときどきでいいから見たいよね】
【本当、バズる前の、この配信そのものだよな】
【閑古鳥だけど、実はすごい内容の配信がね】
【俺たちが独占していた、懐かしい時間か……】
【あのときはよかった】
【ほんの少し前が、もはや懐古だな】
【でもたぶんハルちゃんにとってはこっちの方が】
【いいか……?】
【本当に、そう思う……?】
【わからなくなってきた……】
【悩ましいね】
【なにしろ1人になったとたんにいきいきし出してるからなぁ、ハルちゃん……】
【草】
【ハルちゃん、その気になればダンジョンでも暮らせそうだし……】
【なんならお姉ちゃんたちにお世話される生活も、野良猫が保護された的に嫌がってる説あるし……】
【そうだよなぁ、完全に野良猫だよなぁ】
【自分で狩りもできて縄張りもあって、人からは距離取るところがな】
【新参たちにも見抜かれてたし、たぶんそういう性分なんだろうな】
【新参(百万超えの登録者】
【こうして俺たち始原だけなんだからいいだろ】
【でもこの配信……直撮りでミラー配信してるけど……】
【あと、少しずつだけど、他の人も流入してるけど……】
【あっ】
【草】
【ま、まあ、他の人たちも俺たちのことは大目に見てくれるだろ……】
【メジャーデビューするまで支え続けた3年半は誰にも負けない】
【あの、私は】
【姉御は適当に荒れてる掲示板でも強襲してこい】
【ショタ愛を振り撒けば普通の荒らしは負けるからな、欲望をぶちまけろ】
【それをもって、我らが始原に対する忠誠の証とする】
【わかりました! とりあえず荒れてるところ襲撃してきます! 開示請求振りまいてきます!】
【実に頼りになる】
【強すぎて草】
【ホーミング姉御作戦で行こうか】
【草】
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