496話 僕の奥底に沈んでる記憶 その4
僕は、ただただ思いついたままにしゃべってるだけ。
きっと論理は破綻してるし、感情論だし――そもそもまだ漢字も難しい子に説明しているんだ、半分も分かってはいないだろう。
でも、僕は話し続ける。
「るるちゃんはね、きっとその偶然――『たまたま』ケガをする人が、るるちゃんも含めて多い。ただ、それだけなんだと思う」
「……でも、みんなは」
「うん、きっと怖がるよね。それはしょうがないと思う。科学と数学で全部が解明されそうになってる現代のこの国でも、みんな、呪いとかそういうのはある『かも』って、心のどこかで思ってる」
「……はるも?」
「うん、僕も。非科学的だけども、気持ちではそう思っちゃうよね」
事実と感情は、別のもの。
……小学生、しかも図書館に籠もるような子じゃなさそうな女の子には通じないだろうけども、「そうかも」って一瞬でも思ってくれたなら。
「もしかしたら僕の言うことは全部まちがってて、本当に呪いとかがあるのかもしれない。もし科学で呪いがあるって証明されちゃったら、僕の言ったことは嘘っぱちだ。――でも、今のところまだ、証明されてはいないんだ」
なんでも、さっき大ゲンカしてたあの子は1年生からの「親友」らしい。
でもでも、今朝、お母さんとケンカして出てきたからあんなことを――そういうことだそう。
そういうことが分かるんだ。
「人として」、賢い子なんだ。
「るるちゃんのそばに居ると、ケガをするかもしれない。それが知られちゃってるから、きっとみんな怖がって離れちゃう。それは呪いが実在してもしなかったとしても、変わらない。怖いものは、怖いんだ」
「……うん」
「それが起きるたびに、るるちゃんも泣きたくなるし、泣いちゃうよね」
「う――あ、ちょ、ちがうの!? るるは普段泣いたりなんか!」
あわてて両手をぶんぶんと振って「普段は泣いてません」アピールしてくる。
「きっと、悲しいと思う。いつも心がちくちくすると思う」
「……うん」
「きっと、誰も居ないところでひとりぼっちで居たいって思うと思う。もし僕が君だったらそうだから」
「……ん」
しゅん。
視線を落とす彼女。
「でもね」
そんな小さい子へ、ひとつだけ――最近の本の受け売りを伝える。
「それでも、笑ってよう」
「……え?」
「別に、わざと笑わなくたっていい。こうやって」
みよーん。
口の両端に両手の人差し指を当て、表情筋が働かない僕の口元を――うっすらとだけと、上げる。
「お口が笑った状態になるとね。こうやって手でやっただけでも不思議なもので、人の脳みそってのは誤解するんだって。『ああ、今は嬉しいんだ』って。ちょうど今読んでる脳科学の本で、すっごくえらい先生がそう言ってる」
「……そうなんだ」
「うん。人は単純だからね。お腹が空いてたら怒りっぽくなるし、眠かったらとろんとするし――嬉しくなくても笑って、それで嬉しくなっちゃうんだ。笑っちゃうんだ」
いーっ。
るるちゃんも、同じことをやって――何故か顔を赤くしてやめちゃった。
「転んじゃったりしたときってさ、たくさんの人が見てると『痛い』とか『悲しい』より前に『恥ずかしい』ってなること、ない?」
「ある……」
「血が出るケガしたとき、思ったより痛くなかったりへっちゃらだったことって、ない?」
「……帰ってから擦りむいてたって気がついて……それから痛くなったこと、ある」
「それってさ。どんなに辛いことでも――その人の気持ちとか次第で、ちょっとでも変わるってことじゃない? まぁ痛いものは痛いけど、へっちゃらになることもあるよね」
「……あ」
小さな顔に不釣り合いな、大きな目が開かれる。
「うん。だから、もしるるちゃんが良いなって思ったら、できる限り笑おう。指でそうやっても良いし、なにか楽しいこと思い出しても良い。できないときは無理もしなくたって良い」
そうだ。
気分がくさくさしてるときは何したってくさくさしてるんだ。
気分が落ち込んでるときは本の内容が入ってこないんだ。
「みんなは怖がるし、きっと辛い目にも遭う。泣きたくなるときは泣いちゃっても良い……ううん、泣かないと、心が壊れちゃう」
僕は、そっと彼女の頭に手を置く。
彼女の――光の加減か、ほんのり「桃色」に染まっている、「くせっ毛」を。
「でもね。思いっ切り悲しんで、怒って、泣いたら……すっきりするから。そうしたら、また次のすっごく悲しいときまでは、笑ってよう」
「……うん」
彼女は目を細め――両手を、膝の上の帽子でくしゃくしゃっとしている。
人って、頭を撫でられると落ちつくよね。
僕も、小さいころ泣いてたときお母さんにそうしてもらったはずだ。
せめて、僕なんかの手でも、ちょっとでも安心できるのなら。
僕はそう思いながら――彼女の、桃色に染まるあっちこっちに飛び跳ねてる柔らかい髪の毛の感触をこそばゆく感じながら――少しだけ。
ほんの少しだけ、僕の重みを分けてあげた。
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