492話 「あの日」を超えた旅立ち その5
「……ないない、する」
「また、ちょっとだけお別れですね」
えみさんが予定外のタイミングで消えちゃったけども――ついにの、お別れ。
うん、あのままだと良い雰囲気のまんまずるずる行きそうだったし……えみさんがないないされた以上、るるさんとかも諦めつくだろうし。
「ええ……ハルさん、お酒には」
「気をつけるので心配しないでくださいね」
「本当に」
「種族的に大丈夫っぽいですけど、お酒には呑まれないようにしますってば」
「メンタル的に」
「なにかに依存するのは悪いって毎日さんざん何度もたびたびしつこくこれでもかと聞かされたので大丈夫です」
【草】
【草】
【ハルちゃんが】
【さりげなく怒ってる】
【草】
【この怒濤の語彙よ】
【ハルちゃんってたまにこうなるよな】
【それが良いんだが?】
【分かる】
【分かる】
九島さんはあいかわらずにお酒に関して厳しい。
けども、少なくとも前よりはずっと優しくなってる。
この調子でいずれは目の前で飲んでても――あ、ちょっと怖い目つきになってるからやめとこ。
「……ハルちゃん」
「はい、また」
「うんっ。 ……ノーネームちゃんも一緒にっ」
「わぷ」
「うゆ」
ぎゅっ。
最後にもう1回――僕たちをまとめて、今度は正面から。
「……2人のこと、待ってるからね。 11年後の、未来で」
【ぶわっ】
【るるちゃん……】
【やっぱりるるちゃんだよな……】
【ああ……】
【ハルちゃん、早く帰ってきてね】
【るるちゃんが待ってるからね】
【くしまさぁんも待ってるよ】
【えみちゃんは……帰ってきてくれないとそのうち一般幼女に手を出しちゃって大変なことになるから早く帰ってきたげてね……】
【さりげなくかなり懐の広すぎるハルちゃんならまぁ、数千歳?とかで年上ではあるし、そもそも女神だからハルちゃんからの許可あればえみちゃんもお巡りさんに連れてかれないっぽいから……】
【草】
【草】
【あー、そうなるか】
【ハルちゃん、ただの一般幼女から幼女女神になったからね……】
【世界中の幼女が抗議します】
【草】
【最後までオチになり続けたえみちゃん……】
――ここは、地球の10年前――じゃない、11年前な、過去の世界。
それがほんとかどうかはさておくとしても、僕たちの知ってる世界とよく似た世界。
――つまりはいずれ、この世界は安定して――やがてはダンジョン配信が一般化して、子供たちの憧れの職業に――国策もあるけども――なって。
そして。
「……はい。 るるさんたちが配信者として活躍する、あの世界に戻ります。 また、コラボ配信とかしましょう。 近いうちに……必ず」
「かならず」
「ノーネームさんも、帰るんですよね」
「かならず」
「……そっか。 うん。 じゃ――待ってるねっ」
そう言って彼女は――最後にふわりと僕を抱きしめようと近づき。
温かくて柔らかいものが、僕の――――――――――
【!?】
【!?!?】
【ふぁっ!?】
【るるちゃん!?】
【もしかして:ちゅー】
【るるちゃん……!】
【ここで攻めるか】
【乙女だからね……】
【くそ、カメラさんが絶妙に口元から外れてやがる】
【どうして……どうして……】
【これじゃ肝心のどこへのちゅーなのかが……】
【うぅ……】
【こんなのってないよ、あんまりだよ】
「――――――――…………」
「……私の、大好きなハルちゃんだから」
僕に触れていた、彼女の柔らかくて温かい粘膜が――離れる。
「………………………………」
「……ちゅー」
「あ、うんっ。 ノーネームちゃんにもっ」
愛情表現をされた僕が羨ましかったのか、ノーネームさんが自己主張。
そしてるるさんに、そっと――ほっぺにキスをされて。
【ノーネームちゃん……】
【が、がんばってるのは本当だから……】
【るるちゃんにちゅーしてもらえるくらいには許してもらえてよかったねて】
【るるちゃんも……女神……?】
【!!!!】
【私たち絶壁同盟が、とうとう宗教に?】
【絶壁を崇めよ!】
【とりあえず巨乳は巨乳的にタブーにしない?】
【良いわね】
【A未満こそ至高という絶対教義を!】
【まな板とか平坦とかいう語彙は禁句ってことで】
【草】
【今感動してるとこだからイロモノたちはどっか行っててください】
【まぁハルちゃんの配信だから……】
【泣かされたと思ったら笑わされる これで良いんだよな】
「――じゃ、行きましょうか」
「ん」
――ノーネームさんに親愛の口づけをした彼女たちは、まばたきのあいだに存在しなくなっていて。
だから僕たちも……行かなきゃね。
「では、みなさん……これから、がんばってください。 11年後――戻ったらきっと、遊びに来ますから」
アリスさん、アレクくん、キャシーさん――ずっと静かだった大きいリリさん、そしてノーネームさん。
小さい手同士を繋いだ僕たちは――最後にもう一度だけ。
小さなビビさんとリリさん、町の人たちを見て……そう、つぶやいた。
◇
「……消えて、しまいましたね」
「はい……聖魔法『ないない』で、次の人々を……」
電気も水道もガスも――およそインフラと呼ばれるものが機能しておらず、世界中がモンスターに攻撃され。
けれども顕現した女神たちにより、被害を最小限に抑えられ――そしてダンジョンという空間に押し込められた、けれども実在する脅威。
まだまだ、世界は混沌の渦に叫んでいる。
だが――。
「……せめて、この世界は。 わたくしたちの王国は――世界は、もう、存在しなくなったのかもしれませんけれど」
「はい。 女神さまたちに助けていただいたご恩は、この方たちと一緒に」
人々は、瓦礫の山を見上げる。
女神が不在となり、途端に不気味なものに映るようになったダンジョンの入り口を、見つめる。
「――さぁっ、皆様! これからは忙しいですっ!」
「ええ! ――いち早く復興をさせて……女神さまを、アルム教を――こっそりと、広めていくんです!」
「おお……!」
「あのお姿を知るのが、私たちだけ……!」
「ええ。 ――なんでも、『最古参』になれるそうですよ?」
にこり。
「未来の妹」からいろいろと話を聞いた姉が、そうほほえむ。
「アルアさまに、見事立ち直った姿をお見せして……そして」
妹は――「未来の自分」から、こっそりと受け取った小さな手帳を胸に抱く。
自分の故国の言語で書かれており、今のこの世界ではたったの2人しか読み解くことのできない「預言書」とも言える内容の、それを。
いずれそれを――「始原」と呼ばれる10人で共有し、然るべき時期まで秘匿すべし、と言われたそれを。
彼女たちの瞳は――10年後、11年後の世界を、今か今かと――輝かせ、空を見上げていた。
◆◆◆
次話から20章です。
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