473話 【女神の試練と勇者の魔王討伐】
モンスターたちの中でも特に強いらしい、ドラゴンさんたち。
その中でも魔王を名乗ってた魔王さんに、その親戚さんの親戚さん。
……たぶん。
魔族さんたちってのは、生きてる限り――何度でもいろんな世界で人々を蹂躙するんだろう。
昔から、魔族とか魔物――モンスターってのは、なぜか人を襲う本能を持っている。
「なんで?」って聞いても――たぶん答えは返ってこない。
「そういう生き物だから」なんだろう。
ひどい?
それを言っちゃえば、人類だって――二足歩行をして火と棍棒を手に入れてから、短い期間で星に生きる大型生物の大半を狩り尽くし、絶滅させた。
食べ尽くした。
その人たちに「なんで?」って聞いても――たぶん「生きるため」って言う。
で、食べ尽くしたら今度は同じ人間同士で戦い合う。
それにも「なんで?」って聞いても――たぶん同じように「生きるため」って言う。
――それもきっと、魔の生き物たちとおんなじなんだ。
ただの、生存競争。
ただ、それだけ。
人がマンモスさんを狩り尽くすように、魔の生き物たちも人や動物を狩り尽くす。
ただ、それだけ。
――でも、僕は人間の側で生きているから、一方的に人間の肩を持つ。
だから、人を一方的に――もしかしたらなにかの本能で「生きるため」に「しょうがなく」人を食べて回っているだけかもしれない親戚さんを、倒すんだ。
幸いにして彼らは人間よりも頑丈で、予備の体を持つ。
命がたくさんあるからこそ、命への感覚が希薄な種族なんだ。
別に、死ぬわけじゃない。
ただ、損をするだけ。
けども今、それをしないのは――僕の、わがまま。
ひどいことだけども、きっとたくさんの世界で繰り返されてるだろう生存競争、食物連鎖、弱肉強食。
それを思うと、言葉が通じてる親戚さん――ドラゴンさん/人は、見逃したくなるんだ。
この人をみすみす生きて逃すのは「人間の敵に加担している」って非難されてもしょうがない。
けども――この人たちは本体をちゃんと安全な場所に抱えていて、予備で何度でも来るんだ。
なら。
「あの世界はちょっと面倒だからほっとこうぜ」って、なってくれさえすれば。
僕は、ただの人だ。
今はちょっとおかしなことになってるけども――精神は、人間なんだ。
人間は、せいぜいが見える範囲のことしか知覚できないし、認識し続けられない。
無数の世界だなんて、考えるくらいしかできない。
だから――僕は、僕の目の前のことだけを考えて、僕のしたいようにする。
この人たちが、ちょっとでもびびってくれて――で、性懲りもなくやってくる魔王さんみたいにストーカーさんにならないでくれたら、それでいい。
あの人みたいに叩いても叩いても懲りないのは……どうしようかって思うけども。
僕は、この世界と……地球の欧州っぽい世界と、あの異世界と――僕の産まれたはずの世界を守れたら、それだけで満足なんだから。
「……どうですか?」
だから、尋ねる。
けれども、
「――――――断る」
「……そうですか」
やっぱり、頑固なところはあの魔王さんの親戚さんなだけはある親戚さんだね。
「ハッ。 惨めで愚かで怠惰な最弱種族のことだ。 どうせ我ら長命種が午睡するあいだにすべてを忘れているだろうよ」
ぎろり。
不屈の意志をたたえた目が――僕を、睨めつけてくる。
「貴様ら神族とて、もはや数もろくに残っていやしない。 貴様とて、幾万年は生きやしない」
「でしょうね」
「ゆえに」
もはや羽も動かせない親戚さんは――勝ち誇ったように、言う。
「貴様らが忘れた頃に侵攻し、最後の1匹まで食い尽くしてやろう。 貴様が察してたどり着いた頃には、貴様ら『全てを持っていながら道楽のために最弱種族を飼っている』神族が大切にしていた『愛玩動物』の欠片をくれてやろう。 旨くない部分だけ、積み上げておいてやろう」
【ひぇっ】
【じょばばばば】
【あの、この台詞、どう聞いても魔王なんですけど……】
【ああ、強者でしかない絶望の言葉……】
【こわいよー】
【だって、魔王の親戚さんだし】
【実質的に魔王軍の幹部クラスだもんなぁ】
【けど、ハルちゃんが……】
「………………………………」
【ハルちゃん……】
【悲しそうな顔してる】
【なかないで】
【敵にも優しいハルちゃん……】
【相手は炭火焼きの仲間なのにな……】
【草】
「……そうですか」
しょうがない。
人だって、分かり合えずに戦うことも多いんだ。
意志疎通ができてもできなくても、異種族でも同種族でも争うのは避けられないんだ。
だから、しょうがないんだ。
「……ハルちゃん……?」
「ハルさん……」
「……ん」
すりすり。
ノーネームさんがほっぺをくっつけてきて、すりすりしてくる。
――まるで猫とか犬だね、ノーネームさん。
でも、大丈夫だから。
「……分かりました」
僕は振り返り――ぼろぼろになりながらも最下層にたどり着いた、この世界の住人/勇者たちへ、告げる。
「――あの『魔王』を、みなさんで討ち取ってください。 きっと、この先何十回でも戻ってきますけど――それでも、だんだん弱くなっていきます。 それを倒し尽くせたら――あなたたち全員が、勇者って名乗れますよ」
【ハルちゃん……】
【しょうがないよな】
【あの、ノーネームちゃんがハルちゃんにすりすりしてて】
【ノーネームちゃんだからな】
【ノーネームちゃんだからねぇ】
【草】
【でもこれ……】
【ああ】
僕は、みんなに語りかける。
「僕たちが弱らせた魔王を、討ち取ってください。 ――ここまででで、あなたたち人間の『僕たちに見守られながらのチュートリアル』が終わるんです」
【これが、神話だ】
【そうか……11年前のあの日に、全てが……】
【神様がつきっきりで、護ってくれてたんだな】
【ハルちゃん……】
◆◆◆
明乃ちゃんが完結しました。
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