465話 リリさんはそっとしておこう
「出番のためなら! アル様とノーム様のためなら!」
「そうですか」
「はい!」
「じゃあ静かに着いてきてくださいね」
「はい! ……すんすん……」
リリさんは、イスさんを器用に操作して――僕たちの真後ろへ。
そして、たぶん後ろになびいているであろう髪の毛を。
「……鼻息は抑えてくださいね。 できる限りでいいので」
「すんすん!!」
「……行きましょっか、ノーネームさん」
「ん……」
【悲報・ハルちゃんもお手上げ】
【ノーネームちゃんも、なんか疲れた顔してる……】
【もうだめだ……】
【草】
【ハルちゃんすら諦めるリリちゃん】
【やっぱリリちゃんキャラ崩壊してるって】
【ま、まあ、本当にこの1年間出番ないないだったのを自覚してたらそうなる可能性も……?】
【出番ないないで草】
【出番ないないって】
【出番ないないかわいいいいいいいいい】
【草】
【えぇ……】
【朗報・出番ないない、ノーネームちゃんのお気に入り】
【ノーネームちゃんかわいいいいいいいいいいいいい】
◇
それから僕たちはがんばった。
……まうしろですんすんすんすんされるのを気にしないようにしながら、初心者の人にとって脅威になりそうなモンスターたちを倒すのに。
「ふぅ……じゃ、僕たちもここで休憩してるので」
「最大効率で戻って参ります!!」
「や、ゆっくりで良いですから。 どうせ町の人たち、今チュートリアル中だからゆっくりでしょうし」
「分かりました!!」
「や、だから……あー、行っちゃった」
ふぃぃぃぃぃん。
ドロップ品を満載したイスさんが、それでも負けない機動力でひゅぅぅぅんって飛んでいく。
「……ノーネームさん」
「ん」
「リリさん……あとで嗅がせてあげましょう」
「かがせる」
「あれ、たぶん何かがあってテンションがおかしくなってそうですし」
「もむぅ」
「戦闘中に嗅がれるよりは、お酒でも呑んでぼーっとしてるときに嗅がれる方がまだマシです」
「まし」
あの子のあの感じ、僕には見覚えがある。
るるさん――彼女が、本当に出会ってしばらくまでのあいだ、僕は別に良いって言ってるのに律儀にも変に恩義を感じて役に立とうってしてたときの、あの感じだもんね。
「……けど、嗅がせるだけでご褒美だなんて、えみさんみたいな対処法ですね」
「すんすん」
「ノーネームさんも嗅がれましたか?」
「すんすん」
「そうですか」
【草】
【ハルちゃんが……遠い目を……】
【ハルちゃん……】
【おいたわしい……】
【まさかここへ来てハルちゃんがおいたわしい枠になるとは……】
【そっか、ハルちゃん、サバトを知らないから……】
【あー】
【毎晩夜な夜な2時間くらい5人の子供たちに囲まれて体じゅうの匂いという匂いを嗅がれ尽くしてたの、知らない方が良いと思う……】
【草】
【草】
【ハルちゃん、意外とかわいそう……?】
【ま、まあ、それ以上に多方面に迷惑掛けてるから……】
【人助けしまくってるけど、そのせいで新発見で翻弄されてる人たちでね……】
【かわいそう】
【かわいそう】
【ここまでいつもの】
【これからはたまにハルちゃんたちも加わります】
【草】
【斬新すぎる展開で草】
◇
たぁんっ。
「んー……ここ、やっぱ初心者向けのダンジョンじゃないですね」
たぁんっ。
「今回はチュートリアルのために、強いのは僕たちが掃討しましたけど……僕たちがいなくなったら、みんなのレベルが上がるまでは立ち入り禁止にしないと。 でも、あんまり長く放置するとモンスターが溢れちゃうし……」
たぁんっ。
びしっ。
たぶん、10階層を過ぎたくらい。
……出てくるモンスターたちのほとんどを倒すことになっているから、つい漏れちゃう考え。
「中級者向け……や、このペースだとボスは上級者向けのモンスターかな。 他のダンジョンまでこのレベルだとすると、僕たちが離れるまでの期間を延ばさなきゃ」
たぁんっ。
「……や、延ばしても、今朝まで一般人だった人たちを、才能ある人だけとはいえ上級者にするのは不可能だろうし……」
【ハルちゃんが珍しくぶつぶつ言ってる】
【すっごく珍しいな】
【それほど困ってるんだろ】
【出てくるモンスター……うん、現代の基準でも、すでにちょこちょこ上級者ダンジョンに出てくるのだと思う】
【やっぱりか】
【私、中級者やってるけど……今ハルちゃんが倒したの、私でも倒せなくもないけど、パーティー全員で最低でも1体につき数分はかかるもん】
【ダンジョン潜り、4年くらいやってる俺もだ】
【ダンジョン自体は小さめとはいえ、1体1体が強いとなぁ】
【それにしても なんかハルちゃん、威力抑えめ?】
【確かにな】
【普段のハルちゃんなら、石さん投げて倒せるはずなのに】
【まぁドロップ品の銃と弾が豊富だからこっちのが楽ってんならそれで良いんだけど……】
【全力出しても疲れるだけだし、倒せる範囲で手を抜いて休んでるんだろ】
「……ノーネームさん」
「せつやく」
「……ですね」
たぁんっ。
……うん、弱くなってる。
魔力もそうだけども、なんかこう……全体的に弱い感じになってきてる。
これはあれだ――僕が男からこの体になったばっかのときほどじゃないけども、男だったときにカゼ引いたり寝不足だったりお酒が残った状態だったりでダンジョンに入ったとき。
そういうときは大抵うまくいかなくって、力も入らないし命中力も貫通力も威力も落ちるんだ。
今は、スキルのおかげで外すことはない。
けども、石を何個も当てて回るのは……きっと疲れる。
「……少し、休憩入れましょう。 リリさんもきっと、さっき別れた時点からのドロップ品回収してくれてるでしょうし」
「おやすみ」
「ほら、あそこにちょうど良いくぼみありますよ」
「くぼみ」
【草】
【草】
【もしかして:ハルちゃんたち、鳥かなにか】
【まぁ羽生えてるし……】
【ずっと飛んでるし……】
【ああ、だからずっと、隠れてたころからダンジョンの中ではくぼみに毎回登ってくつろいでたのね……】
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