455話 みんなと、「ダンジョン攻略配信」
「みんなで力を合わせて。 ……外から一時的に来てる僕たちじゃない、ここに住んで、ここに守るべきものがある、みなさんが」
遠くでは、頻繁に爆発音やモンスターの遠吠えが聞こえている。
この町の外側も――旧市街の外ですら、モンスターたちに追われている。
「自分の力で、乗り越える。 ……そうすれば、きっと――みなさんは、次の世代に自慢できちゃうんです。 『この町は、今生きてる人たちは――僕たちが、自力で守り抜いたんだぞ』って。 『守ってもらった』じゃなく、です」
きゅっ。
ノーネームさんが、手を握る力を一瞬だけ強める。
うん。
きっと、君も同じ想いなんだね。
誰だって、本当は自分でなんとかできるようになりたいんだ。
でも、それが持って産まれた能力とか住んでる場所とか、家族とか友達とかいろんなものでできなかったりする。
……でも。
少なくとも今、ここで、この人たちなら。
【ハルちゃん……】
【ハルちゃんって、基本突撃してみんなを守って回ってばっかりだと思ってたけど……】
【確かに】
【そうだよな そうしていきなりダンジョンに素潜りしたり、店で簡単に揃えた装備だけで潜ったり、自分だけ残ってソロ攻略したりしてみんなをひやひやさせてたもんな】
【草】
【ハルちゃん……】
【ハルちゃんはね、もうちょっとみんなの言うこと聞こうね……】
【まぁそういうのも神様扱いだった期間が長かったって考えると、好き勝手やっても平気なマインドになるのも分かる】
【確かに】
【あのフリーダム幼女っぷりは神様だったせいか……】
【野良猫(女神】
【天使だよ?】
【みんなに心配かける以外は本当にね……】
【でもさ 会ったばっかの子供たちのこと、鍛えてたよな ただ守るだけじゃなくって、狙撃スキルとかやってみせたりして】
【あっ】
【ぼそっと言ってたもんね 「もし別れちゃっても、自分たちでやっていけるようにしてあげよう」的なこと】
【ああ……】
「自分で何とかする、お手伝いはできます。 ひとり立ちできるまでは、サポートできます。 けど」
「いっしゅうかん」
「……しか、居られないと思います。 でも、大丈夫です」
仮設のテントみたいなのが張られてて、そこの前で九島さんとえみさんが僕たちを見上げている。
僕は――ここからじゃ見えないけど、それでもきっと伝わると思って腕を伸ばしてその方角を指す。
「ダンジョン。 町の中にも出てきた、洞窟のあれです。 あれは、外に出てきたら脅威なはずのモンスターたちを地中に留めてくれますし――何割かの人間さんたちに、特別な力を与えてくれる、人のための場――装置です」
ダンジョン適性。
僕にもあったもの。
「……残念だけど、全員に適性は発現しません。 発現したとしても、望んだ適性じゃないかもしれません」
僕は、たまたまそれがあった。
けども、この体になるまで……や、なってもかなりのあいだ魔法なんか攻撃用のは使えなかったし、近接戦のスキルなんて皆無だった。
「でも、得られる人は居ます」
何人かの人たちが――武器っていうか、箒とか木の棒とかバールみたいなのとかを持ってた人たちが、自分の獲物を手に取って、眺める。
「得られない人だって、やることはたくさんあります。 戦える人たちを運んだり、食べものを作ったり、帰る場所を守ったり……それこそ、後ろから着いて行って攻略組のサポートをしたり、弱ったモンスターを集団で確実に倒す役割だったり。 探せば、いっぱいあります」
さっきまで税金に文句を言っていたおじさん、おばさんたちの目が――僕のことを、ちゃんと見ている。
「きっと、ひと息つくまでに1年とか、かかるでしょう。 元の平和で便利で退屈で居られる現代社会に戻れるまで、何年とかかるでしょう」
数は少ないけども、やる気満々な顔をしている子供たちが居る。
上を――前を、向いている。
「それでも――あなたたちなら、やれます。 あなたたちみたいな人たちを見てきた僕たちが、保証します。 ちょっとだけあなたたちよりも力があるだけの、僕たちが」
異世界。
真っ暗だった世界。
あそこに連れて来られた人たちは、いろんな世界で――ときには魔王さんに滅ぼされる寸前まで行きながらも、最後までがんばっていた。
そういうのを、退屈だしいちいち頭下げられて困るしだったたくさんの会談で、聞いてきた。
みんなで力を合わせて、何年も何十年も何百年も何千年も戦い続けて、それが誇りだって。
「それに。 ――――――これは、冒険です」
冒険。
そう、これは冒険だ。
平和な時代の誰もが夢を見つつも、手の届かなかった冒険だ。
「ダンジョン、モンスター――そして魔王軍。 それらに対抗するために戦って、封じ込めていく。 そして、いずれは」
僕はふと、頭の周りをふわふわ飛んでいる配信カメラさんを見る。
「――配信。 そう、いずれはダンジョン攻略とモンスター討伐が、娯楽になるレベルまで押し込めたら。 ダンジョンのドロップ品を解析して作る、命を保証するアイテムとかで、治癒魔法で死なない程度にがんばれるようになったら」
そうだ。
ああいう便利グッズがなければ、今みたいにダンジョン配信は人気になってない。
ほとんどの場合で――大ケガになったとしても、それでも死なずに戦いに挑める。
心さえ折れなければ、何度だって先を目指せる。
そう――「まるでゲームの中の世界に入ったみたい」な感覚で。
そして、「そんなゲームをプレイしている人たちを応援する配信」を見る感覚で。
「戦ってるかっこいい姿をみんなに応援してもらえて、ひいきの人を『推し』とか言えるくらいになれば。 適性とやる気がある人はみんなに褒めてもらえて、そうでない人でもがんばってる人たちを見て、明日への元気をもらえるような――そんな世界になっちゃえば」
【……それって】
【ああ……】
【ダンジョン配信産業そのものの……】
【俺たちが、何年も前からやってる……】
【そっか そうだったのか】
僕は、男だったときのことを思い出す。
ダンジョン配信。
正直不謹慎だって思ってたし、そもそもゲームか何かの話だって思い込んでた、世界規模の娯楽産業。
――世界を守って維持するついでに、あとはダンジョンで力を持っちゃってやんちゃしがちな人類を見張るための、1人1台1配信が強制される、僕のやっていた「ダンジョン攻略配信」を。
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