453話 ずっと一緒は無理――だから
「この地区の住人の大半は、逃げ遅れてしまいましてな」
「何しろほら、旧市街だから車は外に停めているか、そもそも持っていない者が多くて……」
「しかもテレビもラジオも、電話もスマホもネットも通じないと来た」
「町中にサイレンだけ鳴り響く中、私たちは取り残されたんです……」
るるさんたちのおかげで落ち着いた町の人たち。
とりあえずで1か所に集めて話を聞く限り、ここへモンスターが出現するのは初めてのことの様子。
「……ノーネームさん」
「ひみつ」
でも、ここのこと地球って言ってたよね、君。
これがどういうことなのかはさっぱり分からないけども、ひとまず地球っぽい世界で現代っぽい時代で欧州っぽい場所ってことは確定。
で、僕たちの見た目とか飛ぶこととかモンスター倒してたことで、わりと素直に僕たちを上に見てくれて言うこと聞いてくれるからありがたい限り。
羽が生えてたり魔法使ったりしてるからどうかなって思ったけども、そもそもモンスターに追い回されたりしたんだから、もう「そういう存在」って理解はしてくれてるね。
あと、みんな言葉が通じるから楽。
るるさんとか、英語でも難しいって言ってたし……るるさんたちがしゃべれなかったらもう少し大変だったはずだもん。
【空にあふれた魔王軍はハルちゃんたちがキャンセルしたけど】
【キャンセル(物理】
【ハルちゃんたち(よく似た別人さん】
【あのハルちゃんたち……】
【大丈夫だよ、きっと生きてるよ】
【そうだよなぁ、確かあのときしばらくはライフライン断絶したんだよなぁ】
【なんにもなかったところでも情報も水も電気もなくって苦労した記憶】
【それな】
【場所によっては数ヶ月途絶してたしなぁ】
【そして、全部失われた直後に直接襲われた地域……】
【国ごとないないされるレベルの甚大な被害だし】
【ノーネームちゃんがいなきゃ……】
【数ヶ月後に現地入りしたりした捜索隊も、言葉失ってたもんなぁ】
【今も無人になってる地域って、もう完全に10年間野ざらしなんだよね……】
【まさに文明崩壊……】
「しかし、まったく政府は役に立たん」
「そうだそうだ」
「普段から税金ばかりふんだくりおって、肝心なときに何もしてくれないとは」
人間は、愚かな生き物。
目先の危機を回避して、僕たちっていう「無償で助けてくれる存在」が出てきたと認識した途端に不平不満が噴き出す。
「先の大戦からすっかり平和ボケしている軍も軍だ」
「なんのために払っている税金なのよ、まったく」
【おや】
【なんか雰囲気が……】
【ま、まあ、悪口は団結するのに必要だから……】
【ああ、こういうのであっちこっち独立したのね……】
【まぁ中央から離れてるほどに救助が遅れたからなぁ】
「………………………………」
「俺たちは良かったな! 異なる世界の女神様が降臨してくださったから!」
「今だけでも良いから信じましょう! 命の危機なら、神も許してくださるはずよ!」
「町の中にもあんなにでかい洞窟ができてモンスターが溢れてきたんだ……きっと首都も壊滅だろうし、良くて軍事基地の周囲くらいしか残らない。 なら、この女神たちについて行けば……!」
「終末のラッパが吹かれたとしても、それでも生き残りたいんだ」
「………………………………」
「は、ハルちゃん……」
「……大丈夫ですよ」
しきりにお礼を言ってきているおばあさんたちに困りながら応対しつつも、その周囲で漏れる愚痴とかを聞いて振り返ってくる、るるさん。
【こいつら……】
【処す? 処す?】
【落ち着け、この人たちは死にかけたばかりなんだ】
【コメント欄の雰囲気がこわいよー】
【ハルちゃんなら、この程度じゃ怒らないだろうけど……】
【始原とか、今も現在進行形で地球と異世界で膨れ上がってるハルちゃん教徒たちが……】
【じょばばばば】
【ハルちゃん! なんか言ってみんな落ち着かせてぇー!!】
「め、女神様? ご覧の通りに私たちは何もできません……今後の身の安全や、水や食料にもご配慮いただけたらと……」
「さっき、遠くで魔法使っていましたよね? それで何かできたりしませんか?」
「おい、助けられただけでもありがたいんだぞ!」
「しかしな、頼れる存在が居ない以上には……」
――人間は、愚か。
けども、どうしようもないわけじゃない。
おばあさん、おじいさん、おばさん、おじさん。
若い人は少なめで、飛んで母親に子供。
みんな、今を生きるので一生懸命なんだ。
うん、大丈夫。
僕は、分かってるから。
「……ふぅ。 みなさん」
【ひぇっ】
【ハルちゃん怒らないで】
【ハルちゃんってば声のトーンが基本変わらないからなぁ】
【大丈夫、マジ切れのあのときみたいじゃない】
【ああ、ダンジョンを半壊させるレベルのあれな……】
「済みません! どうかお怒りを……!」
「皆もそういうことを言うのを……!」
「……ノーネームさん」
「ん」
ふわり。
僕たちは――浮く。
できるだけ羽を動かさないで、できるだけ怖がらせないように。
そうすると、僕たちの頭の上の輪っかから上に、にょーんって引っ張られる感覚とともに――僕たちは、2階の窓から見ていた人たちと同じくらいになっていた。
「ハルちゃん……ノーネームちゃん……」
下から見上げてくる形になっている、るるさん。
うん、大丈夫だからね。
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