451話 【女神&異世界勇者&現地人連合部隊結成】5
『――この方々は、異界の神々。 この町を……世界を。 お救いなされるために、多大な犠牲を支払って来てくださった方々なのです』
僕たちの前に、1歩。
リリさんが――ほどよい薄さのお胸を張りながら、少しだけ大きな声で言う。
『や、いいですから。 そういうのいいですから』
ふんすっとやけに楽しそうなリリさんを抑えたい。
やめて、僕はそういうつもりじゃないんだ。
ただちょっと、ほっとくと何人か痛い思いするかもって思ったから降りてきただけなんだ。
ノーネームさんが止めなかったから、きっとないないでなんとかなるんだろうとは分かってたけど、思わず体が動いちゃっただけなんだ。
『おお……!』
『ありがたやありがたや……』
『モンスターが居るのだから異なる世界も、神々もおわすのでしょう……』
『や、違うんです。 拝まないで』
いろんな作法でお祈りを捧げてくる人たちをなだめようとするけども、一向に収まる気配はない。
【「拝まないで」――同時通訳とか頭沸騰するわ!!】
【誰か……誰か一般市民担当の同時通訳もお願いします……ハルちゃんとリリちゃんの同時通訳だけで脳みそくたくたなの……】
【草】
【お疲れ】
【なんでどのミラーにも1人は美食の国と長靴の国の言語習得してるマルチリンガルが居るんだ……?】
【ハルちゃんの配信だからね、いろんな人が来るんだよ】
【才能の無駄遣いとはこのことを言うのか】
【い、一応配信サイトの自動翻訳でも言いたいことはなんとなく分かるし、無理しなくても……】
【ねぇノーネームちゃん? もうちょっとなんとかならない?】
【おいばかやめろ】
【ステイ】
【ノーネームちゃん、ないない以外何もしなくて】
【リョ】
【草】
【えっ】
【草】
【軽すぎて草】
【皆様へお知らせ】
【ただいまより終了するまでのあいだ、全ての言語は統一されました】
【!?】
【まーたアナウンスが……】
【もうやだぁぁぁ!! ノーネームちゃんがこの世界構成してる何かに干渉してる可能性があるって論文書き直させられるのぉぉぉぉ!!】
【かわいそう】
【かわいそう……】
【え? マジ?】
【いやまぁ、ここまで来たら……】
【なぁ?】
【書き言葉に関して、どこの国の言葉だろうとなぜか理解できちゃうようになってただけでやばかったのに……】
【あの 通訳の私、ただいまより無職……】
【草】
【かわいそう】
【ま、まあ、時間制限あるっぽいし……】
「とにかく――あれ?」
「どうかしましたか?」
「いや、なんか違和感が……んー?」
んー。
特に声が変わったわけでもないし……気のせい?
「……良く分かんないから良いです」
ノーネームさんがぼーっとしてるから大丈夫なんだろうっていう判断は間違ってないはず。
「と、とにかく……そうです」
僕たちの周りにぞろぞろと集まってきた――いつの間にかに100人超えてない?――人たちを羽ばたいて飛び越え、僕はバリケードのひとつへたどり着く。
「天使様……?」
「異なる世界なら、別の神が居ても……神様だ!」
「そうだ、女神様だ!」
「やめてってば。 ……ほいっ」
そこに積み上げられていた車、トラック、自転車、工事してるとこを守るあれ、どっかのお店ののぼり、お店のだろうテーブルとかイス。
たくさんあったそれを、レベルに任せてぽいぽいと取り払っていく。
どさどさどさっ。
「……ふぅ」
【悲報・ハルちゃん、崇められすぎて激おこ】
【まるでおもちゃ箱をぶちまけるかのような癇癪を……!?】
【草】
【違うだろ】
【そうだぞ、ハルちゃんはこういうとき聞こえなかったフリするんだぞ】
【今もしてない……?】
【ハルちゃん、感謝伝えられるの苦手だから……】
振り返ると、わたわたと走ってくる人たち。
「神様……どうか、どうかお守りくだされ……!」
「せめて、うちの子だけは……!」
「わ、ちょ、ちょっと」
そうしてあっという間に取り囲まれる。
……あれ?
これ、先にこの人たち落ちつけないと話できない?
や、他の地区とかもおんなじ状況だろうし、いくらノーネームさんのないないが便利って言っても、あのとき見たように他の世界からもわらわらと集めてるんだ。
僕の手が届くのなら、あんまり負担かけない方が良いはず。
だから、止めたいんだけど……。
「政府は会議ばかりしていてなにも手配してくれない!」
「他の国でも同じ状況だとか……!」
「銃とかは手元にないし、もうどうしたらいいのか……」
「女神よ……貴女が居る限り、私たちは生きていられるんですよね……?」
「俺、いや、私の全財産を捧げますからどうか命を……!」
わらわら。
わらわらわらわら。
【あー、群集心理】
【パニックって恐ろしいね】
【まぁこの人たちにとっては、魔王軍の出現も初めてだろうしなぁ】
【ちょっと前に空じゅうを埋め尽くしてたドラゴンたちも見てるだろうしねぇ……】
困った。
振りほどいて飛び上がっても良いんだけども、この人たち……安全とか考えずにそのまま地上から僕たちのこと走って追いかけてきそうなんだよなぁ……。
精神安定系の魔法?
そういうのは隠蔽スキルにあるにはあるけども他人には使えないし、治癒魔法系統は僕、使ったことないし。
ああ、こういうときに――――
「――――――安心、してください」
とんっ。
「ハルちゃんが居れば、絶対、大丈夫だから」
「……え?」
桃色の髪が――肩の下まで伸びたくせっ毛が、彼らから僕の視界を守ってくれている。
「るる……いえ、この方は、異界の女神を崇めるアルム教の大聖女――大神官。 ええと、こちらの宗教では……大司教とかでしょうか……このような場面には、慣れっこなんです」
「…………え」
深い緑の髪が、風にたなびいている。
「――ふぅ。 よく分かりませんが、とりあえず周囲の人たちに精神安定の魔法をかけましたけど、良かったでしょうか」
「………………」
整えられた黒髪が、ふわりと降り立つ。
【!?】
【ふぁっ!?】
【え?】
【ハルちゃんの前に……】
【ああ、そうだよな あのときにノーネームちゃんが、名指しで呼んだんだもんな】
【もしかして、このために……?】
【ノーネームちゃん、どこまで……】
「――お待たせっ!」
くるりと振り向いてきた彼女は――彼女たちは、前に見たときよりもちょっと大人びていて。
「ノーネームちゃんから助けてって言われたから来たよ! どんなお手伝い、できるのかな――――ハルちゃん」
「見たところ、また新しい場所で魔王軍の襲撃……なら、私たちも役に立てますよね、ハルた――ハルさん」
「ケガ人の治療やメンタルケアならお任せください、ハルさん」
「……るるさん、えみさん、九島さん」
「……わぁ! 私たち、ないないされ仲間ですね!」
静かになっている町の人たちの上を、ぱたぱた飛んできているノーネームさん。
「……うぇっ!? リリちゃーん!?」
「リリです!」
「ああ、やっぱりないないされていたのね」
「ぶふっ」
――そんなノーネームさんから抱えられたリリさんが。
まるで、まるで――短い期間だったけども、この4人が代わる代わるに僕にちょっかいだそうと押し寄せてきてた、あのときみたいで。
【朗報・くしまさぁん、吹き出した】
【かわいい】
【かわいい】
【あ、るるちゃんたち、あっちのカッコのままだ】
【格式ありそうな白いローブのるるちゃん、似たような服装のえみちゃんにいつもの、見れば1発で医療従事者って分かる救護班の格好のくしまさぁん】
【そしてずっとないないされてた、500階層RTA攻略のときの格好のままのリリちゃん】
【なんか、懐かしいよな】
【ああ……】
【みんなちょっと綺麗になっちゃったし、ハルちゃんはおっきくなってしぼんじゃったし、ハルちゃんをコピーしてセルフ出産して育ったノーネームちゃんもいるけど、あのときのみんなが合衆国のミサイルぶち込まれて以来に再集結だよ……】
【草】
【草】
【今! 感動! してたの!!】
【なんでことごとくにぶち壊そうとするコメントが……】
【だって、全部ほんとのことだし……】
【そうだけど……】
「……ノーネームさん」
「ん」
降り立った彼女が、いつものように手を繋いでくる。
その顔を見ながら――あのときの4人の女の子たちを見上げながら、僕は言う。
「まずは、この町を。 町中のダンジョンも片づけたら他の町も。 ……たぶん主犯格な、あの懲りない魔王さんから」
空を、見上げる。
青い、空。
なんだか懐かしい、空。
「――僕たちで、みんなで。 守りましょう」
◆◆◆
ハルちゃんの年内投稿は今回でおしまいです。
次回は1/6月曜日より、また基本平日毎日投稿となります。
ハルちゃんと子供たち、コメント欄たち――そしてヒロインたち勢ぞろいでの大立ち回りを、ぜひお待ちください。
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