444話 【速報・ハルちゃん】
「この先は?」
「ないないさき」
「子供たちが居るんですよね?」
「ほかにも」
「? 他にも?」
「ん」
こくりとうなずき、ばさりと羽を狭めたノーネームさん。
「よっ、と……」
まるで、大きな翼を持った鳥が急降下するような。
そんなイメージで、僕たちは――下へ、加速していく。
「ん……あったあった」
ごそごそ。
片手で腰に付けたきちゃない袋さんを漁った僕は、目当ての形のものを引き当てる。
きちゃない袋さん……収納袋ってすごいよね。
中がどうなってるのかさっぱりだけど、手を突っ込んでごそごそやると使いたいのが手のひらに吸い付いてくるもん。
「片手しか使えないのは……あ、ありがとうございます」
「ん」
――ぴりぴり……きゅぽんっ。
お酒の瓶取りだしたはいいけども、そういや栓はどうしよって思ってたら、ノーネームさんが手を差し出してきてくれて、景気づけのお酒のフタを開けてくれる。
「ささ、ノーネームさんからまずはひとくち」
「んくっ……ぷへ」
「おいしいですか? ……んっ、ぷはっ」
下から喉に、胃に染み渡るアルコールの刺激。
感覚的には何ヶ月かの熟睡から醒めた僕は、今度こそ意識がはっきりした。
「かんせつ……」
「ぽ」
「んくんく……ん? 何か言いました?」
「ないない」
「? じゃ、忘れちゃってたあの子たちのこと、迎えに行きましょう」
「ん」
「……んくっ」
そうだ。
僕は、あの子たちを拾わなきゃいけないんだ。
拾って、あの子たちの親御さん……は居なさそうだけど、せめて雰囲気似てて面倒見てくれそうな、優しい大人の元に預けなきゃいけない。
「5人全員届けてからようやくに、るるさんのとこに帰れるんだ」
寝る前。
また泣いてたるるさんの顔が、浮かぶ。
「……もうちょっと、待っててくださいね」
そうして僕たちは――真下に見えてきた、明るい光の中に吸い込まれていった。
◇
ひゅうううう。
冷たい風。
明るい光。
僕たちは――暖かい世界に来たらしい。
【ああああああああ】
【ハルちゃああああああん】
【わああああああん】
【本物のハルちゃんだぁぁぁぁぁ】
ないない中の暗くてじめじめして居心地の良かった空間から、まぶしい空間に出そう。
それが分かってたから片目だけ閉じるっていう、ダンジョンの中での索敵の基本術でおめめは慣らしてあったから、すぐに片目だけだけど周囲を認識。
……いや、これ、明るいとこから暗いとこで使うやつじゃ?
そうは思うけど、実際見えてるんだからいいや。
あ、普通に開けたらもう片方の目も見えてた……索敵スキルってすごい。
【やっぱちっちゃくなってるぅぅぅぅぅ】
【でもかわいいいいい】
【かわいいいいいいいいいいいい】
【かわいいいいいいいいいいいいいいい】
【ちょっと待って、どれが感激のコメントでどれがないないコメント?】
【草】
【お前! お前!!】
【わらっちゃったじゃん!!!】
【だって……】
【気になるのは分かる】
ひゅうううう。
さっきまでよりも格段にすごい風の音。
ばさり。
僕たちは息を合わせて羽を広げ――ふわりと浮き直す。
「……欧州?」
「おうしゅう」
ガイドブックとかの表紙になってそうな、煉瓦色と白色の古い町並みを、遙か上から見下ろしていた。
すぐ近くに長い海岸線、エメラルドグリーンの海。
「はえー」
「はえー」
綺麗だなぁ。
今までが基本暗くてモノクロの世界だった分、余計にね。
【草】
【かわいい】
【かわいい】
【ああ……ハルちゃんだわこれ……】
【涙出てきた……】
【この気の抜けた声……ハルちゃん100%です……】
【私、今泣いてる……】
【草】
【ハルちゃんのこの声で救われる命がある】
【分かる】
「こういうの、町の教会の尖塔とかをぐるぐる昇った先から見れるんですよね。 けど、ああいうのって築何百年とかだし、しかも煉瓦を積んだだけ、しかも細かったりして実は結構怖いんですよ」
かつて観光したことのある記憶を掘り起こす。
「あとロープウェーとかで山の上から見る景色とかに近いですかね。 でもこっちの方が高いところだから楽しい気がします」
【草】
【悲報・ハルちゃん、いきなり旅行解説】
【えぇ……】
【そうだ、偽ハルちゃんにはこのフリーダムさがなかったんだ】
【草】
【そういえばそうだったわ草】
【偽ハルちゃんもがんばったし、消えちゃった瞬間は思わず泣いちゃったけど……】
【やっぱハルちゃんはハルちゃん アクが強すぎて1発で分かるね】
【草】
「あのときは、僕、羽とか生えてませんでしたし。 こうして自由に空から観光できるのって良いですよね」
「ん」
【草】
【朗報・ハルちゃん、欧州にもぶらり立ち寄ってた】
【呑気すぎて草】
【偽ハルちゃん消失で加速した流れがさらに加速してて草】
【だって、本物のハルちゃんのボケ具合がねぇ……】
【ソレイユ王国政府公式アカウント「ハル様には我が国首都をご堪能いただきました」】
【草】
【草】
【もしもし公式さん?】
【普通の会話に入ってこないでもらえます?】
【ソレイユ王国政府公式アカウント「だって、主神がプライベートで散策されたというのはこれ以上なく名誉なことですし……」】
【草】
【分かる】
【分かるけどおとなしくしましょう】
【そうそう、公式アカウントってことは一応正式なコメントって捉えられるからさ……】
【なにこのカオスな配信】
【だってハルちゃんだぞ?】
【完全に戻ってきたな、ハルちゃんの配信での阿鼻叫喚が……!】
【楽しい意味での「なぁにこれぇ……」が堪能できるのがハルちゃんだ】
【ようやく実感沸いてきたな!】
【草】
【変なとこで共感しちゃうのがくやしい】
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