44話 『80Fダンジョン攻略RTA&救出作戦』2
「ふぅ。 ひと休み」
ずっと走り続けなのと、なによりも話してるので普段より早めに疲れてきた僕。
少ない魔力で体を補強して走り続けてるのもあるけどね。
たくさん残ってたらもっと楽だったんだけどなぁ。
るるさんので使い切っちゃったの、完全回復にはほど遠いもんね。
【ちゃんと自分の体力把握できててえらいね】
【えらいね】
【でもどう考えても走り始めてから1時間経ってるんだよなぁ……】
【おかしいよね?】
【おかしいよね……】
【いくら魔力で強化できるとしても、1時間ぶっ通しで走るとか……】
【この前俺が見た、国内ランク80位くらいの前衛たちでも、10分に1回は休憩挟んでたのに……】
【ま、まあ、レベル高ければ身体能力も高いはずだから……】
【ま、まあ、映ってないけどスカウト職ってことで、軽装備なはずだし……】
【それでもこんなの普通はできないんだけどなぁ……】
【踏みたくない罠はとことん回避して、モンスターは見えない距離からヘッドショットだもんねぇ……】
【できたら確かにすごいよな できるもんならな】
【※常人には不可能です】
【なぁにこれぇ……】
【今、何層?】
【カウント班はどこだ!】
【49層だよ】
【ありがとう】
【いいよ】
【やさしい】
【なんだか視聴者同士の奇妙な連帯感があるな】
【もしかしてこれが……】
【始原が生まれた理由……】
【草】
【ああ、繋がってしまったな……】
【繋がっちゃったね(通算2度目】
【ハルちゃんの配信はなんでこうもすべてが繋がるんだ?】
【ハルちゃんだからじゃない?】
【ああうん、もうそれでいいや】
【草】
「くぴくぴくぴくぴ」
あー、運動後の水分補給は最高だね。
入り口の自販機で買ったスポーツドリンクが染み渡るー。
【\500】
【\5000】
【\10000】
【無言の投げ銭】
【だって……いいものだろう?】
【ああ……】
【やべぇ、俺ロリコンじゃなかったはずなのに】
【娘が欲しくなってきた】
【ハルちゃん、絶対両手で飲んでるよね】
【小さいおててと小さいお口でがんばって飲んでるんだ】
【うう……】
【なのにどうして顔出しないの……】
【幼女……幼女……】
【草】
【みんなロリコンになーれ☆】
【やめろ】
【本当になるだろうが】
【この欲望をがんばって押さえてるのにひどい!】
【草】
【性癖さえ殺戮するハルちゃん……】
「ぷはっ……さすがにちょっと疲れましたね」
あー、気を抜くとすぐ実況するの忘れちゃう。
いけないなぁ……僕はもう普通の配信者になってるんだから、ちゃんとしゃべらないとね。
【ちょっ……と……?】
【ごめん、ちょっと何言ってるかわからない】
【あのねハルちゃん、普通の人はもっと早く疲れるの】
【49階層までノンストップって……えぇ……】
【ダンジョンを最速で半分以上クリアしておいて「ちょっと」……?】
【落とし穴……どんくらい使ったんだ?】
【カウント班!】
【22回だな】
【助かる】
【つまり半分くらいスキップ?】
【歩き回って階段探さなくていいからほんと早いのね】
【一切道にも迷わないし、ハルちゃんすごいなー(白目】
【こんな裏技、あったのね……】
【バグ技だけどな!】
【草】
【あったらしいね ハルちゃん以外、今日まで誰も知らなかったみたいだけど】
【知るもんか】
【知っててたまるもんか】
【誰が落とし穴の罠自分から起動して飛び降りるのよ】
【それな】
「あ、このショートカットですけど、慣れてない人はマネしないでくださいね。 やるならちゃんと50センチくらいの安全なところからちょっとずつ練習しないと」
ふと、僕をマネしてたあの子たちを思い出す。
しないとは思うけども、子供は大人に憧れちゃうものだし……あ、今の僕幼女だったっけ。
【大丈夫、普通の人は下の階に飛び降りる勇気なんてないから】
【ハルちゃん、それ必要ない注意喚起だよ】
【草】
【こんな勇気あってたまるもんか いや本当に】
【なぁにこれぇ……】
【お前らそればっかだな】
【常識を破壊された奴の鳴き声だ、哀れんでやれ】
【もはやこれしか発せないんだぞ、かわいそうなんだぞ】
【草】
息を整えるあいだに、買ったばっかりの荷物を確認。
リュックいっぱいに買っておいた弾薬は、まだ7割くらいある。
かなり戦闘をカットしたおかげだね。
それ以外の装備品とか換金忘れてるドロップ品とか、スーパーの買い物したのとか読みかけの本とか、いざってときのための避難先の鍵とか……あとダンジョンで拾ったあれこれは、この前拾った汚い袋の中に入ってる。
これ便利だよねー。
なにしろ重さもないし、ただの布だから音もしないし。
あと、入れてる物が腐らないらしいのも嬉しくって、ちょっと漁ると何日か前に買ったつまみとかが入れたばっかの状態で出てくる、優れもの。
念のためにって大切な荷物はリュックの中だけども、今度から弾薬とかも全部袋の中でいいかなぁ……重いし音も出るし邪魔だし。
収納袋って、基本的に中身なくなったりしないって言うし。
大丈夫だよね?
【三日月えみ「先ほど、ハルさんの潜っているダンジョン前に到着しました」】
【えみお姉さん!】
【まま……】
【三日月えみ「視聴者のみなさんへも情報共有です 救助要請は継続しており、リストバンドは着用――ただし本人の物ではなく、強い衝撃で故障したパーティーメンバーのもの、とのことですが現在も連絡は付いています また、すり傷程度の軽症だということです」】
【三日月えみ「要請を出しているのは、パーティーから取り残される形となった女性1名 状況と実力を判断し、パーティーメンバーの反対を押し切り、自分から残ったようです 名前は非公開ですが、いわゆる上位陣の経験があるようですから直ちに問題はないとのこと」】
【深谷るる「ハルちゃんが電話にさえ出てくれたら教えられるのに……今のところは大丈夫だって知ってたらこんな無茶な攻略しないのに……なんで……ハルちゃん、なんでぇ……?」】
【草】
【あ、思ったよりも状況はいいのね】
【でも全力で急ぐハルちゃんえらいよね】
【まぁでも、誰もここまでの無茶して向かえだなんて言ってないけどな】
【ハルちゃんはいい子なんだ……ただちょっと、ね……】
【あ? ちょっと……何だ?】
【ちょっとおかしい】
【まあな】
【否定できないな……】
【草】
【この前えみちゃんに言われたはずなのに、まーたマナーモードにしちゃってるハルちゃん】
【脱走してるときに切ってたままなんじゃ……?】
【草】
【えぇ……】
今日は珍しくドロップを拾わないから荷物は少ない。
だからか、なんだか……。
「なんか今日、体が軽い気がする」
物理的にね。
【ハルちゃんやめて】
【やめて、それフラグってやつだから】
【逃げてー】
【ああ……もはやモンスターにとってのFOEと化してるハルちゃんだから……】
【草】
【人間のFOE草】
【まぁモンスター視点だと……ね?】
【いきなり現れて何も言わずにヘッドショットかましてくる人間の幼体……FOEだこれ!】
【草】
「よし、じゃあペース上げて行きましょうか」
【えっ】
【は?】
【なぁにこれぇ……】
【今日何回目の流れよこれ】
【深谷るる「ハルちゃんやめてー!?」】
【草】
【るるちゃん……おいたわしい……】
【ハルちゃん……今までのって全力じゃなかったの……?】
【あの、ハルちゃんって本当に人間?】
【ハルちゃんは天使だって言ってんだろ】
【女神でも可】
【落ち着け始原】
【唐突な始原で草】
【モンスターは先回りして索敵して一撃で仕留めるから、被弾はゼロ 階段すら使わないで落とし穴でショートカット ……これ以上どうやってペース上げるんだ……?】
【知るもんか】
【知ってたら人間じゃない】
【なぁにこれぇ……】
【草】
「あ、これから光と音出るので気をつけてくださいね」
【はーい】
【はーい】
【はるおねーちゃーん】
【視聴者が幼女と化している】
【誰だってこんなの見続けたらなるよ?】
【それもそうだな】
【かわいそうに……】
僕は、目を付けておいた場所へ一直線。
……これ、ちょっと腕がびりびりってなるし恐いんだけど、またるるさんみたいな人がいるかもって思うと、やるしかないよね。
さっき他のパーティーの横を隠密で駆け抜けたけども、その人たちも「自分たちが1番近いから急がなきゃ」って言ってたし。
「まずは、落とし穴の罠と地雷の罠が隣接してるところを見つけます」
【えっ】
【待って】
【待ってハルちゃん】
【やりたいことがわかっちゃったから待って】
「こういう広い部屋……モンスターがいっぱいいる部屋には高い確率であるので、便利なんです」
【モンハウに喜々として突っ込んでる……】
【便利】
【便利ってなぁに?】
【なぁにこれぇ……】
【……けどモンスターたち、反応してない……?】
【ああ、さっきも別のパーティーの人たち、誰ひとりとしてハルちゃんに気が付いてなかったし……】
【隠密ってすごい】
【ちがうぞ、ハルちゃんがすごいだけなんだ】
【そうだぞ、普通は斥候職でも10メートル以内に入ったら気が付かれるもんだ】
【さっきは普通に見つかってたのに……】
【これが、ハルちゃんの本気か……】
ぐだぐだしてるモンスターたちを「これ全部倒してドロップほしいなー」って思いながら眺めて、通りすぎる。
ちなみに、モンスターたちはレベルが高いほど臭い。
野生の臭いって感じになってくる。
こういう大部屋で密集してると、それはもうかなり。
【すげ、座ってるミノタウロスなんて初めて見た】
【あの、ワイバーンがつがいでいちゃいちゃしてるんですけど】
【なぁにこれぇ……】
【俺、起動してないモンハウとか初めて見たかも……】
【いや、たぶん世界初だぞこれ】
【えっ】
【草】
【えぇ……】
【たぶん今ごろ事務所すごいことになってるね】
【かわいそうだね】
【海外のIP弾いて、かつ配信のミラーを海外用に隔離してなきゃ、ここもこの前みたく大変なことになってたね……】
【誰だ! こんなことしでかしたのは!】
【この前拾ったばっかの新人のハルちゃんです……】
【草】
【こんな新人がいてたまるか!!】
【ほんそれ】
【い、いずれそのうち誰かおかしなやつがこういうことしただろうから……】
【つまりハルちゃんはおかしいやつ?】
【やべーやつ】
【やべー幼女】
【ねえねえハルちゃんやっぱほんと人間? モンスターに育てられたとかダンジョンで生まれ育った野生児とかじゃない?】
【それとも始原が言ってるみたく、冗談抜きで天使とか女神とかエルフとか……】
【草】
【何も言えねぇ】
【否定できないところが難しいな】
【エルフか……いいな】
【女神と天使も捨てがたい】
「えいっ」
いい感じのポジションに着いた僕は、爆風の向きを計算して――爆発の罠を作動。
【「えいっ」かわいい】
【やってることはえげつないけどな】
【なんでこの子、自分から地雷起動させてるの……?】
【これがタイパってやつか】
【コスパかも?】
【たぶんちがうと思うよ】
【絶対ちがうと思う】
【悲報・くつろいでたモンスターたち、吹き飛ぶ】
【盛大にみんな宙を舞ってるね】
【綺麗だね】
【かわいそうだね】
【これが虐殺天使ってやつか……】
【ハルちゃん怖い】
【でも痺れるだろう?】
【ああ、俺の常識が破壊される衝撃でな】
【草】
「じゃ、爆風で下の階行きます」
【なるほど、爆発の罠→隣の落とし穴の罠の連続起動で加速つけながら落ちるのか……】
【自由落下から加速したな】
【宣言通りだね】
【えらいね】
【えらいのか……?】
【ああ、モンスターたちが舞う中をハルちゃんが落ちていく……】
【なぁにこれぇ……】
【地獄かな?】
【少なくともこの瞬間のここは紛れもなく地獄だね】
【深谷るる「ハルちゃんなにしてるの!?」】
【三日月えみ「……さすがに後でお説教しますね」】
【草】
【もはやるるちゃんたちが完全にただのネームド視聴者になってて草】
【有名配信者たちが傍観者になる配信……それがハルちゃんのヘッドショット配信だ】
【ああ……!】
【ねえねえ、RTAってこういうものだったっけ】
【いや、レギュレーションもクソもないから余裕で違反】
【記録は残らないけどこの配信はたぶん永遠に残るね……】
【絶対マネするやつ】
【出てくるか……?】
【こないな……うん】
【あくまで珍獣かなにかの参考資料になるだけだと思うよ】
【始原もそう思います】
【だから安心できるんだ……こんなのはハルちゃんだけだって】
【ああ……!】
【草】
【始原からも諦められてて草】
【ハルちゃん……どうして……】




