412話 眠りについた、女神さま
遠くで、光り輝く人の形をした御姿に、みなさんがため息を漏らします。
「わぁ……」
「きれい……」
「あれが女神様ってのか……」
「わ、わたくしたちも、彫像や絵画でしか……」
「飛行弓兵……しかも範囲攻撃。 さらに、全部一撃で……最強ユニットじゃない……!」
わたしたちの遙か上空から、わたしたちの遙か地上へ。
光の雨が、降り注ぎました。
「……魔物の軍勢は」
「ぜ、全部、倒したみたい……」
降り注いだ先には――無数の、宝石。
「きらきらしてる……」
「綺麗だ……」
みなさん、もう……ただただぼうっとして見ることしかできていません。
わたしだって、そうです。
普段は凜としているお姉様も、隣でお口を開けたまま。
「だって、女神さまの……ですから……」
しん。
あれだけ騒々しかったのに、あれだけおどろおどろしかったのに。
もう、空高くに女神さまが光り輝き、地上に光る宝石がその金色の光を受けてきらきらと――まるで天国のような光景になっています。
「……あんなキャラが目の前に。 私、死んだのかしら……」
ぽつり。
キャシーさまも、難しい考えを放棄されています。
……ええ、だって。
わたしたちの死の象徴でした軍勢を――たったのおひとり、ではなくて1柱で――
「あ、あ、落ちるっ」
「え、え!?」
「ま、マジかよ!? なんでだ!?」
「あまりにも敵が多くて、MPが……とか!?」
くらっ。
美しい光が薄らぎ、けれども完全に消えることはなく。
「……こちらに、いらっしゃいます」
確証はありません。
けれど――見える距離ではないはずなのに、なぜかあの御方の目が、こちらを見た気がしたのです。
「ほ、ほんとだっ」
「わ、わっ!」
「み、みなさんっ! 5人で支えましょう!」
「え、ええっ!」
「――こちらです」
慌てていらっしゃるおねえさまたちを、そっと誘導します。
「……? リリー、どうして」
「それよりもおねえさま、前を」
美しい羽が、その御方を支えて。
大空からゆっくりと舞い降りる大きな鳥のようにして――ふわり。
「わぷっ」
「すごい髪の毛……良い匂い」
「は、羽っ! 羽で何も見えないわ!」
「……わたくしたちと、同じくらい……」
5人同時に伸ばした手に、その軽すぎる体重が感じられます。
「……あなたは、女神さま? アルアさま――なのですか……?」
「……――――――……」
けれど、美しい御方は――きっと、強大な悪と戦ってこられたのでしょう。
一瞬だけわたしと目が合い、何事かをつぶやかれたあと――お眠りになられました。
「……おやすみください」
「あ、頭、軽いんだ……」
わたしたちの立っていた場所的に、彼女の頭を受け止める形になったキャシーさまが、ぽつりと漏らします。
……本当に。
あれほどのことをできる方なのに……わたしたちと、変わらない。
それに、びっくりしてしまって。
「……リリー! ま、前!」
「え? ……わ、わっ……とぉ……」
女神さまを受け止めて安心していたら、転がり出るように落ちてきた、黒い物体。
思わずで女神さまから手を離し、それを両手でなんとか受け止めました。
それは――黒い髪と黒い羽、黒い服を着た――。
「……これは、お人形さん……?」
「いえ、きっと女神さまの……ほら、お顔がそっくり……」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「……すぅ……すぅ……」
誰も。
誰も、そのあまりの強さと神々しさと……その温かさと柔らかさと軽さに、言葉も出なくて。
「……寝ちゃってる……んだよね?」
「そう、だな……」
「ね、ねぇ、このままじゃ寝にくいんじゃない、かなぁ……」
「そう……ですね。 深く眠られた様子ですし、寝具に寝かせて差し上げた方が……」
「でしたらお姉さま。 わたしたちの――お家に、お招きしては?」
なぜか、分かります。
どうしてか、分かります。
だってこの御方は「あまりくっつかれるのを好まないけれど、特段嫌がるわけでもない」のだと知って――――――
「……?」
「そう、ですね。 みなさんも、それでよろしいでしょうか」
「あ、ああ……」
「ほ、ほんとうに神様とかなら、できるだけのおもてなしはすべきよね!」
「ちょ、ちょうど今日、新しい毛布が手に入ったから……!」
――どうして?
わたしは、どうして「ハル様」のことを――――――
「……リリー? 大丈夫……?」
「…………ええ、大丈夫です、おねえさま」
何かを思いだしかけましたが、残念ながらおねえさまにお返事をするために顔を上げた瞬間――まるで「起きる前まで見ていた夢のように」、その記憶は消えてしまいました。
「……うわ……見ろよ、下の光景」
「え? きれいなんじゃ……うわぁぁ……」
「ク、クレーター……月面みたいにぼこぼこね……」
「……そういえば、みなさまの言葉が聞こえたまま……いえ、とにかく参りましょう」
「……あれ」
「……リリー?」
ふと。
下を見たあとにみなさんを見上げたわたしは、
「……アリスさまとアレクさまの髪の毛が……」
「え? ……明るくなってる!? え、ウソ!?」
「ほ、ほんとだ……魔力に反応してるのかなぁ」
「……あれだけの攻撃するほどなんだもの。 寝ていても、常時少なくない魔力を放出している可能性はあるわね。 上位存在とかってそういうバフ持ってそうだし」
「それは良く分かりませんけれど……ええ、確かにわたくしたちの髪も銀に。 それに、心なしか体も軽いですね」
――すごい。
ただ、そこに居るだけでそのような奇跡を……!
「ま、また奥から魔物出てくるかもしれねぇんだ! さっさっと引き上げるぞ!」
「そ、そうね! 倒されたからって怒ってくるかもしれないし!」
「ど、どうしよう……!?」
「……わたくしたちが家としている場所でしたら、恐らくは大丈夫……ええ、きっと。 ですから、急ぎましょう」
「……けど、この王冠みたいなの、動いてねぇ?」
「これ、まるで配信ドローン……ううん、魔法の世界だもの、そんなはずないわよね」
眠っておられる女神さまたちを、できる限りに妨げないよう――けれども、なるべく早く。
わたしたちは、運んで行きました。
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