34話 【コラボ配信】「ふたりはるるハル!」4
「……というわけで、3年くらいひたすら見つからないようにこそこそ逃げ回ったり、安全なとこでビバーグ……高いところにある、くぼみとかに潜り込んでキャンプして週末過ごしたりしたら、たぶん誰でもできますよ。 ここに実例があります」
【いや、ない】
【それはない】
【あるはずがないよハルちゃん……】
【なぁにそれぇ……】
おや?
なんかみんなの反応がおかしい。
思ったのとちがう気がする。
「? 隠れ続けるだけですから楽ですよね?」
だよね?
【ハルちゃん……?】
【それ楽って言わない、苦行って言うんだ】
【そっかぁ、ダンジョンができてからの世代はこんなに進んでたんだぁ……(おめめぐるぐる】
【それは今の世代に対する盛大な風評被害だからやめたげて】
【草】
なんかみんな僕のワザマエに興味津々だったから、意識して僕のしたこと――男だったころからしてたことを掘り起こして説明してみた。
「ほら、連休とかどうせ行くとこないですし。 だったら携帯食料とお水と、あとは暇つぶしの道具に飛び道具いっぱい持ち込んで遊んでましたし」
【遊ぶ!?】
【ハルちゃんは野生児だった……?】
【草】
【えぇ……】
「……あれ?」
やっぱりなんか、思ってたのとちがう反応。
てっきり「あーわかるー」とか「キャンプみたいで楽しいよね!」とか盛り上がるって思ってたのに。
てっきり、似たことしてる人はそこそこいるって思ってたのに。
「だってダンジョンの中ってある意味安全じゃないですか」
だよね?
【は?】
【え……え?】
【悲報・ハルちゃん、最初からやばい子だった】
【わかってたけどね……わかってたけどこれほどとは……】
「安全……なの? ハルちゃん……」
んー?
るるさんも、やっぱり変な顔してる……なんでだろ。
「だってモンスターって湧くポイント大体決まってて、湧く種類も決まってますよね?」
【そこまではわかる】
【Wikiに載ってる程度ならな】
【攻略情報はダンジョン協会に高く買い取ってもらえるからな】
【わざわざ隠す必要もないよな、金になるし】
「で、同じ場所から何時間か観察してるとわかるんですけど」
定点観測ってやつ。
まぁ数分置きに顔上げて変わったとこメモするのを繰り返すだけなんだけどね。
【ん?】
【待って】
【待ってハルちゃん、そこからわかんない】
【草】
【もうわからなくて草】
【なんにもわからないよぉ……】
【なんか時間の単位まちがってない……?】
【「何分」の言いまちがいだよね? そうだって言って……?】
「モンスターたち、移動ルート――警備するルートとか決まってるんですよね、ある程度。 僕たち人間が近づかない限りは。 なわばり的なので、滅多に入ってこない部屋とかありますし?」
僕は、じめじめしてじとじとしてしっとりしてるところが好き。
「あと、モンスターの種類同士でちょっとだけ戦力配分したり、誰かが戦ってると応援呼びに行ったりしてますし」
だから友達もいないし連休はどこも混んでるからって、せっかくなら変わったところで難しい本と格闘したいって思うこともあるよね?
【え? そうなの?】
【知るもんか】
【誰も知るはずがない情報だよ】
【※ダンジョン協会に売れば数百万単位の情報です】
【えぇ……】
【草】
【あの、普通、数時間とか……ダンジョンの学者さんでも調べないと思うんですけど】
【そういう専門のがいたらってレベルだな……】
【いはするだろうけど、そこまで研究するにも、そもそも応じてくれる人が……ああ、いたな、ここに1人だけ……】
【草】
【そもそもダンジョン内で長時間滞在するのって危険すぎるし……】
【ずっと潜って楽しむだなんて奇特な人は……】
【そんなの、いるの……?】
【いるだろきっと この世界に1人くらいなら……】
【もしかして:ハルちゃんだけ】
【草】
【そもそも普通はすぐに見つかって攻撃されるから、観察してる余裕なんてないんだよハルちゃん……】
【そもそも普通は高台のくぼみに隠れるとか発想できないんだよハルちゃん……】
【そもそも普通はそこまでたどり着く前にモンスターたちに襲撃されるんだよハルちゃん……】
「で、あんまり入ってこない部屋に、いい感じのくぼみがあったら」
なんだか楽しくなってきた僕は、るるさんに「ちょっと待ってて」って銃を預ける。
「え? あ、あの、ハルちゃん?」
とてててっと壁の1つに近づいて、上のくぼみをカメラに映す。
「そうですね、飛行系が来ないんなら5メートル。 いても10メートルの高さならまずバレませんから、こうやって」
リュックから取り出した、かぎ爪のついたロープ。
「手作りでもいいですし、キャンプ用品とかでもあると思います。 それで、手作りなら適度にコブ作っておけ……ば……っ」
ひゅんひゅんひゅんっ……かつん。
「投擲スキルがあればこうやって引っかけて、あとは登ってキャンプです」
ぎゅっぎゅっ。
紐を引っ張り、安全性のアピール。
……まぁ僕の姿は映らないんだけどね。
「はえー、そんなことできるんだー」
【はえー】
【はえー(思考放棄】
【かしこい】
【でも待って】
【ちょっと落ち着こうかハルちゃん】
【るるちゃん気をつけて、できない、できないから!】
「え? なんかみんな、そんなのできないって言ってるよ……?」
【はえーってかわいかったけど、そうじゃない】
【ダメだ、ここにはボケしかいない】
【突っ込みはどこだ!】
【えみお姉ちゃん……どこ……ここ……?】
「……なんかコメントの雰囲気からすると、ちがうっぽいよ?」
るるさんが画面を見せてくれる。
「変ですね……からかってるんでしょうか」
配信とかって、お決まりのボケとか流れがあるって聞く。
それなのかな?
【ちがう、からかってるちがう】
【ハルちゃん、これはマジメな話なの……】
【どうして……】
【普通ソロでダンジョンなんて泊まらないから……】
【ま、まあ、深いところなら1泊くらいはするのか……?】
【ダメだ、ソロの絶対数が少なすぎて集合知が機能しない】
【インターネットの唯一のいいところが台無しだよ……】
【草】
【でも何日も1人でダンジョンにいるなんて……可能なのか?】
【常識的にはナシ 数日かけての攻略だって、基本パーティーでだし】
【交代で歩哨するもんなぁ】
【なんなら食事とか荷物持ち、夜番専用の人雇うしなぁ】
【寝てるあいだに一撃でなんてあり得すぎて怖すぎるし】
【いくらリストバンドで死なないって言っても痛いし恐いしなぁ】
【そもそもね、メンタルが保たないからね……】
「あー、普通はパーティー組むからだって」
「む、なんですか。 みなさん」
るるさんの画面……に近づくと顔が入っちゃいそうだから、僕の配信画面を見てみる。
【「むっ」かわいい】
【ハルちゃんでも怒ることあるんだ……】
【お前らハルちゃんのこと……ああ、うん……】
【困ったときは、沈黙あるのみよ……】
【草】
【始原が口閉ざしてて草】
【こればっかりは擁護できないもんな】
【みんな、落ち着こ?】
【姉御!】
【髪の毛を伸ばした金髪ショタっ子が、るるちゃんのためにって女装してて、それでね】
【あ、もういいわ、姉御は黙ってて】
【とりあえず10分くらい黙ってろ】
【ひどい!?】
【草】
……なんかすごい勢いで否定されてるのを見ると、なんかムカってするよね。
「みなさんだってあるでしょ? 修学旅行とかで、みんなと移動するのがめんどくさいからって、いい感じにはぐれてみたり、自分から別行動したり」
「え? ハルちゃんそんなことしてたの?」
「いや? してないですけど。 でもしたくなりません?」
「う、ううん……私はない……かなぁ……」
【ならない】
【ならないよね】
【なぁにそれぇ……】
【そんな、自分からぼっちになるなんて……!】
【メンタルが強靱すぎる】
【ハルちゃんの個性が強烈すぎる】
【というかそうだよね……ちっちゃいけどダンジョン内限定で合法ロリってんなら最低でも中3だから、修学旅行とかあるよね……】
【これで……中3……?】
【小3のまちがいでは……?】
【身長的にも、なぁ……?】
【とにかくにもハルちゃんの学校の同級生たちは呪われるべき】
【おいやめろ、本当にるるちゃんがホーミングするぞ】
【ホーミングるるちゃんだもんな】
【忘れてたホーミングるるちゃんで草】
「あと、体育とかもめんどくさいので、組む相手が不規則になる日とかはこっそり隅っこ行って、わざとひとりでやったりするでしょ?」
【体育……ペア……うっ】
【「はーい、2人組作ってー」】
【 】
【 】
【 】
【 】
【むごい……】
【もしかして:ハルちゃん、ぼっち】
【つまり俺たち?】
【ちがう……これはぼっちの上の存在 自らぼっちになっても平気なタイプだ……!】
【一匹狼スタイルか】
【あー】
【そういう人って学年に何人かいるよね……】
【ぼっちでいても違和感なくて逆にかっこいいタイプの人ね】
【ああいう人たちって、精神の構造が違うんだよなぁ……】
【なんだ、俺たちの上位存在か】
【なんか納得したわ】
【草】
「ハルちゃん……」
なんかみんなが変な方向にダメージ受けてるらしい。
なんでだろうね。
あとるるさんも、ときどき僕にだけするような目をしてくる。
なんで?
「……とにかく、こうやって地道に経験値貯めたらそのうちなれるんです。 ほら、エキスパートになるには1万時間とか言うじゃないですか。 実際にはもっと短くていいみたいですけど」
【ああうん、そうかもね……】
【ハルちゃんにとってはそうなのかも……】
【俺たちにとっては?】
【マネできるか?】
【できないな】
【普通の人はひとりぼっち、ダンジョンで連泊とか発狂するからな】
【24時間、常に命の危険を警戒しながらぼっちとか……】
【ジャングルの中で過ごすレベルだもんなぁ……猛獣がいるタイプの】
【猛獣っていうかモンスターな】
【猛獣より何倍もやばいやつらな】
【草】
【『なるほど、ダンジョン内での滞在時間で微量ながらも経験値を……情報提供感謝する $500』】
【『失礼、上限があるようだ。 お目汚し失礼』$500】
【$500】
【$500】
【$500】
【$500】
【$500】
【『当機関も感謝する』】
【$500】
【$500】
【$500】
【$500】
【$500】
【$500】
【$500】
【$500】
【$500】
【$500】
【$500】
【$500】
【$500】
【$500】
【$500】
【『……コメントを圧迫してみなさんの邪魔になってしまうようだ。 後日事務所へ送金する』】
【うわぁ……】
【ひぇっ】
【なんて書いてあるのかわかんないけど、なんで投げまくってるのかはわかる……】
【外人怖……】
【こわいよー】
【けど、ダンジョンの中で過ごす時間でレベルが上がりやすいか……】
【単純に攻略時間が長ければ、攻撃回数もモンスター討伐数も伸びるけど】
【えっと、スニーキングスキルとかが時間経過でごりごり貯まるとしたら……やばくね?】
【え?】
【ダンジョン内で過ごすだけでちょっとずつレベルアップとか……】
【あ、ああ、自分のレベルより低いダンジョンでやれば危険も少ないし……】
【Wiki、確かにそれっぽいコメントはあったけど……】
【まぁ誰も本気にしないわな】
【無茶すぎるもんな】
【そもそもメンタル的なアレで、普通の……パーティーでの攻略でも1日最大8時間が推奨だもんなぁ】
「でもハルちゃん、配信……これまで週何回かを2、3時間とかって始原さんたちが言ってるよ?」
「ああ、それですか」
なぜか妙に明るい声とすごい笑顔で話してきたるるさんに、答える。
「それ、配信してる時間ですから」
「はぇ?」
「だから、配信してる時間。 それ以外の寝泊まりとか、うっかり顔映っちゃったりしたら困るしで切ってましたよ? 長時間潜ってると、心配もされるし……ほら、悪いですし」
実際、初期のころに連泊してたら本気で心配されたし。
「……………………………………えっ」
だから以後は「あとはリストバンドで戻ります」ってコメントして配信切って、そこからさらに潜ってたし。
【えっ】
【えっ】
【待って、知らない】
【始原知らない】
【始原驚愕】
【始原悲しい】
【始原ショック】
【始原3年半は節穴】
【草】
【始原がカタコトになってて草】
【始原が動揺してて草】
「お休みの日は10時間くらい配信したときもありましたけど……ほら、土日ならいちいち帰るのめんどくさいし、配信終わってからもしばらくうろうろして中で寝て。 で、起きたらまた、普通に家から来た風装って配信すれば楽ですよね?」
嘘も方便、心配させないための善意の嘘は必要。
そう思っているからこその心配りなんだ。
【「ですよね?」って……誰に同意求めてるのこの子……?】
【楽……?】
【この幼女の判断基準がわからない】
【えっと……】
【つまり?】
【悲報・ハルちゃん、ガチで自分から望んでぼっちになってた】
【しかもダンジョンの中っていう】
【さらには誰にも発見されず、3年も……】
【よい子のみんなはマネしちゃダメだからね!】
【大丈夫だ、普通の神経してたらダンジョンでそんな寝泊まりできない】
【やろうとしても不可能だから大丈夫だな!】
【草】
【クマの目撃情報だらけの森でバーベキューとかしながら、音楽ガンガン付けてのんきに過ごすようなもんだもんなぁ……】
【改めて聞くとやばいことしてたハルちゃん】
【良かったねハルちゃん……今気が付いてもらえて……】
むぅ。
どうやら視聴者の人たちの中に、僕と似た人はいないらしい。
「楽しいのに」
【草】
【むくれてて草】
【年相応におこなハルちゃんぺろぺろ】
【でも……たの……しい……?】
【新感覚】
【そうか、俺たちは楽しんでるハルちゃんを応援していたのか……】
【始原!】
【なんか得体の知れない喜びが湧き上がってきたな】
【3年半にして新境地に達しつつあるぞ……!】
【配信後、皆で言い合おう……そして体感しよう】
【待て始原早まるな、その道はハルちゃんしか無理だぞ】
【草】
【始原とか存在自体がおもしろすぎる】
【ハルちゃん自身が、ちょっとおかしいおもしろさ持ちだからね……】




