305話 戻って来ちゃった子供たちを助けようとして
頭が凍る。
体が凍る。
指先が凍る。
心臓が凍る。
「なん、で……」
『――――――!!』
『――!』
子供たちの、声。
それが、5つ。
聞き分け――られちゃう。
だって、ここに来てからずっと一緒だったから。
それが、僕から1番離れたところにある、地表にぽっかりと空いてる階段――セーフゾーンから。
――そして、ひゅんひゅんって、矢が放たれ始める。
見慣れたスピードで。
僕が、教えた順番で。
【えっ】
【子供たち!?】
【ハルちゃんの声】
【大丈夫!?】
【いや、誰でもなるだろ……避難してたはずなのに】
待って。
待って。
ねぇ待って。
君たちはずっと上/下に居るはずなんだ。
ノーネームさんに、そう頼んだんだ。
なのに何で君たちは、そんなに危険な場所に。
君たちはまだ、それが危険だって知ってない。
僕が戻ってないのに。
なのに、
「あ……ど……」
唇が、言うことを聞かない。
思ってることの何十分の1が漏れるだけで、気が付けば指先も震えてる。
恐怖。
人が、生存本能を刺激されるときに起きる症状。
――こういうのを、何が何でもって、避けてきたから。
だから、どうしたらいいのか、分からない。
【ハルちゃん大丈夫!?】
【やばいな】
【でもセーフゾーンでしょ?】
【あのモンスターの数を見ろよ】
【ここまで常識外な魔王軍なんだ、セーフゾーンに入る可能性だって】
「いま、……っ!?」
ぐらっ、と、無意識で伸ばした腕につられ、僕は天井から足を離していた。
魔力の制御が一瞬でも完全に途切れちゃって、頭の上の何十もの輪っかが、外側から光の粒子になって消えていって。
【え】
【やば】
【向きが】
【ハルちゃん、落っこちてる!?】
【ノーネームちゃん! ノーネームちゃん!】
必死にばさばさってやって、ようやくに落下速度自体は収まってきたらしい――けど。
「キィ――!!」
「――っ!」
当然ながら、鳥さんたちはそのスキを見逃してはくれないようで、いっせいに襲いかかってきている。
『あるー!』
『――――――!』
こんなこと、してる場合じゃないのに。
僕は、堕ちるスピードを緩めるのをやめ、羽はただただ姿勢制御だけにして。
「――あっち行け! どっか行け!」
しゅんしゅんっと石を投げていくも、震えている指先のせいで命中率はがた落ち。
そもそも、僕自身が堕ちているんだ。
だから、狙いも定まらないんだ。
【ハルちゃん……】
【ハルちゃんの声……】
【半泣き……】
【そうだよな、ハルちゃん、あの子たちのこと】
【大事にしてたもんなぁ……】
【ハルちゃんが狙いを外すだなんて】
【こんなにってのは、本当に……】
【ハルちゃん……】
……だめだ。
空からはいっせいに鳥さんたちが、スキを見つけて槍で突こうとしてくる。
ちらりと振りかえると、まだまだ遠い地面では――矢から魔法に切り替えたらしい階段の入り口の方へ、モンスターたちが向き直して移動している。
――僕への矢が、止まっている。
「――こっちだ! こっちに撃ってこい! ――アイスニードル! ファイヤーボール!」
モンスターたちの行動原理は、完全に自律していて連携している。
だからこそ瞬時に、上空の僕よりも、セーフゾーンとはいえ脅威は低いだろう、地上の子供たちに切り替えたんだろう。
そんなやつらに、魔法をどんどん撃ち込む。
命中率なんてどうでも良い、とにかく注意を引かせるんだ。
今の集中力じゃ、ホーリージャッジメントはムリ。
だから、なんとか――。
【ハルちゃんが焦ってる……】
【本当に大事だもん】
【ハルちゃん、のんびりしてるだけで根っこは優しいから……】
【ハルちゃんが泣いてる……】
【なかないで】
「このっ、このっ! こっちなのに!」
いくら魔法を撃っても、万の軍勢のほんの一部を混乱させるだけ。
そこが多少は結晶だらけになっても、すぐに周囲から補充されるモンスターで埋め尽くされて、僕の攻撃はなかったことになる。
やばい。
やばいやばいやばいやばい。
やばい。
万が一セーフゾーンを突破されたり、逆に子供たちが1歩でも出ちゃったら。
ぞわりと体じゅうの血が沸く。
そんなのは、ダメだ。
僕が守るって言ったあの子たちが、僕が気を抜いたせいでモンスターたちに食べられちゃうだなんて。
――ざっ。
僕の脳裏に、「知らないはずの光景」が広がる。
人々が、押し寄せたモンスターたちに――捕食される姿を。
誰1人として見逃されず、ぺろりと飲み込まれる姿を。
その幻を振り払った僕の視界は――セーフゾーンから顔が覗いてる子供たちと、そのすぐ目の前に迫るモンスターたちを映す。
「――待って……だめぇぇぇぇぇぇ!!」
今の僕の出力じゃ、どうしてもあとちょっとが間に合わない。
それが、僕自身の感覚で悲しいくらいに分かってしまう。
だから、思いっ切り叫んで、手を伸ばして――――――。
『【 】』
『【 :】』
『【 : ready】』
「――――――え」
そんな、声が。
「聞いたことのないはずの声」なのに「知ってる声」が、小さい声でぽつりと耳元でつぶやく。
その瞬間――――――ぼくの目の前は、まぶしいのに真っ暗な光に包まれた。
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