２０４話 最後っ屁
【如何】
「……ん。 そういうわけで、これから僕たちが、君を滅ぼします。 ……まぁその体、予備らしいですから君自身は死なないって知ってますけど」
【えっ】
【え？】
【待ってハルちゃんそれ聞いてない】
【ドラゴン……魔王って体いくつもあるの！？】
【そうらしいな……】
【えぇ……】
【じゃあ、ここで倒しても……】
【分身を倒したようなもん？】
【なぁにそれぇ……】
【でもさ、分身だったとしたって倒されたなら警戒するだろ？】
【だよな、万が一があるんなら諦めるだろ】
【ハルちゃんへのあの執着っぷり……それで済めばいいが】
ノーネームさんが心配そうな目で僕の方を見てくるから……説得は諦めた。
まぁさっきノリノリでいろいろ言ってたし、魔王さんとしてのプライド的にも素直にごめんなさいは無理なんだろう。
しょうがない、男にはよく分かんないプライドがあるんだ。
僕も男だから、ちょっとだけ分かるよ。
たとえば……年下の女の子たちにお世話されるのなんてやだし、全部自分でやりたいとかね。
あ、でも、めんどくさいときはかわいい子にお世話してほしいってのもまた、男のダブルスタンダードなプライドなんだろう。
……あとは、絶対に泣きたくないとか、泣き言なんて言いたくないとか……ね。
まぁこういう場面じゃ潔くやられるのが強者ってやつだろう。
僕ならそうする。
【せっかく自分が大帝国の皇帝してるのに、異種族の幼女相手にやらかしてうっかり死んじゃうとか考えたらなぁ】
【普通なら側近とかがやめさせるよな 「陛下！ お戯れを！」】
【「あんな異種族に発情してやらかしたら恥ですぞ！」ってな】
【草】
【ひどすぎて草】
【マジでそれでミスったら「前の王は……」って、次の王朝になっても絶対に語り継がれるやつ】
【ま、まあ、王様が特定の女性に入れ込みすぎて滅びる国とかあるから……】
【もしかして:ハルちゃんってば、傾国の幼女】
【状況的には紛れもなくそうだな！】
【問題は、ハルちゃん自身はその気がないことだな】
【いや、その気がないのが大切なんだろ】
【ほ、ほら……かぐや姫とかも本人はその気なくて大騒ぎになった話だし……】
『――――――――――――認めぬ！』
「うわっ！？」
【警戒】
さっきからずっとだんまりで、ただ浮いてるだけだった魔王さん。
だからてっきり諦めてるか、諦めきれないけども魔王さんとしてのプライドで降参ができないだけかって思ってた僕は、いきなりの大声でびくっとなる。
『認めぬ認めぬ認めぬ認めぬ――――――――何一つ認めぬ！ この世で最も偉大な種族である我ら、その頂点に君臨する我が！ ドラゴンという幾多の世界で頂点を極めし存在が！ こんな人間などと言う劣等種族の小娘にやられるなぞ！』
へー、そういうこと言うんだ魔王さん。
ちょっと幻滅。
男ならおとなしく「男に二言はない。 斬れ」って言うべきでしょ。
「そこで人間のこと劣等種族とか言うから分かり合えないんです」
『黙れ黙れ黙れ黙れ！』
……弱っているとは言え、代わりの体だとは言っても魔王さんは魔王さん。
たくさんの世界を滅ぼした頂点だ、どんな隠し玉を持ってるか分からない。
【始末】
「……ん。 ドラゴンさんに比べると劣等種族な人間の、さらに女ですし子供ですし舐められる要素しかなくってちっぽけでぽんこつな僕なんかより、同じドラゴンさんなノーネームさんに倒された方がまだマシでしょう。 お願いします」
【草】
【ハルちゃんめっちゃ早口】
【もしかして:ハルちゃん怒ってる】
【ちょい怒ってるな】
【珍しい】
【でも、そんなハルちゃんが？】
【しゅききききききききききき】
【草】
【二方面作戦か……ノーネームちゃん元気ね】
魔王さんは、弱った体に比べるとすごい魔力を集め始める。
そんな魔王さんと僕のあいだに割り込むようにしてノーネームさん。
そのノーネームさんもまた、ブレスの準備を始める。
「ノーネームさん」
【推】
【護】
【大切】
【これ……２匹のドラゴンがハルちゃんを取り合う構図になってない？】
【なってるな】
【なってるね】
【やっぱりハルちゃん、傾国？】
【だって、地球にあるダンジョンを少なくとも１個自由にできて、その上全世界のネットに介入してサーバー止めることすらできない謎のハッキング能力持ってて、人間をないないできる力あって、地球にある最大の国家の新兵器を２発退けられるノーネームちゃん VS スケールおかしいモンスターの大帝国の皇帝、な姫だぞ？】
【つまり？】
【あのドラゴンが「姫」とか言ってたの、間違いじゃなかった】
【繋がっちゃった？】
【繋がってしまったな……】
【お前ら、それ本当に好きだな】
【悪い？】
【最高】
【草】
逃げ回ってたときより回復してるからか、今日１番のブレスを放とうとするノーネームさん。
……うん、この威力なら過剰なくらいだし、仮に逃げても僕も攻撃すれば――――――
『――――――――――――爆縮』
「っ！？」
ぐわん。
空間が曲がる。
一瞬、どっちが上でどっちが下か分からなくなる。
『――この空間は、我が開いたもの』
「空間……っ」
周りの光景――色の付いてる宇宙みたいな光景が歪んでいく。
まるで、何かに吸い込まれていくように。
『空間魔法は、我の最大の力。 これで、貴様らをこの空間ごと塵にしてやろう』
「空間魔法で爆縮……つまり、ブラックホールですか」
ブラックホールは、重力が強すぎる天体。
そこに近づいただけで物体は逃げ出せなくなって……最後には光さえ脱出できなくなる。
空間魔法。
ブラックホール。
……いろんな創作物に触れてきた僕なら、その意味が分かる。
「自爆ですか。 それも、確実に僕たちを始末する……」
うかつ、って言うよりは僕の理解の外にある現象ばっかりだったから、思いつけなかった攻撃。
……そっか、世界を渡るとか言ってたもんね……こんなこともお手の物なんだね。
【ブラックホール！？】
【ハルちゃんノーネームちゃん逃げてー！】
【でも逃げるってどこへ】
【あのダンジョンだよ！】
【ハルちゃんが巣作りしてた？】
【草】
【そうなんだけど草】
【けどそれどこよ！？】
【分からん】
【もう何十分も戦って離れちゃったか】
【カメラには映っていない……か、遠すぎて……】
ノーネームさんも、ブレスは蓄えながらも……この状況で魔王さん倒しちゃったらどうなるのか分からないらしく、こっちを見て待っている。
……うん。
これ、どうしようも――
『はははは！ 偉大なる我の寛大な誘いを拒絶するからそうなるのだ！ 姫、貴様の美貌に免じて死を実感できる時間を掛けてやろう！ せいぜい悔しがるが良い！ 今さら謝り媚びへつらおうとしても――』
「僕たちに負けたから自爆で勝利宣言ですか。 小さい男ですね」
『！？』
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