186話 ドラゴン戦
ダンジョン。
僕が知ってるダンジョンは、こんなものじゃなかった。
各ダンジョンの情報がほとんど分かってて、全部パターン化してて、ゲームみたいに攻略できて。
自分のレベルに合ったダンジョンの都合の良い階層で、それもモンスターの生息情報でパーティー組んで対策して、複数人で……僕は違ったけども……レベリングするから、ミスしてもそこそこの怪我で済む。
唯一危険なのが罠だけども、それだってちゃんと警戒しながら進めば普通の人でも病院送りになるほどじゃない。
もしそうなったとしてもリストバンドが脈拍とかでショック状態を探知して、一瞬で地上の救護班さんへテレポート。
「ものすごく痛かった!」以上には、早々にはならないんだ。
つまりは、安全な冒険。
安全が確約された冒険。
よっぽど無茶やるか、よっぽど不幸か、ノーネームさんみたいなのが居ない限りにはそういうもの。
そういう場所。
そういう空間。
――それなのに、ずきずきと痛む肩。
今の僕は、ひりひりしている。
さっきのブレスを回避するので……片手、痺れてるな。
そっか。
そうだよね。
家の中とかで、タンスの角に小指とかぶつけても、普通ならそうなるんだ。
それなのに僕ってば、初心者の頃を除いたらこういう痛みとか、まるっきりなくって。
だから、どこか現実味がないゲームみたいに楽しんでたんだ。
そう、まるで小さなときにみんなで遊んでて、転んで擦りむいたりしても気にしないで遊び続けた、あのときみたいに。
じゃあ、今は?
――――――――――とっても、楽しい。
うん。
それは、間違いがないんだ。
「……とにかく周囲を回りながら――っ!?」
僕の中のいろんなセンサーが、さっきみたいに聞こえない大音量を検知。
足をくじく覚悟で勘のまま思いっ切り、すぐ近くの岩に全力の蹴り。
そしてそのまま走ってきた方向と真逆にすっ転ぶ。
――そうして、僕が突っ込むはずだった空間へ真空のブレスが叩き込まれ――またひとつ、新しい廊下ができる。
その先はずっと遠く、遠く広がっていて……先が見えない。
……殺意、高いね。
でも、楽しいね。
【何が起きてるんだ】
【分からん】
【展開が早すぎて】
【ハルちゃんが転んだことだけは】
【配信用カメラだからな、ここまで速く動くことは想定外だろうし】
【ときどき電波が不安定になるし……】
【ハルちゃん……】
「っ……」
足首が熱い。
……僕は、魔法適性があんまりないらしい。
だからろくに知らないけども、初級治癒くらいならできる。
……それでも、片腕と肩足首の熱さとしびれは消えない。
「……治癒魔法、無かったら今ごろ痛みで……またっ!」
これ以上やっちゃったら、仮に助かっても……治せずにのたれ死ぬかも。
そんな考えが浮かんでも、それよりもこの瞬間に生き延びることを優先。
この瞬間の楽しさを優先。
熱い方の足先の代わりを片手に持った銃で、ひょこひょこしながらも普段の僕からは考えられないスピードで横へ躱す。
【ハルちゃん、足やっちゃった!?】
【っていうかまたあのブレス】
【こわいよー】
【ハルちゃんが完全にぶつ切れのひとりごとになってる……】
【これまずくね?】
【まずいけど助ける手段なんて……】
――それでも僕は、生きる。
生きて、るるさんたちのところへ帰るんだから。
このドラゴンさんに勝って、勝利の美酒を味わうんだから。
「っと、そうだ、忘れてた……」
さっきとっさに飛び降りた場所。
岩陰。
そこには、突っ込む形でごっつんこしてるイス。
「……今度は、ボス戦でがんばってもらうよ」
かちっ。
――ふぃぃぃぃん。
「よし、飛んだね」
ずきずきと熱い足首も、これに乗ってればただ熱いだけ。
体はベルトで固定すれば良いし、さっきたくさん遊んだから細かい動きも大丈夫。
【良かった、残ってたイス……!】
【イスさん!!】
【俺は信じてたよイスさん!】
【草】
【あのときは散々な言われようだったのに】
【このイスがこれほど脚光を浴びるだなんて、誰が予想していただろうか】
【いや、いない(反語】
【ノーネームちゃん戦ではガス欠だったイスさんが、とうとう……!】
【肝心なときに役に立たなかったイスさんが!】
【ひでぇ】
【草】
【ついにイスさんが名誉回復、汚名挽回の機会を得るのか】
【残ってる燃料でどこまで動けるのか】
【けど、ハルちゃんの最大の欠点な機動力が】
【ああ……!】
【広いもので数発ずつとは言え、持ってる銃も効かない……】
【だから?】
【動けるようになったんだよ?】
【そうだった、ハルちゃんだもんな】
【ハルちゃんなら、きっとなんとかできるはず】
【せめて、ひるませたりして脱出できたら……】
◇
ひゅんっ、ひゅんっ。
「GRRRRR!?」
「……思い切って接近戦に持ち込めば、案外いけます……ねっ!」
【えぇ……】
【なぁにこれぇ……】
【何してるのハルちゃん……】
【何この幼女、怖っ……】
【ことごとくドン引きされてるハルちゃん】
【そらそうよ……】
【ハルちゃん、なんでバカでかいドラゴンさんに空中接近戦挑んでるの……?】
【今、1メートルくらいまで入り込んだよな……?】
【眉間に思いっ切り近づいてスリングショット叩きつけてたな】
【この幼女、ちょっとおかしい……】
【ちょっとか?】
【ううん 頭おかしいくらいおかしい】
【これ観てる俺たちの方がおかしくなる】
【もうなってる】
【ダメだ、ハルちゃんを観てると精神が汚染される……】
【草】
【なんか懐かしいな、この感じ】
【ああ、ハルちゃんがデビューしたてのころを思い出すな……】
【あの頃はハルちゃんにいちいちびびる新参を眺めながら、うまい酒を呑んでいたものよ……】
【始原!】
【来ていたのか】
【もちろん】
【当たり前でしょ?】
【あ、姉御は要らないです】
【開示請求】
【ごめんなさい】
【草】
【懐かしすぎる流れで草】
【すっかり忘れてたけど、ハルちゃんの戦いって本来はこうしてドン引きされるものよね……】
【それでこそ、俺たちのハルちゃんなわけでね】
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