183話 なんか使えたイス
「……ふぅ」
もぞもぞとイスから這い出た僕。
【収まったか】
【地下で地震とか怖いな】
【そもそもダンジョンって地震大丈夫なん?】
【分からん】
【ダンジョンの中で大きな地震って今まで無いけど……】
【大丈夫だとは思うが……】
揺れが収まって、どこもかしこも崩れてきた石だらけ。
「とりあえずで石、拾っちゃいましょう。 今日だけで相当消耗しましたし」
【草】
【もう元通りで草】
【ハルちゃんらしいな】
【このメンタルは見習いたい】
【さりげなくヘルメット被ってるし】
【ああ、ハルちゃんのかわいいあほ毛が……】
【せめてくせっ毛って言ったげて?】
ちょっとびっくりしたけども、今のところ大きく崩れたりはしてきてないし、何よりせっかくセーフゾーンに来たんだ。
せっかくだからこの部屋も……まぁ多分何も無いけど、見て回っておきたいよね。
◇
片っ端からきちゃない袋に放り込み続けて数分。
……なんか、やな感じがする?
さっきまでは平気だったのに、なんだか急に大きい気配を感じる。
「………………………………」
……索敵スキルには、なんにも引っかかってない。
だから、ダンジョンの廊下とか部屋に居るモンスターのはずがない。
なのに、その感覚は付きまとう。
「………………………………」
ううん。
それはだんだんと大きく――
「……根拠は無いんですけど撤退します。 ちょっと遠いですけど、4つくらい前の部屋なら安全な高台があったので」
【えっ】
【どうした急に】
【ここで寝るんじゃ?】
【ぱっと見、なんにもないけど】
【4つ前……走っても30分くらいかかるんじゃ……?】
【いや、もっとだぞ】
【そんなに戻るの?】
【そうでもしたい何かがあるのか?】
【なんかこわいよー】
【メンタル弱すぎだろ、ハルちゃんの方が怖いんだぞ】
【ハルちゃんのメンタルを手に入れろと?】
【この鋼よりもやばそうなメンタルを?】
【やべー幼女のやべーメンタルを?】
【ちょっとおかしいメンタルを?】
【すまん、それは無理だった】
【草】
【散々な言われっぷりで草】
……ほんと、このダンジョンで目が覚めてからしばらくだるだるした後に、疲れすぎない範囲で壁打ちレベリングしてて良かった。
うん、1ヶ月準備したもんね。
じゃなかったら後半で息切れしてただろうから、ここまで到達できなかっただろうし。
なにより体力が尽きて、今の状況でだるくなって索敵スキルとか鈍ってたり、体が動かなかったらこの選択は、取れなかったはず。
信じられるのは、やっぱり僕自身だね。
「……お、イス、動くんだ」
【お!】
【おー】
【イス!】
【イスさん動いた!】
【草】
【お前ら、だから空飛ぶバイクって呼んでやれよ草】
【だってハルちゃんがイスって呼んでるし……】
【なにより見た目が……】
【めっちゃダサい……】
【それな】
【草】
【機能性を重視したのは分かるが、もうちょっと機能美もだな……】
【マジで学校のイスに、図工の時間の工作でいろいろくっつけた見た目でしかなくて草】
【ひでぇ言われようで草】
なんとなくで、さっき潜ってから置きっぱにしてたイスに乗ってスイッチ入れてみたら「ふぃぃぃん」って浮き始めた。
「……何かで充電されてたんでしょうか……あ、そういえばこのイスのこと忘れてたので、充電とか試すの忘れてましたね。 発電機とかあったのに」
【確かに】
【俺たちも完璧に忘れてたわ】
【あんなにも役に立ってたイスさんなのに……】
【でも肝心なときに役立たずだったよ?】
【ひでぇ】
【草】
【ま、まぁ、ノーネームちゃん戦の前に相当時間短縮できたから……】
【これで行動範囲が相当広がるな】
【あれ? これってハルちゃん解き放たれたんじゃね?】
【あっ】
【悲報・ハルちゃんの未知のダンジョン配信、加速する】
【まーたハルちゃんがやらかすのか】
【確定事項だな】
【でも良かったな なんか不安だから引き返すってときに使えて】
【だけどどのくらい使えるか分かんなくない?】
【確かに】
【ノーネームちゃんとの戦闘前にもぷすぷす言ってゆっくり着地してたし、途中で墜落ってことはないだろうけど……】
「……うん、大丈夫そう」
広い部屋の中で、軽く左右のターン、急加速と急停止、スライドしながらの方向転換も試してみた。
「あのときはみんなを乗せていたので遠慮してましたけど、今は僕だけですから……いざとなれば」
ふぃぃぃぃんっと加速を付けてから――。
【!?】
【ひぇっ】
【宙返り!?】
【ウィリーどころじゃなかった】
【ハルちゃんワイルドね】
【ああ、そういやハルちゃんって落とし穴から平気でダイブする系幼女だったわ……】
【他にも背負いロケットで何十階層も飛び上がる系幼女だった……】
【泣き叫ぶるるちゃんを無視してた幼女だ、肝が据わりすぎている】
【散々で草】
【草】
「こうすれば……あ、これ、普通に燃料がどのくらいか分かれば、軽いモンスターなら体当たりで吹っ飛ばせますね」
【えぇ……】
【草】
【なんでハルちゃん、そういう方向にぶっ飛ぶの!?】
【バイクでモンスターをひき逃げ……斬新だ……】
【でもそれ、臓物自分に降りかからない?】
【あっ】
【速攻でダメって判明してて草】
「まぁとりあえずは適当なモンスターで試せば良っか」
ふぃぃぃぃん。
【だからダメなのよハルちゃん】
【このままだとハルちゃんが血まみれに……】
【もうイスに乗れなくなっちゃう】
【そもそもきちゃない袋にしまえなくなっちゃう】
【全てにおいてダメで草】
【ハルちゃんもたまには悪手を思いつくんだな……】
ふぃぃぃぃん。
「♪」
なんかちょっとご機嫌。
僕は珍しくご機嫌だ。
【かわいい】
【かわいい】
【ハルちゃん、撤退するって言ってなかった?】
【この幼女、完全に忘れておる】
【壊れちゃったと思ってた好きなおもちゃ、壊れてなかった感じだから……】
【ああうん、やっぱ見た目相応の幼女だわハルちゃん】
【草】
【早く逃げてほしいのにかわいくて草】
【なぁにこれぇ……(歓喜】
――そうして僕は、久しぶりに乗った珍しい乗り物ではしゃいじゃって。
近づいて来て――天井をぶち抜いてやって来る「それ」から、逃げられなかったんだ。
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