138話 女の子になって2日目 友達は大切、いないから分かる真実
「……あしゃ……」
重い腕を上げてみる。
……軽い腕だった。
「体、戻ってないなぁ……くぁぁ……」
昨日のは夢でもなければお酒で錯乱してたわけでもなかったらしい。
分かってたけどねぇ……こりゃあ長引くかもなぁ。
女の子になるっていう、とんでもなこれ。
まだ何かの間違いだって思いたかったけども、さすがにぐっすり寝たあとでも確かならもう認めないとね。
「……あー、また有休ー」
僕の今年の分。
働かないのにお給料がもらえるって言う素敵なプレゼントが、こんなことのために浪費される悲しみ。
ま、しょうがないか。
何も、ダンジョンの中でFOEに絡まれて一撃死とか半身不随とかが残る類いのとかじゃない。
五体満足……ある意味全部失って全部新しくなった感じだし?
長い人生、こういうこともあるよね。
きっと。
だから気持ち、切り替えないとね。
なんかすーすーするって思ったら、そういえばシャツ一丁だったのに今さら気が付く。
や、だってパンツもズボンもぶかぶかすぎて穿けないし……男のパンツを女の子の体でってのもなんかやだし。
……僕は女の子になってる。
下手すると何日、何週間……何ヶ月も続く可能性だってある。
ってことは、この姿でどうにか生計立てなきゃいけないんだ。
顔も何もかも変わってるんだ、DNAとかも完全に別人のはず。
つまり現状、僕の記憶でしか僕の連続性も確実性も保障されない。
ダンジョンの中で起きたこともないようなこーんなの、ダンジョン協会が信じてくれるとも限らない。
父さんたちが信じるかすら怪しいくらいだ。
ある日幼女が家に来て「父さんだよ♥」って言ってきても速やかに通報するもん、僕だって。
通報。
当然お巡りさんとかもダメだ。
下手すりゃ何も聞いてくれないまでありそう……だってこんな子供だし。
ダンジョンのせいで大人の男がこんなかわいい、
「……………………………………」
鏡を見た瞬間、どきって跳ねる心臓。
金色の長い髪の毛が……寝相もあって先っぽがくるくるしてて、おでこの上のとかが映画とかじゃ見ることのない乱れ方になってる。
……そうだよね、生きてる子供だもん。
そんな、幼女な僕と見つめ合うことしばし。
気が付けば息が荒くなってて、慌てて逸らす。
ふ、不整脈……不整脈だから。
そんな訳の分かんない言い訳でごまかす。
……おとといまでの僕が、こんなかわいい子になったとか、普通じゃ納得できない。
少なくとも僕なら信じられない。
だから、僕が何とかする必要がある。
「あー」
こういうときに友達……しんゆーとかいるんだったらなんとかなるんだろうけども、僕、そんなのいないからなぁ……。
いや、知り合い程度ならいるけども、突拍子も無いこと信じてくれるような素敵な人はいないかなぁ……あと、会社のある日に休んでまで来てくれるような関係の人もいないもん。
……こんなところでぼっち気質があだに。
今ってこういうの、陰キャとか言うんだっけ?
いや、違う。
陰キャさんたちだって群れるんだ。
多分。
本気で本が友達だった僕みたいなのは、陰キャってのすらなれなかったんだから。
悲しきは致命的に希薄な人間関係。
……うん。
男に戻ったら、なんとかして友達作ろ……会社の同僚だって良い、とにかく1人でもだ。
「んっ……あ、やば」
起き抜けに幼女を至近距離で見た動揺が収まってきたって思ったら、膀胱の先がやばいことに。
「と、トイレ……」
◇
朝のいろいろから2時間ほど。
僕は外に出た。
……索敵スキルの通り、誰もいないアパートの廊下をてくてくと。
まぁこのぼろアパートだから、こんな時間に居るわけないんだけどさ。
大きすぎるサンダルがぱたぱたと大きすぎる足音を立てるもんだから、ひやひやする。
……これ、ちょっとどころじゃなくどきどきするな……。
それもそのはず。
だって僕、男物のシャツだけだもん。
やってるのはただの露出だもん。
シャツ1枚で外出とか男だったら即通報でお説教と刑務所行きだけども、この体は幼女だからまだセーフだもん。
しょうがないんだもん、服がないんだもん。
「……………………………………」
いじけてくさくさしてた気持ちも、アパートの敷地から出て本格的なスニーキングミッションに入って落ち着いてくる。
……僕はダンジョンに潜ってるおかげで、普通の人にはない、隠蔽スキルってものがある。
これを最大値まで高めたら、大体の人には素通りされるはず。
「落ち着こう……」
このスキルは見えなくなるんじゃなくって、気にならなくなる程度のもの。
でも調子の良いときにやると本当に見えなくなるらしく、人混みでは「存在しないもの」としてぶつかられまくるからほどほどにね。
……けど、露出ってこんな感覚なんだなぁ。
おまたもふともももおしりもすーすーするし、なんなら背中もおなかもすーすー。
当然だ、普段ならシャツとTシャツとズボンとパンツと靴下って組み合わせがシャツ1枚なんだもん。
そのシャツも膝まで来てるから見えることはないはず。
でも、僕のおまたが空気にさらされてるって思うと、
「……………………………………」
……なんていうかお腹が熱い気がする。
あと、おまたが
「……沈静化……ふぅ……」
危ない危ない。
なんか開けちゃいけない扉、全力でこじ開けようとしちゃった気がするのと同時に……ちょっともったいない気もした。
でも多分やばいからその扉はばたんっと閉じといた。
鍵もしとこっと。
これはいけないんだ。
だって、男でさえまだなのに、先に女の子で経験しちゃったら絶対戻れないし……。
嘘かほんとかは分からないけども、僕だって人並みの知識くらいはある。
ただ実践する機会と度胸と他の全てが足りなかっただけだ。
「……けど」
いかがわしい何かから気を紛らわせるために、遠くの建物を見上げてみる。
……なんでもでっかいなぁ。
これが子供の視点、感覚か。
僕がこの身長のときって……そっか。
小学校の低学年とかだから、そりゃあ覚えてないよね。
ましてや女の子だし……ああいや、小学校までは女の子の方がおっきいんだっけ?
確か。
……つまり、この体ってば、これでも発育の良い方ってこと……?
「……………………………………」
……どんだけちっちゃくなっちゃったんだか。
ぱたぱたってうるさい足音も、スキルで無力化。
でもやっぱり不安だし恥ずかしい僕は、なるべく足音が出ないようにこそこそと隅っこを這うように歩いて行った。
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