132話 泉とお祈りと……金髪幼女と
なんだか素敵な泉を探索した僕。
……でも、なんだぁ……何もないじゃん……。
がっかりした。
僕はとてもがっかりした。
しょんぼりだ。
この気持ち、どうしてくれる。
そんなノリで落ち込んだ心を癒やす僕。
……そうだよね、初級者から中級者にお勧めの定番ダンジョン。
ダンジョン内の宝箱とか全部がリセットされる時期は、とっくに終わってる。
確かあと2ヶ月くらいはこのまんまなんだもんな。
何かあったとしても、先に来た誰かが……だよね。
あーあ、ちょっと期待して損した。
期待外れで疲れた僕は泉の近くの岩に腰を下ろしてしばらくぼーっとしてた。
……ここから歩いて登らなきゃ行けないっていう、至極当たり前な事実でちょっとダメージ。
や、僕の稼ぎじゃ、潜って1回何十万から百万単位のリストバンド使う勇気は無いしなぁ……あれって緊急性の有無で値段変わるしなぁ……。
あー、やっぱ中級者とは言っても、しょせんは副業でバイトだもんなぁ。
いつになってもぺーぺーは厳しいね。
「……ごくっ」
ダンジョン潜り中用のお酒……映画とかで出て来る、ひしゃげた金属製とかガラスのボトル、あれをちょっぴり流し込む。
あー。
あー。
良し。
お酒で元気出た。
まぁ今日も無難に、普段通りにお小遣い稼ぎしたし、さっさと引き上げて帰ろう。
定時で速攻電車に乗ってるから、今から帰っても寝るまでには3時間くらいあるんだ。
今日は何しよっかな。
気分が良くなった僕は立ち上がって、おしりをぱんぱんして……。
「……………………………………」
それにしても綺麗な泉。
観光地とかで見るがっかり泉とは違って、鍾乳洞っぽい天井になんとなく綺麗な光が充満してて綺麗なんだ。
まぁさすがに飲みはしないけども。
や、大丈夫だろうけども煮沸しないと怖いし……。
けど、何もしないのもあれだし……そうだ。
「そういえば最近近所の神社とか行ってないな」って思いだした僕。
せっかくだから適当にお祈りでもして行こう。
ゲームのような世界観のダンジョンなんだ、ゲームみたいに願いが叶う泉とかあるかもしれないじゃないか。
……まあ、ないとは思うけどね。
そんなものがあったら、今ごろ世界中の誰もがダンジョンに殺到してるもん。
けど、願い……願いかぁ。
何かあるかな。
……急に叶うと思ってみると、すぐには出てこない。
無欲ってわけじゃないけども、現状維持に満足している小市民だからね。
それに叶うって言っても、きっと、何でもというわけにはいかない。
慎ましやかな願いがちょうどいいんだろう。
僕の身の丈に合った願いが、ね。
「……近視と乱視が治りますように。 ……二日酔いが軽くなりますように」
とりあえずで、ゴーグルの下のメガネの曇りで思いついたのと、この前呑みすぎて会社が辛かったのを思い出して言う。
「……………………………………」
……叶う気配はない。
当然か。
だったら言いたいこと言っとこっと。
うさんくさいビジネス書とかで「引き寄せのなんとか」って、みんな言ってるし。
うさんくさいけども夢があるからついつい読んじゃうよね、ああ言うのって。
「もう少し体力がつきますように。 もう少し……整った顔になりますように。 女の子にモテ……なくていいです、めんどくさいのでこれはキャンセルで」
危ない危ない。
普通すぎて印象が薄い顔は良いけども、こんな願いで引き寄せられて来る女の子なんてろくなもんじゃない気がする。
何となく。
「……仕事するだけの人生は悲しいので、好きなことして生活できますように……はおおざっぱ過ぎかな」
ふと思い出してヘルメットのカメラに手を延ばす。
……良かった、配信してない。
または、配信してても画面と音声はオフ。
普段は声出しとかしないのに、いきなりこんなところで神社にお賽銭投げてるみたいな、我欲にまみれたつぶやきし出したらみんなびっくりするもんね。
せっかく普段から来てくれてる数奇な10人たちも、さすがに逃げちゃうもん。
「じゃあもっとレベルとスキルが上がって、ダンジョン攻略だけで生活できますように」
「好きなときに潜るだけで本を読んでお酒を呑むって言う幸せな生活に……これもう神社へのお参りだなぁ」
なんかもうよく分かんなくなってきた僕。
だってダンジョンの中で神社って。
なんかくらくらしてきたし。
「じゃあもう、良い感じにスローライフしてたいので、のんびり暮らせるようになりますように。 で、いいや」
ふぅ。
これ以上は思いつかないらしいし、今のところの僕の願い事ってのがこういうものなんだろう。
なんて平凡なんだろ……こう、もっと何か壮大な願いとかあってもいいのにね。
でも良いんだ、僕は毎日本とお酒を楽しめるんだったら。
帰ろ。
かちゃりと装備を拾って、じんじんし出した足で上への階段へ向かう僕。
……明日から休みだからって言って……あ、もう3時間も潜ってる。
え?
あのお願いで1時間経ってたの?
「……………………………………」
……疲れてるんだ、きっと。
うん。
何か体、だるい気がしてきたし。
もう25にもなると、遅くなるほどに疲れが響くんだ。
さっさと帰って寝てせっかくの休日を………………。
◇
【・・・】
「彼」が立ち去った後。
そこにいた「何か」は、「彼」の音声を解析。
【分析】
【解読】
【理解】
【再会】
【歓喜】
【♪】
泉は――フロア全体が虹色に光り出し。
そして、その力は――――――。
◇
そうして翌朝。
「金曜の夜って最高だなー」って夜更かししたのまでは覚えてる。
で、普段通りにお酒呑んで、良いところでぐっと我慢して歯を磨いてネタまでは覚えてる。
つまりはいつも通りだったはずなんだ。
いつも通りの会社帰りからのダンジョン潜り、からの晩酌。
そのはずだったのに。
「………………えっ?」
聞き慣れない声。
幼い声。
女の子の声。
それが、僕の口から出て来ている。
鏡の前には――金髪の、女の子。
女の子って言うよりは幼女。
だって髪の毛はながいけども、お胸無いもん。
そして寝起きで脱げたズボンとパンツ、だぶだぶになってるシャツ。
つまりはシャツ1枚な幼女。
それが鏡の前にびっくりした感じで立ってる。
……僕、小さくなってる?
なんで?
びっくりはしてるけども、どう考えてもひとり暮らしの男の家に突然金髪幼女が出現するはずもなし、五感を意識しても酔いすぎて変になってる気配もなし。
動かした通りに体が動いて、その通りに鏡の前の金髪幼女も動くし、さっき脱げたせいでおまたからすーすーするし……待って、おまた?
確かに見た目は幼女だけども……まさか?
ちょっと迷ったけども、シャツの裾……ふとももの下まで来てるからスカートみたいになってるそれをびろーんとめくる僕。
「……………………………………」
……ない。
ぶらぶらしてるものが存在しない。
「つるつるだ」
つるつるだった。
なんかすごいね。
「……………………………………」
なんか悪いことした気がするから、すっと裾を戻す。
けども今の僕が「のーぱん」なことには変わりないって言う事実が頭に浮かぶ。
けども、それ以上に。
「……僕、女の子……どころか、子供になっちゃった……?」
そんな、とんでもない事実が僕を打ちのめした。
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