127話 閉じられた筐
こちらは本日2回目の投稿です。今日の1話目がまだの方は前話からお楽しみください。
【あっ】
【配信】
【終わった……?】
【え、ちょ、なんで?】
【昨日のミサイルでも切れなかったのに】
【いや、切れてない。 ただ真っ暗なだけだ】
【まーた揺れてる】
【あー、ミサイル着弾してるのか】
【ノーネームちゃんがんばってー】
【テレビのアナウンサー、2回目で真っ青になってる】
【そらそうよ、合衆国軍が新兵器をいきなり2回もぶっ放してるんだもん】
【まじでなりふり構わなくなってるな】
【じゃあやっぱり、あの泉って本物……】
【ノーネームちゃーん!】
【ダメだ、やっぱり反応ないわ】
【さっきみたいなブレスはないっぽい?】
【ほんとだ、すぐに収まった】
【何で?】
【分からん】
「――るる!」
「るるさん!」
【あ、るるちゃんの方の配信画面!】
【るるちゃんも避難所に!】
【えみちほが出迎えてる!】
【とりあえず良かった……】
【でも、ハルちゃんは……】
◇
地上に空いた大穴。
そこから数キロ先にある医療施設。
そこが臨時の避難所になっていて、近隣から避難してきた住民の集まる場となっている。
その入り口、緊急離脱装置の受信信号があるエリアに現れたのは深谷るる。
――座り込んで、ぼうっとして、焦点の定まらない少女。
「……とにかく医務室へ。 先ほどの配信通りだったら、るるさんは」
「ええ。 ……るる、すぐに担架が」
「……ハルちゃん」
【るるちゃんしゃべった!】
【とりあえず無事か】
【リストバンドのタイミング、ミサイルのとほぼ同時だったから不安だったんだよな】
【ハルちゃんが守ろうとしたるるちゃんが無事で良かった】
【ああ……】
【でも……】
【ハルちゃんは……】
「ハルちゃん……なんで、なんで……」
「るる……」
「……申し訳ありませんが、まずはるるさんを搬送します」
「ええ、お願いしますね」
えみが声をかけても、肩を揺さぶっても反応を示さない彼女。
明らかに普通ではない状況から、即座に最寄りの救護班に指示を飛ばし始めるちほ。
「私のせいで……私が気が付かなかったから……」
【るるちゃん……】
【ハルちゃんのこと、1番大事にしてたもんな……】
【ときどきお目々が真っ黒になるくらいにはな……】
【泣いてる……】
【仕方ないよ、だってるるちゃん、願いの泉……だっけ? そこで、ミニマムハルちゃんがグラマラスハルちゃんに戻るって思ってたもん】
【ハルちゃんはおっきくならないの!】
【いや、身長はるるちゃんよりは高いらしいぞ】
【……1センチくらい! ほんのちょっとだけ高いだけ! それでいてスレンダー体型なんだい!】
【草】
【おい、こういうときくらいまじめなコメントをだな】
「どうして……こんな私なんかより、ずっと……」
最初は駆け寄りつつも遠巻きに見ていた野次馬たちも……直前の配信を観ていたために事情が分かり、目を逸らしながら戻っていく。
「はい、明らかに精神に異常を……もう数名、沈静化魔法の使い手も……」
【しかし、まさかってことばっかりだったな】
【ああ】
【そもそも500階層RTAって時点でだったけど】
【ハルちゃんとノーネームちゃんが絡んだからな……】
【ビッグタイトル同士が組んだからな……】
【まさかとも言えるし、やっぱりとも言えるやべーことに】
【結局は2週間ぴったりで……るるちゃんだけでも戻ってきたな】
【一応はクリアして、報酬も手に入れてな】
【ノーネームちゃんが言うこと聞くんだから、もうるるちゃんは】
【ああ、不幸体質じゃなくなるはずだ】
【そこだけは良かった……本当に】
【ハルちゃんの願いだもんな】
【でも、なんでも叶うのに、自分よりもるるちゃんのって……】
【尊い】
【尊すぎる】
【でも、こんなときにも出てこないノーネームちゃん……】
【いつもなら【尊】とか言って来るのにね……】
【ノーネームちゃん……】
「ハルちゃん」
――ついさっきまで一緒に居た子。
ちっちゃな子。
女の子。
元、男の人。
「ハルちゃん……ハルちゃん」
さっき……昨日だって、マントで私のことも守ってくれて、ぼんやりしているようでいてえみちゃんよりも周りを見てる子。
綺麗な金髪。
ちょっとクセのある金髪。
良い匂いのする金髪。
さっきまで一緒だったのに。
寝てたときはずっと嗅いでた、安心できてどきどきする匂いなのに。
ハルちゃん。
男の人。
きっと、戻りたかったはず。
だって、私たちが押しかけるの……絶対嫌がってたもん。
でも私、ずっとずっと無理やり押しかけてくっついて、女の子だってアピールして来たんだ。
私が好きだから。
一方的な気持ち。
恋だとかはあんまり分からないけど、えみちゃんよりも……お母さんとお父さんよりも、多分、好きだから。
ハルちゃんは、ほんとうに嫌なことは言ってくれる。
お酒のこととか、一緒に住むこととか。
だから、大人な男の人の優しさに甘えてたの。
多分無意識で――「恋愛対象外な子供のすることだから許してくれるよね」って。
でも。
そのせいで。
私のせいで。
「……………………………………」
【るるちゃん……】
【ずっとくしまさぁんがヒールかけてたけど足りないっぽいな】
【そりゃあね……】
【あ、担架】
【うん、ドラゴン戦にノーネームちゃん戦、あの崩落? にハルちゃんを置いての帰還だもんな】
【無事でいて……】
「……はい、えみさんや私の呼びかけにも虚ろです。 配信でも大きな怪我はなかったのを確認していますが、念のためすぐに魔法を掛けつつの精密検査を……」
抱き上げられ、ストレッチャーに寝かせられ、がらがらがらがらと運ばれていく、るる。
――――私のせい。
私がハルちゃんに出会っちゃったから、こんなことに。
彼女の思考は、だんだんと。
取り返しの付かない方向へと捻じ曲がっていった。
◇
「……こんな結末になるとはな」
「彼の優しい性格を甘く見ていましたね……」
「確かに執着しない性格だとは思っていたけど……ここまでとはね」
「自分が元の姿に戻るよりも、知り合いの少女が救われるという確証を。 ハルちゃんらしいわ」
全てが終わった。
「ハルちゃん」なる幼女は、元は「別の姿をした人間」だと世界中に露見し、同時に「願いの泉」なる争いの元まで公に。
始原の全員は、寂しくも今日の別れを笑顔で迎えようと思っていた。
たとえ幼女でなくなったとしても、そこに居るはずだったのは3年半前からの最推しの「彼」――征矢春海。
きっと……面倒くさいのを嫌って新しいアカウントでも作り、きっと自分たち始原だけを誘っての狭いコミュニティから再スタートしてのダンジョン攻略を続け。
そうしてきっと、人類のダンジョン攻略の最先端を見せてくれるはず――だった。
でも、もう。
「……リストバンドからの通信は」
「途切れています。 ……先ほどまでは、転送機能が壊れていたにせよ、バイタルは確認できたのですが」
「……もう少し見守ろうよ。 昨日だって何時間かは……ミサイルの影響かは知らないけど、安否分からなかったんだからさ」
「そうさね。 あの子はきっと無事だよ」
「……ですね。 地下の崩落などでは、むしろ体の小さな方が有利ですし」
「じゃあ、もうしばらく続けんの? 始原としての工作」
「うむ。 姉御も、まずはパニックに陥っているお姉様方を何とかしてくれ」
「あーいよ」
――でもきっと、ハルちゃんならまた眠い目を擦りながら姿を見せてくれる。
彼らは、そう信じていた。
残りは2話。
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