126話 僕の、本当の願い
こちらは本日1回目の投稿です。昨日の2話目がまだの方は前話からお楽しみください。
ぴちゃん。
水の音が響く。
「るるさんは、普通の女の子です」
どうやら僕の声があんまり聞こえてないらしく、るるさんが走ってこようとする気配はない。
だから僕は、話しかけ続ける。
多分、ちゃんと聞いてくれているから。
「普通に友達が多くって、話すのが大好きで、お泊まりしたりするのが好きな、ただの女の子なんです」
「ハルちゃーん! もっと大きくー!」
「……ほら、こんなに元気な子なんです。 でも、ノーネームさんのせいですり傷とかが絶えなくって、不幸なことばっかり起きてみんなから怖がられて……ご両親も大ケガ、したって聞きました」
【ぶわっ】
【なんでそんなこと言うのハルちゃん……】
【小さくなっちゃった? ことよりるるちゃんのことって……】
【ハルちゃん……】
【ハルちゃん、いい子すぎない?】
【ああ……】
【やっぱり天使】
【どんな姿になってもハルちゃんはハルちゃんだ】
【あ、やば、るるちゃんが聞こえないって歩き出しちゃってる!】
【ハルちゃん急いでー!】
水面にさざなみ。
聞いてるんだね、ノーネームさん。
「……いくらるるさんのことが好きだからって言っても、ひどいです。 だから、今すぐ、るるさんから離れてください。 僕ならいくらでも良いですから、もう、これからは」
湖の底が光り始めている。
……1年前のあのときは特に何も起きなかったと思うけども、それだけノーネームさんが活発なんだろう。
「それが僕の願いです。 ……もし他にもお願いできるなら、今までの不幸の分をこれからのるるさん……と親御さんたちにあげてください。 るるさんが泣いて過ごした分の何倍、何十倍の幸運を。 怪我をして痛い目に遭って……僕たちには絶対に言わないですけど、多分みんなから避けられたり嫌なこと言われたりして、たくさん泣いてきた分を笑顔に。 その分の、素敵な人生を」
「……ハルちゃん、もしかしてっ……!」
【ハルちゃん……】
【純真すぎる……】
【もしかして:やっぱり天使】
【当たり前だろう?】
【天使】
【ノーネームちゃんはちょっと黙ってなさい】
【ノーネームちゃんはハルちゃんのこと聞いてなさい】
【了解】
【そうそう】
【草】
【良い場面が台無しだよ!!】
走ってくる音が聞こえる。
……ごめんね。
でも、これが僕の願いだから。
【あ、ちょ、また速報】
【またかよ】
【今度は何?】
【あの……またミサイルが……】
【は?】
【何で?】
【またぁ!?】
【……願いが叶う……から?】
【そんなことで……じゃないんだよな】
【うん、ハルちゃんだから感覚マヒしてるけど、これって相当やばいんだよね】
【ああ……だってもし、これで本当に願いが叶ったら】
【世界中が巨大なダンジョン……ノーネームちゃんを求めるんだもんな】
「るるさんに、できる限りの幸運を。 ノーネームさんがひどい目に遭わせた以上の幸せを。 ……お願いしまっ」
「――ハルちゃんっ!」
後ろから抱きついてきたと同時に、口を塞いでくる手。
……うん、分かっちゃったんだろうね。
僕が、今まで嘘ついてたってこと。
「私のことなんてどうでもいいんだから、ハルちゃんのことをって!」
「わぷっ……ごめんなさい、でも、もう」
しゃりんしゃりんと鈴の音が聞こえる。
湖がもっと光ってくる。
水面が……いや、足元にさっきみたいな振動が伝わってくる。
【ひぇっ】
【ミサイル】
【中継画面でまた飛んできてる!】
【どうするんだよ、さっきのでもこんだけの大穴だぞ!?】
【こわいよー】
【明らかにおかしい威力……それなのに周囲にはほとんど被害を出さないっていうミサイルを2回も】
【予想は当たってしまったな……】
【ああ……】
「ハルちゃん、今からでも……わっ!?」
「るるさん」
地響きもしてきて揺れも激しくなってきて、とうとう立てなくなってきた泉。
「もう、お願い……聞いてもらっちゃいました」
「ハルちゃん……っ! なんで……なんでっ! だってハルちゃんはっ! あ、そうだ! 私! 私のお願いも! 私だってここに来たから!」
【そうだよな、るるちゃんも一応とは言え来たんだ】
【攻略パーティーだもんな!】
【ノーネームちゃん!】
【不可】
【指定】
【対象】
【1】
【マジか】
【あー、確かに……】
【今回の攻略、ハルちゃんの名指しも同然だったもんなぁ】
「早くっ! 私のお願いは――」
「るるさん」
かちり。
こっそりとるるさんの脱出装置を起動。
「あっ、ま、まだ言ってないのに……けど、は、ハルちゃんのもっ!」
「――それがですね」
僕は彼女へ、リストバンドの画面をかざす。
「――壊れちゃってるんですよ。 こんな、肝心なときに」
「――――えっ」
あのとき。
ノーネームさんと戦って、最後のワンショット決めようと急降下してたとき。
かつんと当たった何か。
なんにも痛くないって思ったら、リストバンドに直撃してたんだね。
……それに気がついたのも、さっき起きてから。
また、ウソ、ついちゃったな。
【逃げてー……え?】
【は?】
【あの、ミサイル】
【るるちゃんのはまもなくだけど】
【ハルちゃんのが!?】
【ウソだろ!?】
【そんな壊れるもんじゃないだろこれ!?】
【いや、さっき……ああいや、もう昨日になったドラゴン戦。 ハルちゃん、ロケットランチャーぶっ放すわ、空から急降下してスリングショット叩きつけるわってアクロバティックだったし……なにより、昨日のミサイルのとき、ハルちゃんたち意識失うほどだったんだぞ……?】
【えっ】
【あっ】
【悲報・ハルちゃんのリストバンド、壊れる】
【それってるるちゃんのときみたいに……?】
【そういやリリちゃんのときも壊れてたよな……】
【ノーネームちゃん、ひどすぎない?】
【ノーネームちゃん?】
【あれ、居なくなってる……?】
「――――だから、ここでちょっとお別れです」
「ハルちゃんっ! だめっ、今すぐに私のを」
「るるさん」
ごとん、ごとんと天井から剥がれた岩が周囲に落ちる。
ぼちゃんぼちゃんと泉が濁っていく。
「僕は、るるさんを守りたくてここに来たんです」
「私もだよ! だから一緒に」
「るるさんには、帰る場所も、待ってる人もいますから」
僕とは違ってね。
母さんたち?
まぁ、息子ってのはわりかし放置されるもんだから大丈夫でしょ。
女の子は何してても心配されるけども、男はわりと「好きにやってるでしょ」って感じでほっぽり出されるもの。
その方が多分男としても楽だから良いんだけどね。
だからきっと、居なくなったとしても「どっか遠いところで冒険してるんでしょ」ってのんびり待っててくれるはず。
きっとね。
……彼女のリストバンドのカウントダウンが始まってるのを確認。
それを見た彼女も、もう止まらないって気が付いて呆然としてるのを見て……僕は、安心する。
「るるさんは、今日から普通の女子高生さんです。 もちろんダンジョンに潜ったり配信したりするかもしれませんけど――でも、もうみんなから怖がられたりからかわれたりしない、普通の女の子です。 あ、でも、今日からちょっとだけ幸運になりますね」
「でもっ……でもっ!」
感情の激しい彼女の目からはすごい涙。
【るるちゃん……泣いてる……】
【そりゃあそうだろ、だって……】
【自分は置いておいて……】
【ハルちゃん……】
「僕は、大丈夫です」
るるさんの足元に魔方陣が展開。
――なるほど。
これまで見たことはなかったし、そんな話は聞かなかったけども「ドロップ品のアイテムが作動すると、そうやって魔力の回路が作動するんだ」ね。
なんで今さらこんなのが見えて、しかも直感で分かるのかは分かんないけど、分かったものは分かったんだ。
「水も食料も……スリングショット用の石ならたくさん。 暇つぶしのためのタブレットだってきちゃない袋に入ってるんです。 このロープでなんとか耐えて、良い感じにできたくぼみに入ったりしてからどうにかして戻ります。 ……ちょっと時間は掛かるかもですけどね」
「でもっ!」
「大丈夫。 またノーネームさんが何とかしてくれます」
命は平等じゃない。
特に緊急時には、男よりは女。
年上よりは年下が大切だってのは誰だって分かってる。
だから、大人の男な僕よりも女子高生なるるさんの方が大事。
客観的にも、僕の主観的にも。
……それに、そもそも壊れたのは僕のリストバンドだし。
連れて来ちゃって、こんなに付き合わせちゃった以上……彼女だけは絶対に帰さないとだもん。
「じゃあ、また会いましょう」
「待ってハルちゃ――――」
――――ひゅんっ。
「……ふぅ」
居なくなった。
いつ見てもテレポートって感じの緊急離脱。
これもまたダンジョン産のあなぬけグッズって辺り、ダンジョンってのも一応は潜った人の安全とか考えてるんだろうね。
そうなのかな、ノーネームさん?
【ハルちゃん……】
【もう、ミサイルがまた……】
【ダンジョンの穴に垂直に……】
揺れが激しくなってきて立てなくなる。
急いでローブを体に巻き付け……ようとしたけども、そういえばもう僕の魔力、こうして立ってるだけでふらふらだって気が付いて「やばいかも」って感じる。
でも、これで満足なんだ。
「ノーネームさん」
何か大きな力が近づいてくる感覚。
さっきもあったけど、何なんだろうね。
さっきはドラゴンさんに入ってすっごいブレスしてたけども、今度は?
……まぁいいや、どうせすぐ分かるもんね。
「るるさんを悲しませたくないので。 できたら守って――」
……なんか、この感じ前にも
――――――――――ぷつん。
僕の意識は、そこで途絶えた。
残りは3話。
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