125話 『泉』4
こちらは本日2回目の投稿です。今日の1話目がまだの方は前話からお楽しみください。
ノーネームさんは、純粋な性格。
触れ合ったのはちょっとだけだから本当かは分からないけども、多分そう。
だから「言葉尻を捉えて」とか、逆に「僕の言ったことが理解できなくてー」ってのはない。
言いたいことをできる限り汲み取ってくれる。
そんな気がするんだ。
「……あれ? でもハルちゃん。 普通のダンジョンにこんな泉とかはないよ?」
「多分あのときも、深い階層で見つけたんでしょうね、偶然に。 例えばここみたいに500階層とかで」
「ハルちゃん、そんなに深いとこ潜ってたの!?」
「いえ、その記憶はないですけど……結構深いダンジョンには潜ったことありますし、るるさんのときみたいに階段スキップとかあったらあり得るかなーって」
階層、男のときはちゃんとメモしながらだったけども、この体になってからはほとんど身の危険がなくなったから、数えなくなったしなぁ。
「そもそもいつも無心で攻略してますし、階層なんて考えてませんし。 あのときもどのくらい潜って何日泊まったか分かりませんし、あとあと、願ってから何日経ってってパターンだともう分かりませんし」
【願いが叶う泉が深い階層にある!?】
【マジ?】
【いやお前、500階層だとよ】
【じゃあ無理だわ】
【じゃあ人類には無理だわ】
【だよなー】
【そもそも世界でも500階層なんて……】
【それ以外のダンジョンでも、ボスフロアとかその先にこんなのあるって報告ないもんなぁ】
【少なくとも民間人の配信ではないな】
【あるとすれば各国のダンジョン攻略戦用の部隊だけど】
【あの】
【ステイ】
【じゃあ良いか】
【きになる】
【やっぱり言って?】
【草】
【合衆国軍がさ……まだ他国が到着してないのに無理やり突入してきたり、ハルちゃんたちが攻略できそうになったらなりふり構わずミサイルぶっ放したのって……もしかしてこれの横取りとか証拠隠滅とか……だって願いが叶うって言ったら古今東西の権力者が……ねぇ……?】
【あっ】
【えっ】
【えぇ……】
【悲報・ハルちゃん、ガチで狙われてた】
【軍事機密だったらそりゃあ狙われるよねぇ……】
【しかもこういうのって争いの火種だし】
【もしかしてこれ、合衆国だけ知ってた……?】
【もし本当なら確かにそれだけの価値はあるよな……】
【願いの種類によっては、それこそ不老不死とか】
【やば】
【確かに、ここまで強引に来てるのって合衆国軍だけだし……】
【まーた繋がっちゃった?】
【いろいろ繋がっちゃったねぇ……】
「じゃ、祈りますから」
「うんっ!」
「ちょっと離れてくださいね」
「え、何で?」
「だって、祈ってる最中にるるさんが何もしてないのに転んで泉に落ちたりしたらるるさんが……」
「離れてます」
「うん」
素直で良いね。
【草】
【そういやそうよね、るるちゃんってばそういう子よね……】
【ノーネームちゃんのせいで、普通に歩いてても転ぶもんね……】
【最近はハルちゃんに夢中で忘れてるっぽいけどそうだよな、念には念を入れないと】
【残念だけど、ハルちゃんたちのお願い叶えるなら不安要素はな】
【おっちょこちょいなのは性格っぽいしな】
【るるちゃんのことをよく知ってるハルちゃん】
【だって2人はるるハルだもん】
――とっさに思いついたにしては良い言い訳。
最近は全然転んだりしないクセに、僕の言うことを素直に聞いて慎重に……最初起きたあたりに歩いて行くるるさん。
……ごめんね、ウソついて。
でも、僕、決めてたから。
【けど願いが叶うのか……何でも?】
【そんなわけ……無いとは言えないな】
【ああ、なにしろノーネームちゃんだからな】
【もしもしノーネームちゃん?】
【無限】
【不可能】
【無】
【マジか】
【ノーネームちゃんが認めるどころか「なんでも叶う」とか言っちゃってるよ】
【そりゃあ隠そうとするわな……合衆国軍も、始原も】
【始原しょんぼり】
【俺たちから古参を取ったら何が残るんだ……】
【もう諦めろよ】
【古参の証はあるだろ デフォルメハルちゃんが】
【草】
【微妙すぎて草】
【それはそれで……】
【えぇ……】
「ハルちゃーん!」
ちょうど、さっき僕たちが起きたところにまで戻ったるるさんが声をかけてくる。
「んー、もうちょっとだけ、壁の方まで下がってください」
でも、そこじゃまだ「間に合っちゃう」。
「えー!? そんなに―?」
「るるさんの邪念が入って台無しになるかもですし」
「私そんなに信用ないの!?」
「はい。 だって以前の配信でもるるさんのせいで何層連続でモンスターだらけの部屋とか」
「もっと離れてます」
「うん」
【草】
【率直すぎる「はい」で草】
【ハルちゃん、とことんばっさりね】
【普段から言うときは言うけど、今日はまた一段と】
【寝起きだからじゃない?】
【えぇ……】
【ああうん、おねむじゃないからキレッキレなのか……】
【確かにるるちゃんが……あれ? でもそれって】
【まだ呪い様って呼んでたノーネームちゃんのいたずら……】
【じゃあ今は関係無いよな?】
【ハルちゃん……?】
【ま、まあ、万が一はあるから……】
文句は言いつつも「何年も前から」のノーネームさん……前は「呪い様」とか言われてたっけ……のせいでの「不幸体質」を身をもって体験してる彼女は、どんどんと離れて行く。
歩いて歩いて……壁の近くに。
――――「気が付いてから全力で走ってきても、僕の言い終わるのが早い距離」にまで。
「つーいーたーよー!」
「うるさいです」
「えー!?」
元気な声。
るるさんの声。
普段から人懐っこくって、誰とでも楽しくお話ししてて。
えみさんが大好きで、九島さんにもうざったがられながらもなんだかんだ仲が良くって。
喜怒哀楽が激しくて、かわいいが好きで、僕が想像していた女の子らしい女の子。
――でも、そんな彼女は何年もいじめられてきた。
他ならぬ、ノーネームさんに。
だから。
「じゃあ始めます」
「はーい! できたら大声でねー!」
軽く手を振って、大声……じゃなく、普通の声で。
泉の中に居るノーネームさんに語りかけるように。
あのときみたいに、お祈りするように。
「ノーネームさん」
ぴちゃん。
水面に雫がひとつ。
【始原じゃないけどあああああああああ】
【ああああああああ】
【ああああああああ】
【ああああああああ】
【やめてー! 戻らないでー!!】
【ハルちゃんが戻っちゃったら、ちっちゃなおてて見られなくなっちゃうー!】
【なにより配信画面でえみちゃんとかリリちゃんの立体美がああああああ】
【草】
【いつにも増して欲望に忠実過ぎる】
【だって……だって……】
【見たいものは見たいんだもん!】
【それよりお前ら ハルちゃんが大きくなったら……服は、どうなるんだ?】
【!!!!】
【!?!?】
【天才か】
【ふむ……なるほど……】
【ちょっとるるちゃんの画面大きくするわ】
【あ、俺も俺も】
【特に理由はないけど俺も】
【畜生、離れすぎてて拡大しきれない】
【肝心なハルちゃんの細かいところが……】
【そんなぁ】
【うう……】
【つらい】
【草】
「――――ノーネームさん」
願い事を叶えてくれる存在に、僕は、告げる。
「るるさんのこと、もういじめないでください。 それが、僕の願いです」
【ああああああ……え?】
【え?】
【なんて?】
【いじめない……ああ、そういやるるちゃんって】
【ハルちゃんが来る前はずっとノーネームちゃんに……】
最終話は土曜日です。
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