12話 やっぱり僕は子供らしい。 6歳の女児なんだって
「検査お疲れさまでした、征矢春海さん」
「ハルで良いですよ」
もそもそと着替えた僕は言う。
人間ドックとかって服着替えるからめんどくさい。
……そういや会社の健康診断で去年以来なのか、こういうの。
女の子になったことで強制的に脱サラしたからすっかり忘れてたな。
「……それではハルさん、こちらへ」
「はい、九島さん」
あれからしばらくして救急車とパトカーが来たって思ったら僕の部屋の前まで……なんかドアもげてなかった? 気のせい?……たくさん人が来て、テレビとかでよく見るブルーシートで廊下とかの目線を遮られ。
どこも悪くないんだけども救急車に乗るって言うレアイベントを経て着いたのはこの病院……人間ドックとか受けるとこ。
僕はさくっと調べられた。
全身くまなく――もちろん九島さんとかるるさんとかヘンタイさんじゃなくって、ちゃんとしたお医者さんと機械でね。
……まあね、ダンジョンの謎の何かで男から女になったからこの1年、ちょっと不安だったし。
「詳しい説明しなくても良さそうな人たちが勧めてくるんだからちょうど良いか」って思って、手を引かれて連れられるままでのおっきな病院。
ちなみに救急車はって言うと、初めてってことでちょっとテンション上がったけど乗り心地は正直アレだったのと、救急隊員さんたちもどうして良いか分かんない顔してたから空気も微妙だった。
で、何時間かかけてめんどくさい検査ばっかり。
半分寝てたけどなんか幼女にしか見えないからってほほえましい視線しか来なかった。
……どこまでの人に僕が元男だって知らされてるんだろうね。
「ハルちゃん!」
「ハルさん!」
「るるさんとヘンタ……三日月さん」
「公の場ではどうか『えみさん』と呼んで欲しい」
「あ、はい、えみさん」
待合室に居たのはるるさんとえみさん。
……ヘンタイさんの外面は完璧で、こうして見るとまるで本当にるるさんのお姉さんみたいだ。
話し方も堂々とハキハキと、まるでやり手のキャリアウーマン。
だけどヘンタイさんだ。
「では医師の元に案内しますね」
「お願いします」
そうして……なんでかずっと僕の手を握っているのは九島さん。
いや、君は僕のこと、元成人男性だって知ってるよね……?
僕、はぐれたりなんかしないよ……?
って言うか僕、君より年上なんだけど……?
「良いなぁ。 ハルちゃんと手、繋ぎたいなぁ」
「大丈夫よ、るる。 これからはいくらでも機会があるわ」
「……そうだよね!」
そうなの?
あと、君本当にあのときのヘンタイさん??
君、人格が変わったり双子だったりしない?
◇
「征矢春海さん。 去年の健康診断データを提供してもらいましたが」
お医者さんは難しい顔をしている。
こういうときって超法規的措置ってので個人情報なんて保護されないんだね。
まぁ身を委ねたのは僕だから良いんだけどさ。
「残念ながら……」
「ハルちゃんどこか悪いんですか!?」
「そんなっ! こんな貴重なロ……大切な人なんです!」
僕、君たちとは初対面だよね?
「ああいえ、血液検査など後日に結果が出るものを除きまして、今のところ征矢さんの体に悪いところはありませんでした」
「……良かったぁ――……」
「まぁ丸1年普通に過ごしていましたし。 どこか痛かったりしたらさすがの僕でも協会に連絡しますって」
「そうですね、今日のところは健康な肉体と。 しかし……」
「……元の僕と完全に別人。 ですよね?」
「……はい。 医学的には、そう結論づけるしか……」
まじめそうなお医者さんが頷く。
「もう1年ですから。 そうなんだろうなとは思っていました」
「DNA鑑定の結果も後日お伝えしますが、恐らく……ご両親とは」
「繋がらなくなりましたね。 この顔、この髪の毛と目の色ですし」
前の目立たなかった僕から一転、普通に外に出ちゃうと誰からも見られる今の僕。
服屋さんでは「なんでも似合って素敵ですね! 今日はお忍びですか?」とか言われるし、通りすがりのおばあちゃんたちからは「めんこいねぇ」とか言われるし。
……だからめんどくさくって、極力通販でしのいでたんだけどなぁ。
隠蔽スキルを適度に効かして目立たない女の子っぽい感じで買いに行ったりしたけども、やっぱ疲れるからほぼほぼ通販。
現代文明は偉大だね。
あと、入居者が少ないアパートであんまり見られなかったから特に通報とかされなかったし。
通報されてたら?
今ごろはいくつか作ったセーフハウス的な場所か、あるいはダンジョンで寝泊まりしてたね。
「征矢さんの肉体は、医学的には6歳前後の少女だと断定されます」
「6歳!? 園児さんだ!」
「そこはせめて小学生でお願いします」
「6歳だから! ……それは辛いな。 私たちより年上の男性でそれとは……」
隠し切れていないヘンタイさん成分はともかく、本当に子供らしい僕。
「それで、ハルちゃんはこれからどうなっちゃうんですか!?」
「このような件は……国でも初めてのことで、何とも言えません。 ダンジョンのトラップか何かで未知の魔法が発動し、寝ているあいだにその体になったということですから」
「やっぱりダンジョンでまたおんなじ場所を見つけて祈らないと」
「戻らない――かもしれません。 断言は、できません」
男に戻るこだわりはないけども、生きやすさって点では間違いなく大人の男だからなー。
もちろんこの見た目、僕自身の保養にもなるし寿命も10年延びたことになるしで良いんだけどさ。
「あ、そうだ。 女の子って言うことは、そのうち……えっと、男とは違う……」
「第二次性徴を迎えますと……男性の征矢さんには辛い状況になる可能性もありますね」
「そんな! ハルさんが成長してしまっ……もがもが」
「お、女の子として育っちゃうってことですよね! ハルちゃんは男の子でしたから困りましたよね!!」
もう隠し切れてないえみさん。
君はどうしてそうもヘンタイさんなんだろうね。
そういうのって業って言うんだよね?
あと僕、男の子って言うんじゃなくて……せめて青年とかなんとか……。
「……その後のことも含めまして、征矢さんはカウンセリングなどのサポートを受ける権利があります。 必要だと思いましたら迷わずご連絡してください」
「ありがとうございます。 今のところは平気ですけど、もしそうなったら」
そうだよね。
女の子って言ったら生理とかだよね。
まぁ6歳って言うんならあと数年は大丈夫ってことかな。
……でも、前だったら。
こうなる前だったら。
かわいい女の子になってちやほやされたり、男どもを手玉に取ったり、なんかすごいらしい女の子の快感ってのを味わいたいって妄想くらいはした。
けどもいざ本当になってみるとそんな勇気は無くって、ちょっと不安。
「ハルちゃん、大丈夫!」
「るるさん?」
ぎゅっと両手が握られる。
るるさんっていつも元気だね。
その隣で鼻息が荒い人は無視しておこ。
「私がずっと面倒見るから!」
「え? あ、はい、ありがとうございます?」
「わ、私も」
「えみちゃんは止めた方が良いんじゃない?」
「然るべき治療を……あ、今日早速カウンセリングを」
たこ殴りなヘンタイえみさん。
「僕はどうでも良いですけど……えみさんがアイドルできなくなるのは困るので、がんばってください」
「私のことをそこまで信頼して……! 分かった! 任せろ!」
微妙なニュアンスのすれ違いが起きてる気がするけども、どうでもいいや。
僕的にはるるさんの事務所の中でリーダー的な立場らしいえみさんの庇護下なら何かと便利かなって思っただけだし。
「あ、そう言えばハルちゃん……征矢さんはダンジョンに潜っても?」
「これまで問題が無かったようですから構わないでしょう。 ですが何か異変を感じましたら」
「そうですね、なんか変になりましたら連絡します」
1年大丈夫――最初は筋力と体力と背丈の低下で大変だったけども、慣れてからは特に問題も無かったんだし、多分大丈夫。
あとなぜか小さくなったのに魔力が増えてるし、コスパ的には今の方が良いし。
なんなら法的には成人してるからってお酒呑んでも前の体より強いみたいだし、こっちも怒られなかったから大丈夫。
「ああ……強いて挙げるのでしたら。 簡易の血液検査で出ました数値で、肝臓がほんの少しだけ」
「ごめんなさい、お酒はほどほどにします」
るるさん助けて帰ってきたあと何杯か呑んでたからなぁ。
「ハルちゃんお酒呑んでたの!?」
「ハルさん……その体でお酒は……」
「甘い香りの中に混じる酒精……錯覚ではなかったな」
「あ、そこまで嗅いでたんですねえみさん」
ちょっと怒られたけども「一応現在の法律では征矢さんの飲酒を止めることはできませんが……」って感じだったからオッケーなんだよね。
良かったー、お酒呑んで良くって。
「あ、ハルちゃんのお酒は私がずっと管理するからね!」
「えっ」
「返事は?」
「あ、はい」
なんかぐいぐい来るときにはぐいぐい来るるるさん。
――さっきもあったこの子の「ずっと」の意味は、この子の見た目によらずにすっごく重いものだった。
それを僕が知るのは、ずっとずっと先のこと。
12話をお読みくださりありがとうございました。
この作品はだいたい毎日、3000字くらいでの投稿となります。
ダンジョン配信ものでTSっ子を読みたいと思って書き始めました(勢い)。
「TSダンジョン配信ものはもっと流行るべき」
「なんでもいいからTSロリが見たい」
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追記:改行を加えて少しだけ読みやすくしてみました。




