119話 地下と空の最終決戦 その8
ここまで来たら最終話まで1日2話投稿。
こちらは本日2回目の投稿です。今日の1話目がまだの方は前話からお楽しみください。
【ハルちゃんたちは!?】
【そうだよ、そのダンジョンがって!】
【落ち着け】
【ハルちゃんたちのとこは500階層とかえらく深いところだから大丈夫だろう】
【いや、ボスモンスターも倒されたし、崩落する危険もある】
【どうしたら!?】
【とにかく逃げてー!】
【どこへだよ!?】
「上っ……がっ! 大っ変……なことにっ!」
僕はるるさんに抱っこ、えみさんはリリさんに抱っこ。
……えみさんは周りが見えなくなる子じゃない。
ってことは、ダンジョンそのものが崩れそうなこの状況よりも危険な何かが起きてるってことだ。
「えみ様、走りながらですので噛みますよ!」
「ハルちゃん、どっちに逃げたら良い!?」
――歯が染みるような恐怖が僕を駆け巡る。
恐ろしい量の魔力が、ノーネームさんからほとばしる。
「――みなさん、右へ全力で」
「うんっ!」
「……っ!」
……これ、僕、抱っこされてなかったら足すくんでるな。
ちらっと見ると、平気そうにしてるみんな……や、リリさんは明らかにびびってる。
……なるほど、ここまでの魔力になるとレベルが20とか超えないと――
「――伏せて!」
ぎりぎりで壁際、それも数分前のドラゴンさんからのブレスでえぐれてできた空間。
そこにずざざっと入り込む僕たち。
【ハルちゃんたちスライディングセーフ!】
【早くリストバンド使ってー!】
【いや、もし地上の救護班が脱出地点移動してなかったら】
【あっ……】
【あ、ミサイル】
【ダンジョンの周りで撮ってるカメラにも!】
【テレビの中継の画面にも映ってる!】
【こっちも怖いよー】
【大丈夫、10年前もダンジョンをばかすか空爆したりしてたけど、できるとしてもせいぜいが3層くらい――】
◇
ダンジョン上空――ある、2本の路線が乗り入れている駅の近く。
30分ほど前からの、かなり急で強引な避難誘導のおかげで……幸いにも「被害予想地域」からはぎりぎりで地上付近の人間が脱出した、半径数キロの空間。
ダンジョンを中心とした空間――そこへ、海からやって来た円筒形の物体が飛翔。
それは動きが制御されているらしく、地面と平行な動きから放物線を描き、ダンジョンの入り口へ真っ直ぐに落ち始める。
そして――
◇
「!? …………っ!」
「それ」で鳥肌がぶわっとなる感覚。
眠い体を振り絞って意識を「それ」に合わせる。
ノーネームさんの魔力――ちらっと見えたのは、球状に広がった馬鹿でかい魔方陣。
それが真上に向いて……魔力が全部。
……いや。
「ダンジョンの魔力を、全部……上に……?」
「は、ハルちゃん……?」
きぃぃぃぃんと急に暗くなっていくダンジョン内。
まぶしくて見えなくなる魔方陣。
その力は、溜めに溜められて、凝縮されて行って。
「……耳っ、耳をふさいで口を開けてっ」
とっさにそれだけを口にして、僕はぎゅっと目を閉じ――――ず、急いで周りを見る。
迷う。
すごく迷う。
けど、万が一があったら。
この3年半、ダンジョンにいて少しずつ分かってきた「理由のない直感」が正しかったら。
「……えみさん、リリさんっ、手っ」
「え? あ、ああ……」
「……ハル様」
耳をふさごうとしてた彼女たちの両腕が差し出される。
「……ありがと」
「え?」
「………………」
かちり。
僕は、2人のリストバンドの――緊急脱出のボタンを押した。
物理ボタンでの緊急脱出。
液晶にはカウントダウン。
「な、何を……!」
「ハル、様……」
「……1人だけなら守り切れますけど、それ以上は……だから、ごめんなさい」
くぼみの中に隠れているはずなのに、上空の魔方陣に明るく照らされる彼女たちの顔。
その顔は驚いていて……でも、なんだか納得した感じ。
言葉を使う余裕は無いけども、お互いに何となく分かる。
これがきっと、「仲がいい」ってことなんだろうね。
……僕も、ちょっとはひとりぼっちから抜け出せたのかな。
女の子になってからは特に――丸1年のひとりぼっちから。
「……分かりました。 ハルさんがそう、言うのでしたら」
「ハル様とるる様は……」
「僕は、とっておきがあるので大丈夫です。 それでるるさんくらいなら守れます。 るるさんは」
「……ハルちゃんに任せるね」
僕を抱っこした状態なままでずるずる下がり、真後ろに座り込んでいるるるさんが、上から覆いかぶさってくれていた彼女の声が聞こえる。
震えるダンジョン。
まるでダンジョンそのものが震えているよう。
上から降ってくるようになって来た、剥がれた壁や天井のかけら。
「……るるを、よろしくお願いします」
「はい」
えみさんはなんだか納得したような顔。
その反対に、何かを我慢してるようなリリさん。
「――――――ハル様っ!」
ダンジョンが軋む音とノーネームさんが魔力を力尽くで何万分の1の弾丸にしている音に負けじと、張り上げるリリさん。
「……………………………………っ!」
……それを言いたいけども、言って良いのか悩んでる?
そんな感じ。
「では、また後で。 上に戻ったら、みんなで――」
ひゅんっ。
一足早く帰還したえみさん。
そんなえみさんが一足先に転送されたのを見た彼女は、
『――――アル様!』
「へ?」
首元の通訳機を外した彼女が変な呼び方をしてくる。
ある?
え、でも、君、最初以外はずっと僕のこと。
『必ず……必ず! 約束しました! あのときのみなさんと! アル様を守ると! 今度は貴方をお助け――待って――』
ひゅんっ。
「あ、消えた」
良いところで消えちゃったリリさん。
……アル?
誰?
「は、ハルちゃ――」
急なことで忘れかけてたけども、とっさにるるさんの耳を押さえる。
それで分かったらしい彼女が僕の耳に手のひらを当てる。
ふたりして大きく口を開けたところで――ものすごいまぶしさでなんにも見えなくなるっていう感覚に包まれた。
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