116話 地下と空の最終決戦 その5
ここまで来たら最終話まで1日2話投稿。
こちらは本日1回目の投稿です。昨日の2話目がまだの方は前話からお楽しみください。
「……ハル様」
「これで、矢は尽きましたね」
もう何十分経ったのか。
ううん、ひょっとしたらまだ何分かなのかもしれない。
だって、違うじゃん。
ただの決まったモーションして来るモンスターたちと、中身が入った特大のドラゴンさん――ノーネームさんとは。
「ですので、あとは」
使い切った弓と矢筒をしまった僕は、手慣れた感触のそれを取り出して腕に装着。
【スリングショット!】
【パチンコ!】
【まさかの再登場ないつもの武器】
【やっぱりハルちゃんは石投げだよな!】
「使うのは転がってるのを集めた石。 …………じゃなくて、普通に強いやつです」
【草】
【だよね】
【なんで一瞬タメ作ったのハルちゃん】
【かわいい】
【なんか微妙にどやっててかわいい】
――「嬉しい?」
そう聞いてきてる感じのするノーネームさん。
「はい、とても」
ころころと、普段の石とは違う感触を片手に。
丸い玉たちを指のあいだに……はこの体じゃできないから、いくつか握りしめて。
「ノーネームさん」
後ろからぎゅっと……1周してまたるるさんが抱っこ担当になった感触を感じつつ、宣言する。
「今度こそ倒します。 守ってくださいね、約束」
「――――グォォォォォォ!!」
ぼろぼろの体で嬉しそうに叫ぶノーネームさん。
もうぼろぼろだからブレスも1分に1回あれば良い方。
そんなに速く動けないし、もう飛べなくなってる。
けれども、単純に尻尾と羽のリーチで的確に狙ってくる。
――でもね。
「……るるさん」
「ここで、かな?」
「はい」
ぎゅっと、「るるさんに抱きしめられる感覚」――つまり、あのお手製の脱出装置、最初に背負ったあれを、今の僕は背負っていない。
「飛ぶん……だよね?」
「代わってもらいます?」
「う、ううん! がんばる!」
「あのドラゴンさんの頭の高さまで飛びますけど」
「うぐっ……!」
「大丈夫?」
【ぺろぺろ】
【真っ青なのにがんばって笑ってるるるちゃんかわいい】
【舐め回しししししししし】
【お、ノーネームちゃん】
【あれ? でもドラゴンしゃんを操作してるんじゃ?】
聞いてみたら高所恐怖症らしいるるさん。
……知らなかったとはいえ悪いことしちゃったなぁ……特にイスに乗ってるときに大穴に降りちゃったし。
でも、そんな彼女ががんばるって言ってる。
さっきから、交代で僕を抱っこしてくれてたみんなが……交代で背負ってくれてたロケットで飛んで、ノーネームさんの頭にぎりぎりまで近づいてのダイレクトアタックのための突撃を。
「じゃあ、お願いします」
「――――――あのときね」
「?」
ロケットから伸びてる操作のためのヒモを手に取った僕に、ぽそりと降ってくる声。
「あのとき。 私が死にそうになってたとき、ハルちゃんが飛んでくれたね」
「そうでしたね」
「あのときも、ドラゴン相手だったね」
「サイズもレベルもケタ違いですけどね」
じっと見てくるノーネームさん。
上から話しかけて来る、るるさんと僕を見続けている。
【尊】
【尊】
【尊】【尊】【尊】【尊】【尊】【尊】【尊】【尊】【尊】
【えぇ……】
【朗報・ノーネームちゃんめっちゃ喜んでる】
【なんでぇ……?】
【決まってるだろ、「ふたりはるるハル」を見てるからだ】
【ここで「ふたりはるるハル」……!】
【何この熱い展開】
【倒されるのを待ってるラスボスなんて居る??】
【いるだろ、そこに】
【尻尾ゆらゆらしながら待ってるね】
【かわいいね】
【かわいいね】
【あれの中身がノーネームちゃんだと思うと……ふぅ……あちょっと待って足もととととととと】
【草】
【さてはノーネームちゃん、ドラゴンの操作に慣れたな??】
「私、あのとき言ったよね。 何があってもハルちゃんを守るって」
「え?」
「え?」
そんなこと言った?
【草】
【えぇ……】
【ハルちゃん、ずっとノーネームちゃん見てたのにぎゅんって振り返ったぞ?】
【ハルちゃんって「え?」ってときの反応だけは俊敏よね】
「……言ったでしょー!?」
「あ、はい、そう言えば押しかけてきた頃に……」
「そうだよ! もうっ!」
「ごめんなさい」
いや、忘れるって……もう1ヶ月も前のことだよ?
ああいや、女の子って記憶力良いから忘れないんだよね……。
【かわいい】
【怒り方も謝り方もかわいい】
【可愛】
【だろう? ノーネームちゃん】
【もはやノーネームちゃんも見守るモードになってて草】
【だって、多分倒せるし……】
【ああ、だからこっちに半分くらい戻って来てるのか】
【手抜きしてるようにも見えなかったけどな】
【まー、そもそも1回やられて倒れたドラゴンだし】
【なんか拍子抜けだけど……これで良いんだよな】
【ああ】
【だってこの配信、始原の頃から変わってないもんな】
【ハルちゃんの冒険を見守る配信だって】
【始原歓喜】
【俺たちは今猛烈に感動しているんだ】
【あ、後で良いものあげるね】
【え、要らない……】
【なんか精神汚染されそうだから謹んでお断りします……】
【始原ショック】
【始原しょんぼり】
【草】
「じゃあ」
「うんっ!」
……しゅごおおおお。
「まかせあちょっと待っびびびびびび!!」
「がんばってください。 なるべくゆっくり操作しますから」
「そうしてええええええ!!!!」
【草】
【ああうん、背中でそんなジェット噴射あったらそうなるよね】
【ハルちゃんとお話しして忘れてた恐怖が戻って来て、また青くなってるるるちゃんが素敵】
【かわいそうなのがかわいい】
【お前ら……】
あのときは首がもげそうで、うっかりむち打ちでリストバンド起動しそうになった記憶。
だから、この2週間くらい掛けてちまちま改良して……あの素敵なイスほどじゃないけども、そこそこ快適に操作できるようになったんだ。
「行きます」
「ゆっくりねぇぇぇぇぇぇぇ!!」
【草】
【るるちゃん渾身の絶叫】
しゅごおおおと浮かび上がる僕たち。
それを見たノーネームさんはブレスの構え。
「あ、ごめんなさいるるさん」
「え?」
「ブレス来るので急旋回します」
「ちょっと待ああああああああああ!?」
【草】
【るるちゃん絶叫】
【そらそうよ、ちょっと浮いたと思ったら真横に全力スライドとか】
【それも空中でな】
【それも地上20メートルくらいでな】
【るるちゃんかわいそう】
【るるちゃんじゃなくてもかわいそう】
【一方でるるちゃんを振り返ってたえみちゃんたち、頭を振ってからもっかいノーネームさんの足止め作業】
【みんなが同情するるるちゃん】
【けど、ちゅよい】
【えみリリ、普通どころか相当強くない……?】
【ああ……息がぴったりだな】
【同類だからな……】
【もう忘れてやれよ】
背中からの音と、横へ駆け抜けて行くブレスの音が混じって耳がきーんってなってる。
「――――――――――!!!!!」
たぶんるるさんが叫んでるけども、さっき「大丈夫」って言ってたし大丈夫だよね。
どうせこれじゃ何も聞こえないだろうから、ノーネームさんからの最後の抵抗を回避しながら近寄ろう。
「やーめーてー! やっぱりやめてーやめてやめてぇーこわいーこーわーいーのぉ――……ハルちゃん聞いてなーい!!」
【草】
【まるでハルちゃんショック以前のるるちゃんが戻ってきたみたいだ】
【ああ、そう言えばるるちゃんって前はこういうキャラだったな】
【何もかもが懐かしい……】
【もう何も怖くない……】
【おいやめろ】
【さっきフラグ立てたやつのせいでこうなってるんだろうが!】
【草】
3回、4回。
僕たち目がけて、結構本気のブレスが来てる。
……結構しつこいね、ノーネームさん。
てっきり簡単に倒されてくれると思ったら意外としつこい。
まぁノーネームさんってそういう性格だもんね。
【今さらだけど、るるハル配信画面はチラ見推奨。 酔うぞ】
【もう遅い】
【どうしてもっと早く言ってくれないの!!!】
【いや分かるだろ……】
【ばか!!】
【草】
【もはや緊張感も何も無いな】
【いや、あるぞ? このアクションに】
【確かにな、こんな立体戦なんてダンジョン配信じゃ初めてだもん】
【そりゃそうだ、こんなに飛び回る人間なんてこれまで存在しなかったからな】
【ハルちゃんはやっぱり天使だったな】
【るるちゃんは?】
「ひぃぃぃぃぃ!? ハルちゃん、今じゅって言った! 私のスカートの裾焦げた!!」
【なんかこう……元気な子?】
【草】
【かわいくて草】
【そんで完全に聞こえてないハルちゃん】
【ま、まあ、じっさい轟音で配信もぎりぎり聞こえてるくらいだし……】
【現地じゃそりゃあうるさいしな】
【お、リリえみが】
ん。
「――――!」
「――――――!」
彼女たちの一閃。
それと同時に、ノーネームさんが――傾いた。
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