115話 地下と空の最終決戦 その4
ここまで来たら最終話まで1日2話投稿。
こちらは本日2回目の投稿です。今日の1話目がまだの方は前話からお楽しみください。
とすっ。
僕の放った矢たちは――特に邪魔されることもなく、綺麗に頭のコアへ。
「やったぁ!」
「あの距離のドラゴンの頭に……」
「さすがはハル様です!」
【しゅごい】
【これはさすハル】
【さすハル!】
【ナイスヘッドショット】
【銃から弓矢に変えてから最初ので頭にクリーンヒット……】
【あの、あのドラゴンさんの頭まで、控えめに見て数十メートルあるんだけど……】
【今さらじゃない?】
【今さらだな】
【ああ、通路の先の見えない爆発の罠を起動させるよりは簡単だろう】
【確かに】
「――――――……」
頭に当たって、のけ反ってるドラゴンさん。
「!」
【え?】
【ハルちゃんがびくってなってる】
【た、倒したんでしょ……?】
【そうだって言ってよハルちゃん】
「――みなさん、下がって!」
振り返ってそう叫んだ僕は宙に浮く。
……あ、るるさん。
「下がるよ!」
「え、ええ!」
「はいっ!」
こんなことは初めてだし聞いたこともない。
でも、僕の肌はびりびりしてる。
……これが、魔力。
今まで何となくでしか感じてなかった、ダンジョンの中でしっとりして気持ちよかったあれが何千倍にも濃縮されたような、ぞくっとする何か。
「――グォォォォォォ!!」
その魔力がすっごく集まる感覚に振り向く。
【え……】
【嘘……】
【あのドラゴン……再生してる……!?】
【折れた角とか破れた翼が……】
【再生とかありかよ!?】
【ノーネームちゃん!!!! ちょっと!!!】
【必要】
【何が必要なのノーネームちゃん!】
【もう充分遊んだでしょ!?】
【さっさとハルちゃん解放なさい!】
【必要】
【10】
【始原】
【原始】
【誕生】
【転換】
【間違】
【歴史】
【修正】
【遡行】
【犠牲】
【回避】
【性別】
【必要】【必要】【必要】【必要】【必要】【必要】【必要】【必要】【必要】【必要】【必要】【必要】【必要】【必要】【必要】【必要】【必要】【必要】
【ノーネームちゃん!?】
【悲報・ノーネームちゃんバグった】
【ダンジョンを支配してるノーネームちゃんがバグったらどうなるのよ!?】
【ちょ、10とか言ってるんだけど……まさかあと10回再生とか!?】
【無理無理、絶対ムリ!?】
【もう無理だよ、ハルちゃんたちリストバンド使って!】
「……どうやらノーネームさんがバグを。 コメントもおかしなことになっています」
「えっ……」
「……………………………………」
ドラゴンさん。
さっきはもうHP無かったはずなのに……見た感じ、もう半分くらい回復してる。
「……視聴者だけでなく、事務所やダンジョン協会からも撤退指示が。 使いましょう」
「う、うんっ! ……ハルちゃん? リリちゃん?」
でも、半分止まり。
そこからはものすごく遅くって……あのドラゴンさん。
僕を見てる。
じっと見てる。
まるで――「回復しきらないように抑えて」いる。
「……まさか、ここが……でも、このノーネーム様のコメント……あのときの……」
「リリさん大丈夫ですか」
「……ええ、問題はありません」
「よかった……え、ハルちゃん」
「この体だから、僕は」
【えっ】
【この体って何?】
【朗報・ハルちゃん、立つ】
【いつの間にか矢筒と……なにあれ】
【ランドセルみたいなのの下に筒が】
【それってるるちゃんときのじゃね?】
「……多分、倒せます」
ちらっと目を離してすぐに戻す。
けども、ドラゴンさんと僕の視線はぴったり合ってる。
さっきまでとは違う。
ちゃんと「知性を持っている生命の瞳」そのものだ。
「あの、ノーネームさんを」
「え?」
「ノーネーム……?」
「……なるほど。 先ほどまでは分かりませんが、あのドラゴンの中にノーネーム様が。 そういうことでしょうか」
「ただの直感ですけど」
「ハル様の言うことですから間違いはありません」
「いや、僕だって間違えますし、これ、勘ですからね?」
【草】
【全肯定リリちゃんをなだめるハルちゃん】
【ハルちゃんってばそのへんは妙に律儀よね】
【でも、あのドラゴンがノーネームちゃん!?】
【朗報・ノーネームちゃんドラゴンに進化】
【悲報・ノーネームちゃんまだやる気満々】
【朗報・ノーネームちゃん、ドラゴンっ娘】
【バグってるよりはまだ良いけど】
【いや、良くないだろ】
【そうだぞ、今までのドラゴンは簡単なモーションだけだったけど……もし中身がノーネームちゃん、それかノーネームちゃんが操ってるなら】
僕が矢をつがえると、合わせて叫び、勢いよく飛び上がるドラゴンさん。
「……みなさんはリストバンドで……っ!?」
そう口にした僕が、ふわっと浮く。
「――本当にピンチになるまでは一緒だよ」
……またるるさんが、僕を抱っこしてる。
「……ええ。 最後まで一緒です」
「ハル様だけを置いて戻れません」
「……でも」
抱っこしようとして僕の背中のを外して自分が背負って。
「……私たち……今回、ぜーんぜん活躍できてないんだから!」
「ですね! 雑魚の露払いだけというのは少し残念だったんです!」
「先ほどまで同様、私たちが交代で運びます。 ……申し訳ありません、我が儘を」
「……分かりました」
――「もう良いかい」。
そう問いかける視線。
「……もう、良いです……よっ!」
それに応えた僕は……これまでの戦闘とは違って、まずは牽制のための矢を放つ。
その意図を汲み取ったらしいドラゴンさん――ノーネームさんは、翼でそれを一振り、風で逸らす。
「……今みたいに、これからは翼とか尻尾でガードされます」
「つまり」
「私たち近接職の出番ですねっ!」
◇
【しゅごい……】
【これ、ダンジョンなんだよな……?】
【映画みたい】
【映画って言うか、昔のゲームとかでドラゴンと戦う場面そのもの……】
「えみ様!」
「左へ!」
ノーネームさんの足元に、近接職の何らかのスキルを使って詰め寄ったえみさんとリリさん。
彼女たちが――それに反応して回避しようとするノーネームさんの翼をすり抜け、脚をその剣で切りつける。
ノーネームさんは叫んでたたらを踏む。
そのスキにつがえていた僕は、同じくものすごい速さで駆けるるるさんに任せて弓を引き絞る。
「……ここっ」
ひゅんと、これまでよりもずっと近い交戦距離で矢を放つ。
ノーネームさんが突き出した手――ドラゴンさんのだから体のサイズに比べてちっゃちいんだね――で、半分ブロックされる。
でも、2本は頭に刺さった。
「グォォォォォォ!?」
「ハルちゃん離脱するよっ!」
「了解です!」
「引き続き足元で引きつけます!」
みんなの認識では、僕は小さな幼女。
後衛職。
もやし。
低体力。
だからるるさんも全速力でノーネームさんから離れて、さっと岩陰に。
「……ふぅっ」
「あと何回できそうですか?」
「そうだねー、あと……5、6回かな」
【何この熱い展開】
【まさかのvs.ドラゴンしゃんinノーネームちゃん】
【ハルちゃんたちと直接対決とか】
【やば】
【明らかにモーション違うもんな】
【ドラゴンがイレギュラーなモーションするだけでこんなに厄介だなんて】
【あ、えみちゃん危ない!】
ずしん。
その振動で岩から顔を出す。
「えみちゃん!」
「大丈夫です! 回避は間に合いました!」
ドラゴンさんの長い尻尾。
それが、ノーネームさんから見て真後ろのはずのえみさんをかすめたらしい。
「……ここは対人戦をイメージされると戦いやすいかと」
「ええ……! 『ドラゴンの皮を被った人間』、ですね!」
「えみちゃん! 交代するときは言って!」
「ええ!」
頭を振ってるノーネームさんがゆっくりと振り返る。
僕を見て――えみさんたちの方を見て。
分かりやすく、分かりやすすぎるくらいに。
――「この攻撃は、どうするの?」
そう訊ねている。
「……るるさん」
「今のヘイトはえみちゃんたちだね!」
「はい、なので後ろから回る形でお願いします」
ひゅんひゅんっと牽制矢を遠投。
牽制と言っても一応、頭以外のコアも狙ってる矢たち。
それを的確に翼で払うノーネームさん。
「……そっちを見ていてよろしいのでしょうか、ねっ!」
「私、これでも人類最高峰の1人、なのですよっ!」
ノーネームさんが前を向いたときには、もうえみさんたちは目の前。
すっごく飛び上がって、ドラゴンの胸元をふたり同時の剣戟で切りつける。
「……反撃はダメですからね、ふたりとも」
「じゃ、また走るよハルちゃん」
ふたりを追いかけようとしたノーネームさんにもっかい牽制矢。
ここまで来たんだってことで込める魔力も遠慮なし。
だからかなりの速度になった数本の矢は無視できない。
――ましてや、今までみたいにどっかから見てるんじゃなくて、動いてるものの中にいるんだったらね。
「効いていますよハルさん!」
「ハル様素敵です!」
「どうでも良いですから早く逃げてください2人とも、ぺちゃんこにされますよ」
【草】
【ああ、そういえばこの2人……】
【ハルちゃんに変態的嗜好持ってたねぇ……】
【それに的確に反応するハルちゃん】
【普段の苦労がうかがえる】
【朗報・普段からハルちゃん襲われてた】
【それを今みたいにジト目で追い払ってた】
【まさかの百合百合!】
【ショタです!】
【ショタですわ!】
【かわいいボーイよ】
【うわ出た姉御軍団】
【草】
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