111話 最後の夜、そして500階層へ
こちらは本日2回目の投稿です。今日の1話目がまだの方は前話からお楽しみください。
「美食の国の華の都とか……あ、そうだ」
僕が身分の問題に想いを馳せていたら、いつの間にか行くことになってたらしい海外旅行。
そのプランニングで盛り上がってたるるさんが、声を上げる。
「『外が』ってコメントが多いんだけど……えみちゃん分かる?」
「いえ……しかし多いですね」
【まずい】
【ごまかせごまかせ】
【誰か任せた】
【人頼みかよ】
【だって俺苦手だもん】
【草】
【……そう、マスコミ! ダンジョンの入り口、ハルちゃんが2週間の攻略帰還な画を取りたいっていっぱいで大変だから!】
【そうそう、マスコミとか野次馬がね!】
【それだ!】
【そうそう、大変なのよ!】
【たくさん居てね? 1回捕まったらハルちゃんたち離してくれないほど熱心でね?】
「……攻略したら、まずは帰還直後が大変みたいですね」
「あ、ほんとだ。 マスコミさんがいっぱいなんだって」
「ふーん」
【危ねぇ】
【セーフ】
聞いた話だと、ノーネームさんがいろいろやらかして配信サイトも落ちてたみたいだし……そりゃあカメラもいっぱいこっち向いてるよね。
僕自身は隠蔽スキルで、いざとなれば全くの素通りもできるだろうけども、るるさんたちはそうはいかない。
えみさんも大変だろうし、外国人なリリさんだって群がられて大変だろう。
なんとかしてあげたいけども無理かなぁ。
「ノーネームさん?」
【ひぇっ】
【唐突な召喚の儀やめてハルちゃん!】
【やめてハルちゃん! 俺たちの心臓止まっちゃう!!】
【というかここまで来てもまったくコメント見てないハルちゃん】
【ブレないな】
【あのあと事務所に当直で残ってたスタッフさんがワンオペでコメント選別してくれてるのにね……】
【スタッフさんかわいそう】
【ま、まぁ、るるえみが代わりに読んでくれるから……】
【何】
【お返事来てるよハルちゃん】
【って言うのをるるえみプリーズ】
「……だそうです。 と言いますかハル」
「だってえみさんたちが読んでくれるから」
「ハルちゃん変わらないねぇ……それで?」
「あ、そうだ」
ノーネームさんに話しかけようとしたけども……あれ、ノーネームさん、どのカメラから見てるんだろ?
これかな……それともこれ?
周りに浮いてるみんなのカメラを1個1個のぞき込むけども、何か違う。
んー、どれだろ……あ、これっぽい。
【かわいいぃぃ】
【ハルちゃんが1個1個のぞき込んできてる!!】
【不意打ちのガチ恋距離はやめて……嬉しいけどやめて……】
【あ、ちょっと高血圧の薬……】
【草】
【いつも通りのハルちゃんで安心した】
僕の頭の上にあるカメラ。
なんだかんだでお世話になってるそれに、話しかける。
「ノーネームさん。 僕たちが脱出したら、守ってくださいね?」
マスコミさんとか。
ほら、あることないこと書かれるって言うし、ストーキングされるって言うし。
【約束】
「約束してくれるって」
「そうですか」
とりあえず周りでふよふよ浮いてるカメラの何個かと目を合わせておいたから反応してくれたのかな。
【約束約束約束約束】
【草】
【ノーネームちゃん落ち着いて!!】
【ハルちゃんに話しかけられてよっぽど嬉しかったらしいノーネームちゃん】
【気持ちは分かる】
【確かにね……ハルちゃん、滅多にカメラ向いて話してきたりしないし……】
ノーネームさんはいたずらっこだけども、ほんとにひどいことはしてこないはず。
あ、でもるるさんの両親……そうでもないかなぁ。
今回のだって一方的に呼びつけてるし……やっぱよく分かんないな、ノーネームさんって。
◇
それからぐっすり寝て翌日。
ふぃぃぃんと進んできた僕たちだったけども。
……ぷすぷすぷすぷす。
「む、ガス欠」
高度が下がっていくイス。
「……そういえばそうですよね……普通の乗り物ならバッテリー切れ、起こしますよね……」
「よかったぁ……これ、縦穴降りてるときじゃなくてよかったぁ……!!」
【草】
【抜群の安定感で忘れてたけど確かにそうだわ】
【でもできたらあと少し動いてほしかった気持ち】
【無補給で動くとか言ってたけど、さすがにこの酷使は想定していまい】
【しかしラスボス前でまさかのガス欠とはな】
【毎回おいしいハルちゃん】
【どこを切り取っても撮れ高にしかならない幼女】
今朝から「なんかスピード出ないなー」って思ってたイスっぽいの。
さすがに酷使しすぎたのか、ゆっくり着地してもう動かなくなった。
「今までありがとね」
とんっと着地して振り返ったイス……って呼んであげよ……は、どこかくたびれてる。
【やさしい】
【ハルちゃんいいこ】
「ハル様の髪の毛が……るる様に睨まれずに嗅げる、唯一の手段が……!」
「リリちゃん……」
【草】
【感動の場面の真横で打ちひしがれてるリリちゃん】
【リリちゃんおもしろすぎない?】
【さすがのるるちゃんもドン引きよ?】
【ここへ来て個性があふれてきたな】
【ああ……!】
【えみちゃん→幼女趣味】
【リリちゃん→クンカー】
【るるちゃん→ヤンヤン】
【ハルちゃん→ハルちゃん】
【くしまさぁん!】
【くしまさぁん! 戻って来てー!】
【この4人制御できるの、くしまさぁんだけなの……】
【くしまさぁんが唯一の希望になってて草】
499層。
階段は目の前。
「……ノーネームさんのせいですか? これ」
【違】
【違違違違違違違違違違違違違】
【唐突なジト目がノーネームちゃんを襲う】
【ノーネームちゃんしっかり!】
【致命傷だ、落ち着け!】
【えみちゃんるるちゃん! 違うって言ったげて!】
【じゃないとノーネームちゃん壊れちゃう!】
「あ、違いましたね。 普通にバッテリー表示ありました」
「え?」
「ほら、ここ。 イスのこのへんに」
ひっくり返してみると意外と軽かったイス。
その、おしりが乗るところの反対側にばっちりパネルがあった。
「……どうして裏側に?」
「さあ?」
おしりの下に潜って毎回操作するの?
あ、でも確かに、るるさんが変形させたときは下に潜ってたね。
……これ作った人も……ヘンタイさん?
【えぇ……】
【このイスっぽいの、ほんと……何……?】
【わかんにゃい】
【これ、どんな設計思想で作られたんだろうね……】
【ま、まあ、これまで無事に乗れてたから……】
よく分かんないけど、お世話になったのは確かだ。
ありがと、イスっぽいの。
正式名称は……なんか読めないからいいや。
【お、きちゃない袋】
【きちゃない袋にイスっぽいの、ないないしてる】
【すげぇ……どう考えても入るはずないのにしゅるって入ってる……】
【今さらだろ?】
【今さらだけどさ……ダンジョンのドロップ品ってすごいなって】
なんだか久しぶりに歩く気がする……いや、本当に久しぶりだ。
何日……2週間ぶり?
まとまった時間歩くの。
って言っても、目の前に階段、その下はラスボスフロアなんだけどね。
「……いよいよですね」
「そうですね」
かちゃかちゃっと装備を点検。
これまでの経験できちゃない袋にしまってると、とっさのときに出せないって分かってるから必要なものを1個ずつ。
「みなさんも必要なものとか言ってください」
「あ、では私は魔力ポーションを……」
「あ、私私ー! 長めの剣ー!」
「……水分補給を」
言われるままにきちゃない袋から1個1個取りだしていく僕。
……これ、何となくで入ってるのとか分かるし、何となくで取り出せるんだけど……欠点としては1個ずつってこと。
だから毎晩のキャンプ用のとかは地味に大変だったり。
まぁ運んで遅くなるよりはずっと良いからがんばってたけどね。
【すげぇ……まるでダンジョン攻略に向かうみたいだ……】
【お前は今まで一体何を見て聞いてきたんだ】
【えっ】
【草】
【辛辣すぎない?】
【だってそうじゃん! 今までのはどう考えても普通のダンジョン攻略じゃないじゃん!! ばか!!】
【なぁにこれぇ!】
【んにゃぴ!!】
【草】
【怒濤の返事で草】
【かわいそうに……ハルちゃんのせいでここにも情緒が破壊されたヤツが……】
【けどハルちゃんすごいね……斥候兼スナイパー兼メインアタッカー兼ポーターだもん】
【なんだその完璧超人】
【ハルちゃんだよ】
【そういえばそうだった】
【大丈夫、のんびりしてるし、おねむだしって隙は結構あるから……】
【でも並べられると改めてすごいな……】
【もうハルちゃんだけで良いんじゃない?】
【だからハルちゃんは電池切れが早いんだって】
【これ、もうハルちゃんとその仲間って感じだよね】
【ハルちゃんを無事に送り届けるのが攻略だからな……】
「あ、500階層、馬鹿でかいのと、モンスターわんさか居るので気をつけてくださいね」
「え?」
【え?】
【悲報・ノーネームちゃん本気】
【多分決戦が見たかったんだろうし……】
【ハルちゃんの実力を出させたいという確固たる遺志を感じる】
【なぁにこれぇ……!】
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