107話 『500階層RTA配信:下層』10
こちらは本日2回目の投稿です。今日の1話目がまだの方は前話からお楽しみください。
ふぃぃぃぃん。
「このイスでの移動にも慣れてきましたね」
「ハルちゃんはね……」
「運転手は酔わないからな……」
「あら、私は楽しいのですけど」
【結局あんだけぶち抜いてからは普通に攻略してるハルちゃん】
【普通……?】
【普通(機動力をイスっぽいので補って、直線では車並みの速度出しながら超長距離射撃で基本ヘッドショット】
【は、ハルちゃんだからね……】
【ハルちゃんに常識は通用しないんだ】
長ーい縦穴から慎重に降りて何階層か。
みんなが、特にるるさんがあんまりにも怖がるからなるべく安全運転、速度も落としてわずかな揺れも起こさないようにって慎重な運転中。
【けど、ずっと使って来た銃、ダメになっちゃったんだよな?】
【いや、まだ使えるし弾も残ってるんじゃ?】
【確かここからは節約するからって言ってた】
【そうだったっけ……あまりのインパクトで忘れたよ】
【草】
【気持ちはよく分かる】
手に馴染んだ素敵な狙撃銃の残弾は100を切ってる。
強いやつが出て来たとき用に残しとくとして、残りの銃と弾もできるなら温存したい。
【……だから、さっきから弓矢なんだよね】
【あの、なーんで動いてるのに弓矢で超長距離射撃できるんですかねぇ……】
【ハルちゃんに常識を求めてはいけない】
【そうだった】
【まぁでもさすがに大変そうだけどな】
【銃と違って弓とかスリングショットは筋力使うからな】
「ハル。 リスナーさんたちが、あなたの体力の心配を」
「そうなんですか?」
「あんなに遠くまで飛ばせるのですから、相当に筋力も体力も要るだろうと……」
「んー、スキルとか無意識で使ってるからか、見た目ほどじゃないんですけどね」
魔力とか無い状態で弓を引くと、確か30メートルだっけ?
そのくらい飛ばすのでも、がんばって1日100回くらいとか聞いたことがある。
けど僕たちはダンジョンに潜って、ダンジョンの魔力も使ってるわけで、さらにはドロップ品、さらにいいやつだからほんと、今の僕的には引っ張ってるって言うよりは両手広げてる感じだからなぁ。
普段の攻略でもほぼほぼスリングショットで石投げ続けてたし、疲れるって言われたらそうだったっけって感じ。
「んー」
わきわき。
にぎにぎ。
「……まだまだぜんぜん平気っぽいです」
「ぐっ……!」
「えみちゃん……」
「あのお手々を舐め回……こほん」
【草】
【ぺろぺろ】
【リリちゃんが俺たちと同じ思考をしている】
【俺たちの同志だと分かったえみちゃんは懸命に我慢している】
【うん……目の前でにぎにぎしてる幼女がいたらねぇ……】
【けどほんと、なんでハルちゃん大丈夫アピールがおててにぎにぎなの】
【分からないけど毎回するよね、ハルちゃん】
【かわいすぎる】
【歓喜】
【ノーネームちゃんもご満悦】
【ノーネームちゃんがご機嫌ならもう何でも良いや】
【ハルちゃんって表情動かない分、やっぱ体で表現するよね】
【これが幼女なのか……】
【背の低い子供だからこうでもしないと大人の目に留まらないんだろうね】
「矢は相当あるんだったっけ?」
「あ、はい。 銃と違って大体互換性ありますし。 ただ銃と違って弦が切れたら別のと変えますけどね」
弓矢。
銃が登場する前の戦場の主役だっただけあって、やっぱり遠くの敵を倒すのには役に立つもの。
銃よりは……ずっと使ってると疲れるけども、毎回両腕を使うから肩は凝らない。
まぁこの体じゃそもそも肩は凝らないけどね。
「でもやっぱり弓は良いです。 こうやって」
ちょうど曲がり角から出て来たドラゴンさんに向けて構える。
【あ、ドラゴンしゃん】
【今からひき肉になるドラゴンしゃん】
【あれは何ドラゴンしゃんなんだろうね】
【わかんにゃい】
【ガチで図鑑にも載ってないからわかんにゃい】
【んにゃぴ……】
【視聴者のIQが落ち切っている】
【ここまでいつもの】
ひゅんっ。
――特にあの大穴から降りてきたから、銃でも1発で仕留められなくなってきた。
でも、弓矢なら。
「複数本の矢をつがえて同時射撃……それ1体に命中させれば」
「攻撃力の低さも補えますし、相手を選べばぼろぼろの矢でも倒せますね」
3本の矢が頭に刺さったドラゴンさんは地上へ落ちていく。
……ずしん。
うん、受け身も取らなかったし動かない。
この辺りのモンスターは3本で良い、と。
「すごいねぇ……私も弓とか試してみよっかなぁ」
【やめた方が良いと思うよ】
【るるちゃん! ハルちゃんを基準にしちゃダメでしょ!】
【そうだよ、普通はこんな曲芸できないのよ】
【だよなぁ……50メートル以上離れた場所から飛び出して来た浮遊モンスター】
【それを移動先を予測しての偏差射撃、それも自分も浮かんで移動してる状態】
【さらには矢を3本つがえて同時に放って、しかも狙った通りに命中させるとかな】
【弓のスペシャリストでもここまではできない】
【今ごろこれ観てるスペシャリストさん凹んでそう】
【大丈夫、ハルちゃんは特別だから俺たちとは切り離して考えられるようになった】
【草】
【この配信、なんでも居るな】
【だってもはや全世界が注目してますし】
【ハルちゃんってば、こういうことするから注目されるのに……】
【まぁこうでもしないと攻略できないし】
【この勢いで外国IPが弾かれてるってすごいよな】
「じゃ、また速度出しますよ」
「う、うん……」
「お願いします……」
「すんすんすんすん」
「リリさんはもうちょっと鼻息静かに」
【イスっぽいのの左右で真っ青なるるちゃんと、衝動を抑えるので大変なえみちゃん】
【そうして後ろで酸欠になりながらも嗅ぎ続けるリリちゃん】
【リリちゃん……】
【どうしてこうなった】
【ヒント:ハルちゃん】
【ああうん、ハルちゃん謎の魅力があるもんね……】
【この見た目と話し方とか動作のアンバランスっぷりがね……】
【ま、まあ、リリちゃんが幸せそうな顔してるから……】
【そうだよな、こういうのは当人同士の話だもんな!】
【ねぇお前ら攻略の話は?】
【だってすることないもん】
【ハルちゃんに安定感がありすぎるのが悪い】
【いや、良いことなんだけどね】
◇
『なんだこのベアー、これまでこんなのには……ぐわーっ!』
『くそっ! 隊長がやられた!』
『駄目だ、やはり緊急回線も!』
『……撤退する! 全員緊急離脱装置を……』
【草】
【いや、草じゃないんだけどな】
【やっぱり圧倒的戦力差だったね……】
【だって多分ここ、推奨レベル20↑よ?】
【それも20↑で複数名って言う、全世界でも数パーティしか作れなさそうな、な】
【やっぱりノーネームちゃんの調整バランス崩壊してるじゃねーか!!】
【で、でも、ハルちゃんはすいすい進んでるし……】
【だってハルちゃんは天使だもん、人間じゃないもん】
【そうだった】
数組の兵士たちが1人、また1人と失って……地上へ送り返されて攻略不可能となり、帰還していく姿で盛り上がるネットのこちら側。
【朗報・ハルちゃん、何もしなくても撃退できちゃった】
【しゅごい】
【ハルちゃんっていうかノーネームちゃんな】
【でもそのノーネームちゃん、ハルちゃんの活躍が見たくてこの難易度にしたのよ?】
【さっきも歓喜してたしな】
【つまりハルちゃんのレベル&スキルにつられたってことで】
【なんならこっそりモンスターたち、強いのに入れ替えてる疑惑すらあるしな】
【ああうん、それハルちゃんのせいだわ】
【草】
【ハルちゃん……知らないでこんなことまで……】
【でも良かった。 一時期はほんと、近くまで迫ってたもん】
【これでとりあえず数日は稼げるか?】
【数日あったら帰還しちゃうんじゃ?】
【リストバンド……あっ】
【おい、繋がっちゃう発言は慎重にな】
【悲報・ハルちゃんたち、攻略できてもできなくてもリストバンドで帰還したら出待ちしてた兵士さんたちに捕まっちゃう】
【そんなのある??】
【攻略当初こんなの予想してなかったし……】
【えっと、ちょうど攻略期限&ハルちゃんが攻略できるとしたらぎりぎりなタイミングで各国から集結しちゃうんですけど……】
【えっ】
【……これ、詰んでない?】
【詰んでる】
【もうダメだぁ……】
【仕方ない、ここは籠城だ】
【あ、そっか。 ハルちゃん、ダンジョンの中快適だって】
【草】
【まーた繋がっちゃったよ】
【え!? せっかくクリアしたと思ったら今度はダンジョンの中に留まってサバイバル!?】
【こっちの状況が変わらない限りはそうねぇ……】
【攻略できても失敗、できずに撤退しても失敗……確かにこれ、ダンジョンの中でノーネームちゃんごと隠れて、事態好転するの待つしかないもんねぇ……】
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