106話 『500階層RTA配信:下層』9
もう少しストックがあるのでまだ1日2話投稿。
こちらは本日1回目の投稿です。昨日の2話目がまだの方は前話からお楽しみください。
よく分からない力で動いて、よく分からない力で浮いてるこれ。
これはどうやら真下に床がなくても普通に浮けるらしい。
最初やろうとしてえみさんに止められて、みんなでいろいろテストしたし、もう何階層も越えてきたから安全は確認済み。
だから僕たちは、さっき貫通させた穴の真上に浮かんでる。
もちろんいつもの爆発の罠コンボ……や、このダンジョンの下層のはなんかすごい威力だけどね。
「……ひぇぇぇ……やっぱりこわいぃぃ……」
「漆黒の大穴……8階層下までだとすると……何十メートル……いや、百メートルは優に……」
「分かりません……そもそもこのダンジョン、100階層辺りからサイズも規模も通常のそれとはまるで違いますから……こんなものは私の国でも……」
敵は全部排除してあるし、下まで全部爆風で貫通済みだから浮遊モンスターもすぐには来ない。
そういう予想と、なによりもみんなが怖がるから……降りるときだけはみんなが僕と同じ場所に乗り移ってる。
つまり、ぎゅうぎゅう詰めだ。
【●REC】
【ノーネームちゃん楽しそうね】
【でもわかる】
【ハルちゃんはちょっと嫌がってる】
【ちょっと眉間にシワ寄ってるハルちゃん】
【ハルちゃんとぴったりくっついてる3人】
【これが百合か】
【おねショタ!!!】
【どっちでもいい……とにかく尊い……】
【ああ……】
「じゃ、降りますね」
「ゆっくりとねぇ――……ひぃぃぃ……」
「るる、こういうときは下を見ては行けません。 ハルさんを見ていましょう」
「!!」
「リリさん、気が散ると制御荒くなりますよ?」
「ハル様に怖がらせられるのでしたら……」
「もう少し顔離してください。 あとすんすんすんすんうるさいです」
るるさんはしょうがない。
なんでも高所恐怖症……いや、僕だって安全だって確信してなきゃこわい。
えみさんは普通に怖がっててヘンタイさんしてこないからまだいい。
……でもなんでリリさんはさっきからそうなの……?
【草】
【ハルちゃんとリリちゃんの配信、ものすっごい音だもんな】
【ASMR勢としては大変に良いものだ】
【耳元で匂いを嗅がれるASMR……斬新だ……】
【このノリなクセに、攻略自体はすごいペースって言うね】
【今日だけで大きく進んだし、引き離したもんな】
【さすがの……やつらも真似できはしまい】
【ハルちゃんのせいでところどころ大穴は空いてるけど、奴らがたどり着いたとしても降りる手段はロープでゆっくりが限界だもんな】
【つくづくこのイスっぽい何かが役に立つ】
【けどほんと、これなんだろ……】
【さあ……?】
【世の中、知らない方が良いこともあると思うよ】
【なるほど】
【ボッシュートされたくないなら追求はやめような!】
【賢明】
【命拾】
【えぇ……】
【悲報・ノーネームちゃん、ガチでなんかやばいことしてた】
【ノーネームちゃん! 連れてった人たち返しなさい!】
【今度】
【今度!? 今度って何!!】
【早く返しなさい!!】
【遊】
【草】
【遊ぶって何!?】
【い、一応返してくれる意志はあるらしいから……】
【というかマジで連れ去られてたのかよ】
【てっきりそういうノリかと思ってたわ】
◇
『……やはり駄目か』
『はい、どうしても……この会話自体も……』
『やむを得ん。 以後は我々の判断で攻略する』
260階層。
そこには星条旗を縫い付けた完全装備で動く兵士たち。
【ハルちゃんたちの方大丈夫っぽいから二窓でこっちに来ましたー】
【来ましたー】
【やっほーお邪魔虫さんたち】
【いぇーい、見てるー?】
【ノーネームちゃんの判断であっちからはなんにも見えないし分かんないんだと】
【かわいそう】
【俺たちに観られてることすら気が付けなくてかわいそう】
【しかも地上との交信がノーネームちゃんに検閲されてるってね】
【しかも全世界の民間人にまで筒抜けってね】
【こんなのある?】
【あるだろ ノーネームちゃんだし】
【ああ、うん……】
【まあ、そうねぇ……】
【ノーネームちゃん自身のピンチでもあるしな】
【全世界の民間人の前で無茶はできまいと言うノーネームちゃんの発想には脱帽だよ】
【すごいだろ……これ、人類以外の生命体がやってるんだぞ……?】
軍用のパワードスーツを着込み、明らかに高級ドロップ品、ないしは出力の桁違いな銃を使用して難なく突破していく彼ら。
100階層どころか200階層でも――もちろんこの前にハルたちが、主にハルが蹂躙したためにモンスターの数も減っていると言うのもあるが、それでもやはり上位ランカーと呼ばれる民間人たちよりも、総じて練度とレベルが高いようだ。
だからこそハルたちのパーティーが攻略した何倍のスピードで攻略してきたわけだが……そこで、その事実にようやく気が付いた彼らは落ち込んでいる。
『……もう遅きに失しただろうが、以後の会話では極力……控えるように……』
【草】
【「全世界の俺たちが聞いてる」ってさっき地上から言われたもんだから、もう何にも言えなくなってて草】
【情報戦ってしゅごい】
【全員のカメラとマイクをハックしての全世界公開とかほんと斬新な発想ね、ノーネームちゃん】
【照】
【かわいい】
【かわいい】
【どやってるノーネームちゃんかわいくて草】
『……我々には彼らの配信のデータがある。 彼らの進んだ道通りに行けばほぼ最短、かつ罠も解除済みだが用心するように』
【あ、ずっこい!】
【いーけないんだーいけないんだー】
【ノーネームちゃんに言ってやろー】
【了解】
【え?】
『――うわっ!?』
『た、隊長! タブレットが――』
『――これも”NO NAME”のせいか!』
彼らが持っていた端末がいきなり火を噴く。
とっさの判断で投げ捨てられたそれらは――ぼんっと爆発した。
『shit!』
【えぇ……】
【ノーネームちゃん過激ぃ】
【でもよくやった】
【えらい】
【地上との通信があるから大体の方角とかは教えられちゃうけど】
【これでかなり足止めできるな】
【ほんと、ノーネームちゃんのおかげでハルちゃんたち逃げ切れそうだな】
【なにしろここはノーネームちゃんの中だからな】
【ノーネームちゃんの中……あちょっと待ってごめんななななな】
【ひぇっ】
【気をつけろ、ノーネームちゃんはセクハラには特に敏感だぞ】
【ノーネームちゃん、お年頃】
彼らのグループが260階層で絶望感に浸っている一方、画面の向こうの一般庶民たちは――湧いていた。
◇
「ノーネームちゃんが、まさかここまでやってくれるとはな」
「想像以上じゃな」
「何、外交上のペナルティーを振り切ってまで勝手に侵攻を開始した連中です。 正直溜飲が下がりましたよ」
「アタシの古い外交筋も総動員したからね。 大変なのはこれからさ」
「あ、この配信、各国首脳からも観られてて、さっきしゃべっちゃってたいろいろの機密事項とかで今ごろ各国からの抗議で大変だろうね?」
「ハルちゃんを捕まえようとするからこうなるんだよ」
一方の地下室。
そこで……勢いよく攻略しだしたものの、「あ、奴らの通話記録筒抜けだわ」と気が付き、いずれこうして攻略の勢いが衰えると悟ってようやくにまともな睡眠を摂り。
全員で優雅に「空飛ぶハルちゃんの攻略」を眺めたりしつつ作業をしている彼らは……杯を交わしていた。
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