101話 『500階層RTA配信:下層』6
こちらは本日2回目の投稿です。今日の1話目がまだの方は前話からお楽しみください。
「あと4日で180階層……だね……」
「単純計算はできませんが、1日あたり45階層」
「無理、……と言いたいところですが」
「ハル様ならできます!」
「いえ、無理だと思いますけど。 いくら僕の好きにして良いって言ったって」
「でも!」
「だから無理ですってば」
【草】
【ハルちゃんばっさり】
【まぁねぇ……】
【ハルちゃんだからこそ分かる現実】
【実力以前の問題よね】
【この決断があと何日か早ければあるいは……】
だってねぇ……あれからどんどん、フロアがおかしいくらい広いから。
何?
リリさんが持って来てた測定器具で調べたら、1個上の319階層、登る階段から下る階段までが20キロって。
20キロ。
ハーフマラソンの距離。
そんなのやってらんないよ……モンスターは大体1発で倒せるとしても、僕の体力的に。
ほら、僕、ずっと運んでもらって来たし。
8日目からも基本、攻撃時以外はあのイスの上だったし。
イス?
イスかもね。
学校にある普通のイスをベースに……なんかこう、SFチックに魔改造されてるけどやっぱイスだもん、これ。
制作者のセンスが光る。
悪い方向に。
性能は良いのに見た目がねぇ……。
「ハルちゃん、これ」
「? ああ、イスっぽいの」
乗り心地の良いイスを指差するるさん。
「イス……?」
「イス……なのでしょうか……」
みんなで首をひねる。
だって分かんないもん。
【何なんだろうね、ほんと】
【ぷかぷか浮いてるしさぁ……】
【なぁにこれぇ!】
【どうした破壊されし者】
【草】
実に寝心地が良かった空飛ぶイス。
帰ったら個人的に是非欲しいとこだけど……これが何?
「昨夜るるさんと見てたんですけどね。 説明書が入っていたんです。 ……説明書と言うよりはメモですが」
「はぁ」
「あのお兄さんな人と女の子の?」
「……どうやらそのようですね」
なんとなくだけども、あの2人に対して……ちょくちょく話しかけてこようとしてたあの2人のことを敵視してるっぽいリリさんが、やっぱりちょっと声のトーンを下げている。
リリさん、結構人の好き嫌い激しいカイプなのかな。
「ハルちゃん」
「はい」
「乗って」
「はい。 ……え?」
「乗って」
「あ、はい」
なんかるるさんがよく分からない表情で急かしてくる。
何かよく分かんないけど、とりあえず怒らせないようにしよっと。
【うん……まあ、そうねぇ……】
【昨日の夜の会議で、最後まで本当かどうか分かんなかったもんねぇ……】
【さすがにこんな状況だからウソだとは思わないけど】
【でも、もしこんなのが実現されてるんだったら】
「よっと」
僕が乗ろうとすると、すっと高度を下げて地面に着地。
僕が乗り込むとふわっと浮く。
……やっぱこれ、便利すぎない?
なにより寝心地最高だし……どうにかして持って帰りたい。
持って帰る。
だってこれ……僕の幼女としての肉体的なハンデをことごとく克服してくれるんだもん。
自転車とか電動スケボーとかじゃない、もっとすごいナニカだ。
「でも、僕が最速で行くんなら、なおさらこれに乗ってたら」
「いいのいいの。 ……えっと、このへん?」
「確か……」
SFっぽいかくかくしたイスの下の方をごそごそしてるるるさんのおしりをぼんやり見る。
「……あ、あった」
『戦闘モードに移行』
「!?」
【草】
【ハルちゃんびっくり】
【ものすっごく俊敏だったな、今】
【すげぇ……ハルちゃんってあんなに速く動けるんだ……】
【やっぱり猫だな】
【ああ……】
【野良猫ハルちゃん!】
……びっくりしたぁ。
「るる様? 音量が大きすぎてハル様が驚かれました」
「あ、うん、ごめんね?」
【リリちゃんおこ】
【ハルちゃんに対する執着が強すぎる】
【るるちゃんとはまた別のベクトルでな】
よく見たらイスの上のひさしっぽいとこにスピーカーっぽいの。
『側面1メートルから距離を取ってください。 10秒後に変形します。 8、7……』
「変形?」
なにそれすっごく楽しそう。
【わくわくハルちゃん】
【目が輝いてる】
【キノコ食べてるときみたいに光ってる】
【こういうとこは男っぽいよね、ハルちゃんって】
【分かる】
「あ〝うっ」
ごつっと衝撃があって、慌ててるるさんが這いだしてきてもぞもぞ離れて行く。
……痛そう。
【草】
【るるちゃんの不幸、久しぶりに見た気がする】
【俺も】
【ただのおっちょこちょいだけどな】
【でもなんか懐かしい】
でも……あれ?
僕は?
イスに乗ってる僕、このままで良いの?
大丈夫?
変形時にぺちゃんこにならない?
【きょろきょろハルちゃん】
【昨日の説明聞いてないもん、そりゃそうよ】
【ハルちゃんが乗ってないとできない機能とかさぁ……】
【徹底してるな】
【かわいい】
『――0』
読み上げが終わって、かしゃかしゃって音と振動。
「……………………………………?」
何か変わった?
「……これが……」
「ハル様。 戦闘モードですと前後が逆になるそうです」
逆?
後ろを振り向く。
……足元に台みたいなのができてる。
僕が立ち上がってちょうど肘付けるくらいのやつ。
「……あ、銃とか固定できますね、これ」
よく見たら良い感じの固定器具も備え付け。
良いねこれ。
【おお】
【なんかすごいけど……何?】
【なんだろうね……】
【イス?】
【いや、今はイスじゃないな……】
【映画とかで出て来る、空飛ぶ1人乗りのバイク?】
【でもタイヤないよ?】
【相変わらずに4本の脚出てるよ?】
【着地のとき気をつけないと大惨事】
【じゃあイス?】
【イスか……】
【もうイスでいいや……よく分かんないし……】
視聴者の人たちも困ってるらしい。
えみさんが視聴者さんたちと話す中、僕はイスの上でくるりと回る……と、さっきまで背中を預けていたクッションも変形していた。
何かこう、足場っぽいのもあるし、柵もあるし……なんかこれ失敗作じゃない?
違う?
【……プロペラのない移動用ポッド】
【それだ】
【SFものの映画とかで見るやつ】
【やっぱこれ、なんか技術おかしいって】
もっかい台の方に振り向くと、にゅっと出てくるハンドル。
あ、分かりやすく操作できるようになってるっぽい。
「――これで、ハル様はお好きな速度で攻略が可能となります」
「リリさん?」
ちょっとぐらっとしたと思ったら、イス……バイクの後ろにできた足場に乗って来たリリさん。
「あ、ずるい! ……よっと……私たちも!」
「ええ、最高時速……200キロ……は冗談でしょうが、疲れずに移動できますね」
「るるさん、えみさん」
3人が乗っても下がることなく浮いてるイス(バイク)。
え?
もしかしてそういうこと?
「……では私たちは、ここでお別れですね」
「? 九島さん?」
ぷかぷか浮いてる僕たちを地面から……ちょっと寂しそうな顔で見つめてるのは九島さんとか他の人たち。
「そちらの説明書はですね……えっと、『こんなこともあろうかと、燃料補給不要の次世代ビークルを作ったよ。 操作は……ゲーム世代ならちょっと触れば何とかなるし、なんなら音声認識でも充分なはず。 体重移動でも大体のことはできるよ』」
「『結構ファジー……適当な表現でも動くようにプログラミングしといたから。 それで、急いで攻略しなきゃなときはがんばってね』……だそうです」
「ほへー」
【かわいい】
【かわいい】
【ハルちゃん、感心してるときってほんとかわいいよね】
【ああ……知識を素直に褒め称える姿勢が読み取れる】
【本好きだもんね】
【本好きハルちゃん】
【けど、そっか。 ハルちゃん知らないんだよね、くしまさぁんたちが帰還するって】
へー、すごいんだ、このイスっぽいやつ。
でも……え。
お別れ?
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