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ぼやき王子とツッコミ令嬢

作者: つくも拓

文中の「私」は「わい」、「貴方」は「アンタ」、「違う」は「ちゃう」等、関西風に読んでいただくとより雰囲気が味わえます。

「まあ皆さん聞いてください」


プロムナードのめでたい会場の一画で衆目を集めているのはこの国の第三王子、ウイリアムである。


「なんなの、貴方は! 今日くらいおとなしくできへんの!

皆さんお騒がせしてごめんなさいね」


ウイリアムに駆け寄り叱咤してから集めた衆目を前に頭を下げまくっているのはコーロ公爵家の令嬢、アマンダである。

しかし会場を騒がせている割には二人に対する反応は悪くない。むしろ好意的ですらあるばかりか、どんどん人が寄ってくる。


「アマンダさん、いつもご苦労さん」

「王子、今日は何をぼやくんですか〜」


観客から声援が飛ぶ。

ウイリアム王子は日常の些細な理不尽や不満を衆目を前にぼやくため「ぼやき王子」の愛称で呼ばれている。王子のぼやきに時に同調し時につっこむアマンダは「相方」とか「飼い主」と呼ばれている。


“もう王子のぼやきが聞けなくなるかと思うと寂しいなと思っていたんだ”

“このプロムで一席やってくれるなんて”

“王子もわかってるよな〜”


「一席」呼ばわりされることからお分かりいただける通り、二人の掛け合いは「面白い」のである。

先日の掛け合いはこうだった。


「まあ皆さん聞いてください」

「なんやの、いきなり。またしょうもない話する気か?」

「最近はやれ合理化だ、経費削減だと声が上がっておりますわな」

「まあ、よく聞きますわな」

「私も無駄なお金は使うべきじゃない。いや、税金を使うんだから無駄金は使ったらアカンと思っております。

でもね、だからと言って何でもかんでも経費を削るのはいかがなものかと思うんですわ」

「ほうほう、貴方にしては真っ当なご意見やわな」

「つい先日もこの学校のトイレットペーパーが経費削減の掛け声の元にシングルの物に変わりましたわな」

「これまでの柔らかいダブルの物から変わりましたなあ」

「アレ、どう思われます?」

「どうとは?」

「学校のトイレを使う者のお尻はアマンダの面の皮みたいに丈夫な人ばかりじゃない、私の胃みたいに繊細な人も大勢いてますのや」

「誰の面の皮が丈夫やねん!人聞きの悪いこと言わんとって!

でもまあ言わんとする事は分かったわ。

要するに貴方は痔主やからシングルのトイレットペーパーだと刺激が強いっちゅう訳やな」

「私の話じゃなくて、あくまで一般的な話としてだな」

「一般的な話ね。まあいいわ。そう言う事にしといたろ。

ところでいぼ痔か切れ痔かどっちや?」

「切れ痔の方」

「やっぱり痔主やないかい!」

「しまった!誰にも内緒にしてたのに」

「見事にカミングアウトしたなあ…」

「まあ、バレたら仕方ない」

「今更一つくらい汚点が増えても誰も気にせんって」

「それもそうだな」

「納得するんかい!」

「話を戻そう。

自分の(ケツ)が丈夫だからって言って、私ら痔主の者にまで固い紙を強要するのはあんまりじゃないですか?」

「それはそうやな。一理あるわ」

「こんなことがまかり通るんなら血の雨が降るで!」

「ぶ、物騒やな。誰か警察呼んで!」

「?なんで警察呼ぶんだ?」

「だって貴方、血の雨降るぞって」

「血の雨が降るんは便器の中や」

「貴方のケツからかい!」

「まあ私はともかく、国王陛下うちのオトンが来校したら大変なことになるんじゃないかな」

「ええ? 陛下も痔なの?」

「何を言ってる。

国王と言えば我が国一番の大地主じゃないか」

「もうエエわ!」


いつもこんな調子なので、回を重ねるにつれて人気が出ている。

誰ともなく起こった「ぼ・や・き!ぼ・や・き!」のぼやきコールをアマンダはいつも通りチャッチャッチャッと身振りで鎮める。

「皆さん感謝おおきに、声援ありがとう」

「もう仕方ないなあ。

で、今日は何なん? 

しょうもない話やったら許さへんで」

「今日は皆さんに特権階級と言われる貴族の人権について一言申し上げたい」

「貴方大丈夫? 何か悪い物でも食べたの? 正気か?」

「何で正気を疑われるんだ!?」

「日頃の行い」

「えろう、すんません。でも真面目な話し。アマンダ。貴族の人権についてどう思う?」

「特権持ってる人間が自分の人権なんて気にすると思う?」

「普通に考えたらそうやな。

でもな、特権持ってるってせいぜい次男までくらいと違う?

三男や四男に特権のおこぼれがあると思う?」

「まあ確かに。戦争もないし、今の医療技術ならある程度まで育ったら殺されんかったら死ぬことはないわな。

そんなご時世で三男や四男にお鉢が回ってくるなんて滅多にないわなぁ」

「せやろ? なのに特権階級としての制限しばり)はある」

「まあ王族がアホや〜とか、風俗行ってる〜とか、教室で漏らした〜とか、風俗行ってる〜とか、海水浴場ですっぽんぽんで走ってた〜とか、風俗行ってる〜とか言うたら体裁悪いわな」

「何で風俗行ってる〜を何回も言うねん! しょっちゅう通っとるように聞こえるやないかい!」

「毎週行ってたらしょっちゅうや!」

「毎週なんて行ってないわい、せいぜい月に3回や」

「十分多いわい!」

「えろう、、すみません。

まあ風俗の話はともかく、何をするにも制限が多い」

「それはそうやな。やれ勉学だ〜、やれマナーだ〜って。私も貴族の子女だから身に積まされますわ」

「せやろ? なのに特権階級としての旨味はない」

「ほうほう…」

「特権貰えるから制限も我慢できるん違いますか?

特権貰えへんのに制限だけされる、そんな理不尽な話ありますか?

私らの人権、どうなってますのや!

世界人権宣言にも調印したん違うんかい!

責任者出てこい!」

「どうどう。少し落ち着きなはれ」

「私は馬か!」

「責任者は国王陛下あんたのオトンやないか。ホンマに出てきたらどないするねん」

「謝ったらしまいやないかい」

「謝るんかい!」

「私は色男みたいなモンやから」

「どこが色男や」

金銭カネ権力チカラもない所や」

「そこだけかい!

まあエエわ。で、本当のところは何が言いたいのん?」

「恋愛くらい好きにしたい…」

「貴方、好きな子でもできたん?」

「うん」

「どんな子?」

「花の(かんばせって、ああ言うのを言うんやろうな。

誰もが思わず振り返るその美貌…

美人って三日見たら見飽きるって言うけどアレは嘘やな」

「まあ♡ 私みたい」

「おまはんが振り返られるんは別の理由やろうな。人の好みはとやかく言えんし私は見慣れたし」

「何やと?」


ウイリアムはしれっと無視して話を続ける。


「世の女性の羨望を集めるメリハリのついたそのスタイル」

「まあ♡ 私みたい」

「どこがや?」

「世の中の女性の羨望を集めるダイエット知らずのこの体型」

「幼児体型でメリハリが無いだけやん」

「何やと?」


ウイリアムはしれっと無視して話を続ける。


「話題が豊富で頭の回転が良くって」

「まあ♡ 私みたい」

「アマンダのはツッコミがキレッキレでキツいだけやないか。優しさがない」

「何で私が貴方に優しくせなアカンの?

まあエエわ。

その子は優しいのんか?」

ウイリアムはコックリ頷く。

「そんな美人でスタイルも良くって貴方なんかにも優しいって…そんな絵に描いたような完璧人間いてますんかいな。

現実の人間か?会った事あるんか?」

ウイリアムはコックリ頷く。

「貴方、騙されてるん違う?

って言ってもウイリアムを籠絡するメリットなんて無い事は誰もが知っているし……」

「せやろ?」

「それをあっさり認めるんやないで…」

「なのに私に優しくしてくれる」

「そんな奇特な子、放したらアカンで! 裏の事情は分からんけど」

「何や、裏の事情って」

「誰かに脅されてるとか、なんか因果を含められて泣く泣くとかや」

「そんな風には見えへんで。ほんわかしてて幸せそうに見えるで」

「貴方は弱者やからそう言うの敏感やもんな」

「弱者って…」

「まあエエわ。

せやけど、そんなエエ子逃したらアカンで!」

「うん、分かってる」

「その前に一つ、やる事がある」

「何や?」

「婚約者とちゃんと別れなな。話はしたんか?」

「だから今話しとるやないか」

「はあ?」

「アマンダ、長い付き合いなのに悪いけど、私と別れてほしい」

「何を言うてますの?」

「頼む!この通りや!! 私と別れてくれ!」

「いや、だから…」

「私が優柔不断なせいでこんな形で告白してしもうたのは謝る! 許してくれ!」

「何で私が貴方の婚約者みたいな話になってますのん」


「「「「ええ〜〜!!!???」」」」

ウイリアム王子だけでなく、観客一同が驚きの声をあげる。


貴方ウイルの婚約者ってタランダ伯爵家のミランダちゃんやろ」

「誰、それ。会ったこともない…」

「三年もほっといたんか? それって貴方有責で婚約破棄されても仕方ないで」

「え?」

「大体やな、私の婚約者はアルフレッド様やで」

「兄上の?」

「そうや。学年一緒やし、ポカしないよう面倒みたってってアルに頼まれたから貴方の相手してたんやで」


「「「「えええええ〜〜!!!???」」」」

ウイリアム王子だけでなく、観客一同が驚きの声をあげる。


「え? 皆さんご存知なかったん?」


アマンダは驚いて会場を見渡した。

ふと会場の奥にアルフレッド王子を見つけた。


「アルフレッド様、なんで貴方まで一緒に驚いてますの?

その隣の女は誰ですのんや!?」

「あ、ジェシカちゃん!」

「ジェシカ?」

「さっき言ってた子や」


確かに美人でスタイルが良くって、オマケにアルフレッド王子と仲睦まじく腕を組んでいる。


「知らなかったのか、アマンダ」

「何をです、アルフレッド王子」

「私達の婚約は1年以上前に破談になっているのだよ?」

「ええ!」

「順を追って話そうか?ウイル、アマンダ」

「「お願いします!」」

「事の発端はおまえ達二人の仲が良過ぎるんだ」

「「はあ?」」

「タランダ伯の所のミランダが涙ながらに訴えてきたんだ。

二人の仲が良すぎて間に入れないって。

その証拠として動画を見せてもらったが、関係者一同絶句してな」

「動画って?」

「知らんのか? 『リンゼイ&コーロのロイヤルぼやきトーク』で週に一回はネットに上がってるぞ」

「「ええええ!」」

「驚いているのはおまえ達二人だけだぞ?」


確かに観衆は誰も驚いていない。


「二人を別々にするなんて、そんな生木を割く様な真似はできませんって目薬の涙交じりに言われてな」

「目薬って…」

「でもアレを見たら、反論できなくてな。

タランダ伯爵に賠償金を払ってウイリアムとミランダの婚約は解消されたんだ」

「「!!!!!!」」

「で、私にも同じ事が言えるだろう?」

「へ?」

「関係者の中にはコーロ公爵も入っててな。その場でアマンダの婚約者はウイリアムに変更された」

「「聞いてないよ!!」

「ウイリアムは元々そう思い込んでいたし、わざわざ言う必要はないだろう?」

「それはまあ…」

「アマンダには公爵閣下からお話しがあった筈だが? それに私からも伝えたぞ?」

「え〜〜っとォ……」

「人の話しを聞かないって小学生の頃通信簿に書かれたよね。まだ治ってないの?」

「……(//∇//)」

「それにさ、アマンダは私と会話してても楽しくないんじゃない?」


言われてみると確かにその通り。

ボケもオチもない、優雅ではあるが真面目なアルフレッド王子との会話は今のアマンダには退屈であった。


「で、私は新しい婚約者ジェシカに、弟とも仲良くしてやってくれと頼んだんだ。

そのせいでウイルには余計な期待をさせてしまったみたいだ。すまなかった」

「じゃ、じゃあジェシカちゃんが優しくしてくれたのって……」

「アルフレッド様にお願いされたからですわ。

それに私もお二人の夫婦めおと漫才に割って入って、トリオ漫才する自信はございませんわ」

「「夫婦漫才って…」」

「それくらい二人は呼吸いきが合っているって事だ。

ここまでは理解してくれたかな?」


二人は力無く頷いた。


「じゃあここで、二人とお集まりの皆さんに朗報です」


ざわざわする観衆をまあまあと鎮め、アルフレッドは封筒を取り出した。


「皆さんは二人の掛け合いをこれからも見たくありませんか?」


(((o(*゜▽゜*)o)))


「二人をこのまま埋もれさせるのは忍びなく、A国のコントコンテストに動画をつけてエントリーしてみました!

そしてここに見事に出演のオファーが参りました!!」


さすがアルフレッド様!!

good job!!

これからは画面越しに応援するよ!!

優勝してね〜!


観客は大喜びである。


「待て!待ってくれ!!」

「なんだい、ウイル」

「何でコントのコンテストなんかに」

「ん? 日●のエムワンの方が良かったか?」

「エントリー先の問題じゃなくて!」

「???」

「王族がそんなのに出演していいのかって」

「だから廃嫡しといた」

「はい〜〜?」

「廃嫡しといたよ、ちゃんと。

アマンダも公爵家から除籍になっているよ。

でも、対外的に体裁が悪いからそうしたけど、私達が家族である事には変わりないからね」

「兄さんがそういう時は大抵碌なことがないんだけど」

「そんな事はないさ。その証拠に、苦しい予算を工面して二人の渡航費用は捻出してあげたよ、片道分だけど」

「待て----!!!」

「それって体のいい国外追放じゃないか!!!」

「芸の道は厳しく険しいって聞くよ。逃げ道があったんじゃ大成しないんじゃないかと思うんだ。そこで皆んなで相談して断腸の思いで逃げ道を断つ事にしたんだ。

それもこれも二人の成功を祈ればこそ!」


ウイルとアマンダの目にはアルフレッドの顔に「厄介払いしたったぁ〜!」「これ以上泥棒に追い銭やれるか」と書いてあるのが写る。


「逃げるぞ」とアイコンタクトをとる二人よりアルフレッドの方が一枚上手だった。


「衛兵諸君、二人が風邪をひかないよう簀巻きにして機内までご案内差し上げろ!

後の事は向こうの大使館に因果を含めてあるから安心して行ってこい」


何が安心なんだ〜!と言うウイルとアマンダの言葉は猿轡のため声にならない。


「さあ皆んな、二人の門出を祝して万歳三唱で送ろうじゃないか!!!」


バンザーイ! バンザーイ!! バンザーイ!!!


かくしてウイリアム・リンゼイとアマンダ・コーロは世界へと羽ばたいて行って。


----------- 時は過ぎる


司会に呼ばれ二人が舞台ステージに現れる。


「リンゼイ&コーロのお二人です♪

お二人は元は王族と貴族と伺いましたが本当ですか?

この舞台に出演られる事になったキッカケは?」


ウイリアムはいつものように応える。


「まあ皆さん、聞いてください…」





才能の無さに気づいてしばらく筆を折ってましたが、物書きのサガ。また筆が生えてきました。

ポツポツと書いていきますのでコメントよろしく!


お友達いないので、会話のない★よりコメントが嬉しい筆者です。

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