91 少しだけ
「そうね。で、話を戻すけど、結局言っておきたいことって何よ」
なんだか、途中で話が逸れたようだったけど、そのせいでリュウレンが私をわざわざ呼んだ理由が、いまだに聞けていない。
この後特にやることがあるわけではないが、ここで無駄な時間を過ごすのも嫌な私は、そう言って彼にさっさと用件を済ませるように促す。
「いや、そのスイネグって先輩から、『自分の体質を克服出来なさそうなら、Sクラスに上がらない方が良かったんじゃないか』って言われてよ、そん時に『アルトレアから、教われば多少ましになるかもしれんが…』とかぶつぶつ言ってるから、お前が余計なことを吹き込んでんじゃねえか聞きに来たんだ」
「そんなことが…。あんたの事は、文化祭の時の話ぐらいしかしてないはずだけど…」
聞いてみれば、確かに言われた側は訳の分からない話だった。
きっとスイネグ先輩のことなので、今リュウレンが話した以上の事は、特に何も伝えてないのだろう。
そうなると、彼の話に出てきた人に聞きに来るぐらいしか、その言葉の意味を知る術は無いだろう。
私も逆の立場ならきっと同じことをする。
だが、残念なことに私もこの話は初耳だったので、わざわざ先輩がそんなことを言った理由は、私にも分からない。
「分からない…けど、私が関係してるって事は、魔術かアリアス大陸関連…?」
そう呟いてしばし沈黙。
これまでの話から、ある理由が浮かび上がる。
「確かに、Sクラスに上がるなら、体質を克服してないと地獄を見そうね。」
「ったく、『二股はバレたときが面倒だぞ』とか、訳わかんねぇ事言いやがって。おい。一人で納得してないで、俺にも説明しろよ!」
私が考えてる間に、リュウレンも何か一人言を言ってるようだったが、私の思考が纏まったのを確認すると、これ以上は待ちきれないというように、私に説明を促す。
「あんたの体質が周りの魔素を吸収するものだっていうのは覚えてるかしら?」
なので、私もここからは、考えを口に出して話していく。
「覚えてるけどよ、それがSクラスがどーのこーのにどう影響するんだ?」
「これがAクラス以下だったら何も問題は無かったのでしょうけど、Sクラス以上は校外学習でアリアス大陸に行くのよね」
「それは俺も知っている」
「そこは、あんたが倒れる文化祭の日と、同じ環境が普通の場所なのよ」
「げっ…」
そこまで聞くと、彼もなんとなく理由が分かったらしく、嫌な顔をする。
「お前、今からでも本気で試験受け直してこいよ」
「な、何言ってるの?そんなの出来るわけ無いでしょ!?そもそも、私は試験で手なんか抜いてないわよ!」
「嘘つくんじゃねぇよ!」
「嘘って何よ。だったら見せてあげるから訓練所に来なさいよ!」
そして、リュウレンは謎の提案をしてくるが、どうやら彼はスイネグ先輩から中途半端に情報を受け取ったせいで、私の実力について勘違いしている節があるようだった。
なので私は、実際に目の前で魔術を使うことで、その勘違いを正してやる事にした。
ちなみに、わざわざ訓練所に移動するのには、せっかくならリュウレンの魔法も見せてもらおうという、私の思惑もあった。
「ほら、どう?これで満足?」
早速私は、訓練所に着くなり自分の魔術を見せるけど、それを見たリュウレンは浮かない顔だ。
「お前は確か、自分の所で受験したんだよな?これでAクラスに判定されたのか?」
「さっきも説明したけど、魔術は空気中の魔素を使うから、環境の変化に弱いのよ。だから、今はこれぐらいが限界なの」
「まぁ、回路に魔力を通さないで発動してるし、なんとなく違うってのは理解したけどよ、なんで魔法の練習はしないんだ?」
彼は、一学期に私の特訓を手伝った事もあるので、私が魔法を完全に使えない訳では無いことを知っている。
だからこそ、今現在、私が全く魔法を使わないことを疑問に思っているのだろう。
「先輩に今はまだ、魔力循環だけって言われてるからね。それよりも、私のを見せたんだから、あなたのも見せなさいよ」
「先輩からの指示とはいえ、半年間丸々練習がそれだけとか、お前の先輩おかしいんじゃねえのか?」
「頭がおかしいのは否定しないけど…」
ぶつくさと文句を言いながらも、リュウレンは以前に試験でもやった、6属性の連続魔法を見せてくれる。
「へー、完全に魔力がその属性に変換されてるのね」
ただ、今回は私も至近距離で魔力を使い、視力を強化して観察したので、彼の体で魔力がどのように作用しているのかを確認出来る。
「何を当たり前の事言ってんだ?それが出来なきゃ、属性魔法なんか使えないだろ?」
「ねぇ、魔法で複数属性を同時に扱うのってやっぱり難しいの?」
「難しいなんてレベルじゃねえな。2属性同時ってだけでも、それぞれのイメージが混ざらないようにしなきゃ発動出来ねえし、下手すら魔力が暴走する」
「なるほど…」
やはり、スイネグ先輩から聞いていた通り、魔術を魔法で再現するのは相当難しそうなので、大人しく1属性の練習から始めようと心に決めていると、リュウレンが躊躇いながらこんなことを聞いてくる。
「なぁ、さっきからお前の様子を見る限り、魔法についてほとんど何も教わってないように見えるんだが、そいつらは本当に信用出来るのか?」
「はぁ?急に何言ってるの?」
突然そんなことを言われて、私は当然不機嫌な返事をしてしまうのだけど、それぐらいは想定済みとでも言うように、彼は言葉を重ねる。
「半年間で魔法の1つも教えてもらえないって、お前は雑用係として良いように利用されてるだけじゃねぇのか?って言ってるんだよ」
「………」
メリッサに相談した後で良かった。私はそう思った。
じゃなければ、きっとその言葉に揺らいでしまっていただろうから。
「そいつらが何も教えてくれねぇってなら、俺が代わりに教えてやったっていい。俺だって…
「まぁ、言いたいことは分かったわ。けれど、大丈夫よ」
そしてまぁ、リュウレンがさんざん前置きをしてこの話をしてくれたのにも感謝する。
恐らく、彼が私を呼び出した本題はこれだったのだろうが、最初にこの話をされてたら、ただ先輩達を侮辱されただけだと思って、彼に殴りかかっていただろうから。
「今はまだ、私の成長に合わせて余計なイメージを持たせないようにしてくれてるだけだから」
「そうかよ」
「まっ、せっかく教えてくれるって言うなら、もう少し魔法の勉強が進んだときにお願いするわ」
けれど、その回りくどい行動のおかげで、一応こいつが私の事を考えて言ってるのが伝わってきたので、私は『これは、スイネグ先輩の研究にも役立つから、別に、こいつのための提案じゃない!』なんて心の中で言い訳をしながら
「教わるだけじゃあれだし、私も魔術の事、少しくらいなら教えてあげても良いわよ?」
と言うのだけど
「あっ?ゴニョゴニョ言ってて良く聞こえねえよ!」
なんて返されて
「だから!あんたに魔術を教えてあげても良いって言ってんの!!」
と、つい大きな声で叫び返してしまうのだった。




