87 雪遊び
「うぅー。さみぃー。こんな日に外に出るとか、ガキかよお前らは。」
2月のある日、メリッサが開口一番白い息と共に文句を言う。
それもそのはず、校舎から外に出た私達の視界には、白銀の世界が広がっていた。
こんな風景を前にして、彼女は早くも室内に戻りたそうにしている。
「そんなこと言っても、私達の所ではこんなに積もることって無いんだよ!?」
「それに、もしもこれだけ積もったとしたら、普通に死活問題よね。この量は。」
しかしそんな抗議は、初めて大雪を経験してはしゃぐガキ共、つまり私達には届かない。
「いっぱい雪が降ってるのに、遊んでる人達がいっぱい。不思議。」
「ホントに信じられないわよね。まぁ、それだけ余裕があるってことなんでしょうけど。」
いつもだったら、雪が降ると見回りの大人以外は、お家に籠らなきゃ行けなくて退屈なものだったけど、ここでは完全に雪に対しての認識が違うようだった。
そして、この凍えるような寒さの中、元気に外に飛び出す学生が多いことに気付いた私達は、その理由を地元民であるメリッサに尋ねたところ、こうしてマフラーや手袋で防寒対策をきっちりした上で、グラウンドへ向かうことになったのだ。
「さぁ、さっそく私達にも雪遊びっていうのを教えてもらうわよ!」
「わたしも教えてほしいな。」
「はぁ…ったく、だりーな。」
「で、でも皆楽しそうだよ?」
興奮する私達をよそに、終始めんどくさそうな雰囲気を纏うメリッサだったが、一通りの遊びを教えた後も、寮へ戻る事なく一緒に雪玉を投げたり、雪像を作ったりと楽しんでいるようだった。
それも、彼女なりに私達の事を大切思ってくれているからこそのなのだろうと、サク先輩から聞いた話を思い出しながら私は考える。
「はぁ。今日は楽しかったなー。このまま雪がずっと続けば良いのになー。」
雪遊びを終えると、私達は冷えた体を暖めるために大浴場へと向かい、体を洗うのもそこそこにのんびりと湯船に浸かっていると、レイナがそんなことを言う。
「あんた、楽しかったのは分かるけど、ずっとって言うのはさすがに言い過ぎじゃない?」
「ずっと降ったら薪が無くなる…。」
「そーゆー問題じゃねぇと思うけどな。」
「み、皆酷いよー。別に本気で言ってるわけじゃ………ううん。やっぱり半分本気。」
最初は、てっきり今日の雪遊びの感想を大袈裟に言った冗談かと思ったのだけど、彼女の表情から察するに、そう言うわけでも無さそうだ。
「半分…本気?」
「うん。だってほら、雪が溶けなければ、春が…来ないでしょ?そしたら…もっと、もっとみんなと……」
「レイナ……」
私が聞き返すと、初めは笑顔で理由を説明するレイナだったけど、それが段々とひきつるような表情へと変化していくのを見て、私達の誰も彼女の子どものような話を否定することが出来ない。
そして
「うわぁーーん!みんなとずっと一緒がいいよー!ずっとずっとこのままがいいよーー!うあぁぁーーーー!」
ついにレイナは人目も憚らずに、大声で泣き出してしまう。
「レイナ…私達だって皆同じ気持ちよ?」
「まだ、後3年あるから、また一緒のクラスになれる可能性だってある。」
「へっ、クラスなんか違くたって関係ねぇっていつも言ってんだろ。」
「ほら、そろそろのぼせちゃうからお風呂出ましょ?」
私達はそんな彼女を宥めつつ、頭を冷やすためにも湯船から引き揚げる。
「えぐっ…えぐっ……。ごめん、心配かけて。」
「良いのよ、別に。不安になるのも仕方がないわ。」
「ったく、クラスが変わるくらいで大袈裟だっつーの。」
「そ、それだけじゃないもん!!」
寮に戻った後も、レイナはしばらく泣き続けていたが、ようやく落ち着いて話が出来るようになる。
ただ、私は彼女をそう慰めるけれど、メリッサの言うことも間違いではないと考える。
それでも、こんなに彼女が取り乱しているのは、もしかしかたらあの日、サク先輩から何か聞かされたのだろうかとも私は思う。
「じゃあ、なんだってんだ?」
「先輩から聞いたの。2年生になったら、もっと怪我する機会が増えるって。だなら…だから…」
「おいおい。まさか、あたしらが死ぬとか思ってんのか?」
「私が一番心配してるのはメリッサちゃんだよ!!」
「はぁ?」
やはり、その考えは当たっていたようだが、心外だと言わんばかりのメリッサの態度に、珍しくレイナが怒りを見せる。
「いやいや。お前、あたしの校外学習での活躍を知ってるのか?それとも…先輩からあたしについて何か聞いたか?」
「ううん。サク先輩からは昔仲が良かった事ぐらいしか聞いてないよ?私が心配してるのはそこじゃない。メリッサちゃんは、自然を舐めすぎだよ。」
「な、何でだよ…。なんであたしばかりそんな…」
そこまで来ると、さすがに冗談では無いとメリッサも感じ取ったようで、レイナの剣幕に少し怯んだ様子を見せる。
「この前の校外学習だって、死んだ人が何人もいて、レアちゃん達も危なくて。メリッサちゃんはあの景色を知らないから!!」
「なっ、お前らその話聞いてねぇぞ!?」
「それだって、経験がある2人だからなんとかなったけど、メリッサちゃんだったら死んでたよ!」
更に畳み掛けるように、レイナが話す内容に、私達もなかなか口を挟めない。
「今回の事はイレギュラーな事態で、こんなことはめったに起きないって話も聞いた。けど、それがまた起きないなんて保証はないんだよ。だから、皆クラスが変わっても、危ないことはしないって約束して欲しい…。」
最後に、恐らくこれが言いたかったのであろう事を告げると、レイナは私達一人一人の目を見つめる。
彼女はこの1年、救護班として活動してきて、私達以上に色々なものを見てきたのだろう。
「れ…レイナ…。」
「………ちっ」
「あっ、メリッサちゃん!?どこ行くの!?」
「うるせーな。ちょっと頭冷やしてくんだよ。」
だが、このままではレイナの一方的な主張になってしまうと思い、私が口を開こうとすると、その前にメリッサが舌打ちをして部屋を出て行ってしまう。
「レイナ、あんたが皆を心配する気持ちも分かるけど、あんたが一番危険地帯に多く行くことになるんだから、人に言うからには自分も危ないことに首を突っ込まないようにするのよ?」
「うぅ…ごめんなさい。もう少しで私達も2年生だとか、色々考えてたらなんか…頭がぐるぐるになっちゃって…。」
言い合いをしてる相手が居なくなって、少し冷静になったのだろう。
レイナはそう言って反省の意を見せるので、私は『大丈夫よ。メリッサもあなたの気持ちは分かってるわ。』と慰めの言葉を掛ける。
「わたしはメリッサの所に行ってくる。2人は…」
「そうね。今日はここで解散ね。また遊びましょ?」
「うん。サヤカちゃん、また明日。」
「うん。」
そうして、私とレイナは自室に戻る為、いつもよりも一段と冷える廊下を、静かに歩いていくのだった。




