84 ギルド
「ふうっ。緊張するわね。」
私は今日、ギルドへ登録するために街へ向かっていた。
と言うのも、新入生の受験も終わり、学校にも落ち着きが見えるかと思ったのだけど、今度の校外学習に向けて2.4年生が練習所をほぼ独占状態になってしまい、またしても1年生は、放課後は図書室や近くの施設などで時間を潰すことを余儀なくされていた。
そこで私は、学期明けに先生からこの時期にギルドや冒険者協会への登録を進められていたのを思い出し、こうして歩いている。
「それにしても、クラスが変わっても残る繋がりって言うのはありがたいわね。」
この前は、訓練所が使えないからと道場に行った訳なのだけど、スイネグ先輩に報告をした後、魔力を使わない練習をするには、練習場は危ないということで、これからも剣の扱いを教わる時は、あの道場を利用させてもらおうとサヤカと約束したのだ。
「お互いに人の目は気になるだろうし、あそこなら内緒の話もしやすいからね。」
泳ぎの練習をする約束もしてるので、プールで話すことも出来なくは無いが、あそこは他の人も使うし声も意外と響くので、内緒話には向いてない。
「それはそうと、サヤカとセイラ先輩か。どんな練習になるんだろうなぁ。」
スイネグ先輩は、私とサヤカが居るなら、ついでに後天的に魔法・魔術を使えるようになる条件を調べると言い出したのだけど、とりあえずは忙しい間は私をスイネグ先輩、サヤカをセイラ先輩が面倒を見てくれるらしい。
なので、4月以降に時間が出来るまでは実験の予定は無いようで、休日も基本的に自由にしてくれとの事だった。
だから、今日は皆で一緒にギルドの登録をしたかったんだけど、メリッサはいつものように『興味ないな。』と私の提案を一蹴。
サヤカは『わたしは冒険者協会に登録する。』と別行動。
レイナは『わ、私はどっちも登録しないかな。』と見事に全員に断られ、結果こうして1人寂しく歩く事になる。
ちなみに私は、故郷に居るとき、父にお願いして自分の狩った魔物を、ギルドに持っていってもらいお小遣いにしていたと言う経緯もあって、今回はギルドの方に登録しようと思っていた。
「うわー。これ、うちの町役場よりもでかくない?」
大陸の中心に近い支部なだけあって、ギルドの建物はとても大きかった。
案内板にしたがって、私は登録受付のある2階へと進むが、建物の中は依頼を見に来た人や、私と同じく登録をしに来た学生達で溢れ返っていた。
「こ、こんにちは!あの…」
「あら、学生さん?登録しに来てくれたのね。」
私は自分の順番が回ってくると、少し緊張気味に受付の人へ話し掛ける。
「は、はい。えっと…」
「嬉しいわねぇ。この時期は学生さんの登録が増えるとは言え、冒険者協会の方にばかり皆行っちゃうからね。」
すると、受付のお姉さんに、建物の厳格さとは真逆の、砕けた雰囲気で対応をされて、私は一瞬呆気にとられるけど、そんなことをお構いなしに話し続ける彼女に、私もすぐにいつもの調子を取り戻す。
「冒険者の方が人気なんですか?」
「そうよー。皆ランク制度とかに気を引かれちゃうのかしらね。」
一見同じに見えるギルドと冒険者協会なのだが、詳しく話を聞いてみると、意外と細かいところで違いが幾つもあることが分かる。
例えば、今彼女が言ったランク制度とかだろうか。
ギルドでも冒険者協会でも、依頼表が壁に貼り出されるのは共通してるそうだけど、ギルドでは依頼受注の際、特に制限など無いのだけど、冒険者協会ではランクに応じて、受けられるものとそうでないものとが決まっているらしい。
このランクと言うのは、登録時にはFから始まり、依頼を達成する毎にランクアップしていき、最終的にAまで上がるとほとんどのクエストを受けられるようになるらしい。
ここだけ聞くと、ギルドの方が自由度も高いし、わざわざ冒険者を選ぶ理由なんか無いとおもってしまうのだけど、実は、冒険者にはその実力を国から認められた者のみがなれると言うSランク。
更には複数の国から認められた英雄的人物しかなれない、SSランクと言うものがあるらしく、高ランクになればなるほど周りからの信頼も上がり、個人的な依頼を受けたり、貴族や王族とも繋がりが…なんて理由で人気らしい。
対してギルドは、受注が自由な代わりに、ランク制度など分かりやすい個人の評価指標と言うものが存在しないため、一部の冒険者からは報酬の出るボランティア活動なんて揶揄されてるんだとか…。
一応、ギルドでも個人の功績は記録付けられているそうで、優秀な人は役職者として働かないか打診される事も少なく無いらしいが、。
「まっ、ランク制度なんて言っても、別の地域に出たらまた下のランクからやり直しなんだけどね。認定試験が設けられてたり、救済が無いわけじゃないけど。」
「そうなんですね。」
「えぇ。そう言うのもあって、大抵は学生とか20代のうちは冒険者になってランクを上げて、それからギルドに登録って人が多いのよね。別にどっちか片方しか登録しちゃダメ!なんて規則は無いからね。」
「はぁ…。」
私は、単に実家から近いのがギルドの方だったので、こちらに登録しに来ただけだったのだけど、結果としてそれで良かったのかもしれない。
「けれど、この話を聞いたら、ギルドの登録をやめて、冒険者の方に行っちゃう人もいるんじゃ無いですか?」
例えば、メリッサとかだったら、途中まで聞いてすぐにでも冒険者協会へ駆け出していきそうだと思い、私は聞いてみると
「一応説明責任としてね。はぁ、せっかく学校の授業で興味を持ってくれた子も、こっちの依頼なんか受けてくれないんだから。」
「大変そうですね…。」
実際に似たような事例もあったのだろう。
受付のお姉さんは短くそう答えると、また『はぁ…。』と大きくため息を吐く。
そして、『あなたはどうなのよ?』と目線で訴えてくる彼女に、私は改めて登録の意思を伝えて、渡された書類にサインをする。
その他、個人の情報を識別出来るようにと、よく分からない魔道具に数滴血を垂らしたところで、私は無事ギルドへの登録を完了するのだった。




