83 気になったこと
「もう来てるみたいね。」
次の日さっそく私達は、お昼の時間になるとお弁当を持って研究室を訪ねていた。
「先輩、入りますよー。」
「えっ?」
コンコンと私は一応扉をノックすると、返事も待たずに室内に入る。
それを見て、サヤカは驚いたようだったけど、部屋の主の方は特に気にした様子もなく、奥の方からこちらをチラッと見て『アルトレアか。』とだけ呟くと、そのまま昼食を再開する。
「お久し振りです、スイネグ先輩。今日はこちらで食べても良いですか?」
「俺が許可を出すことじゃない。隣の奴も好きにしろ。」
「ありがとうございます。それじゃ、サヤカもこっち来て。」
「あ、あの…失礼します。」
私達も、お昼の時間は限られてるので、座る場所を作ると各々お弁当箱を開く。
「それで、今日は何の用だ?言っておくが、そのノートに書いてない時点で察してると思うが、魔法に関してはまだ教えるつもりはないぞ。」
「分かってますよ。今日はその話じゃなくて、別に聞きたいことがあって。まぁ、サヤカに…私の友達に魔法を教えてもらえたらなって言うのもありますけど。」
そこで私は、どうせ忘れていると思ったので、サヤカがこの前の校外学習で同じ班だったことを伝える。
「あぁ。あの時のか。」
「はい。それで、このノートに関して気になることが出てきたので。」
改めて、今日来た経緯を伝えると、私は本題の説明を始める。
「ふむ。今の内容、そいつ以外には話してないんだな?」
「はい。やっぱりこれ、内緒にしておいた方が良いですよね。」
「そうだな。一つ一つは大したことじゃないが、情報の出し方によってはパニックが起きる可能性もあるな。まだ此方の大陸について、知らない部分が多いだろうに、良い判断だったな。」
「えへへ…。」
説明を聞くと、スイネグ先輩が珍しく私を褒めるので、サヤカが隣に居ると言うのに、つい頬が緩んでしまう。
「そうだな、この事は研究段階ではあるし、正式に発表するまでは時間がかかるから、口止めも容易いだろうが、問題は『回路に魔力を通す事で引き起こされる弊害。』の方か。」
「そうですね。常に強化魔法がかかっているせいで気付きにくい、素の身体能力の弱体化、とか。」
「それだけなら、魔力を用いない強化トレーニングでも行えば、問題は解決に思えるが。」
だが、続く先輩の言葉に私もすぐに気を引き締める。
先輩の言う通り、これら2つの事象はそれ単体なら、単なる知識として受け入れられるだけで終わるだろう。
「けれど、『魔物が魔力に反応する事』と、『魔力を止めると身体能力が低下する事』を同時に知れば、魔法を使う人達の混乱は必須よね。」
「ああ。間違い無く前線には影響が出るだろうな。」
「今までと相手は変わらないのに?」
私達の会話に、サヤカが疑問の声をあげるけど、そう思う気持ちも分からなくはない。
考えすぎだと言われてしまえばそれまでなのかもしれない。
だけど、この大陸の人達にとって魔力を絶つというのは、日常生活でも着用しているパワードスーツを脱ぐのと、何ら変わらない行為なのだと、私は昨日のサヤカを見てそう感じた。
「魔物の近くで、邪魔になるから武器も全部置いて裸になってくれって言われて、従える人がどれくらい居ると思う?」
「それは…」
「まぁ、まず居ないだろうな。加えてこの大陸は、ユニウスよりも魔物の数が多く、アリアスよりも魔法を使う者が多い。そのような事態が起きる可能性は高いだろうな。」
サヤカですら、私が熊の前で魔力と解いたとき、あんなに焦っていたのだ。
そんな自殺行為じみた真似、わざわざする人なんて居ないのだろう。
「うーん。情報を出す順番とか、そもそも出さないとか、考えることは多そうね。」
「その辺りは、大人と話しながらうまくやってもらうさ。お前達は情報を漏らさなければそれで良い。」
「誰にも言っちゃダメ?」
「ああ。…いや、そうだな。お前の事はセイラに任せるから、そいつになら話しても良い。」
私は、この事に気付いてからどうするべきか悩んでたけど、スイネグ先輩がそんな風に、この件に関して私達が気にする必要は無いと言ってくれて、ようやく肩の荷が降りた気がした。
「ちなみに、そいつ以外の班員には、どちらの情報も漏らすなよ。」
「分かってますよそれぐらい。」
「大丈夫。」
「そうか。ならいい。…そうだ。お前も、今後とも何かしら思い付きや発見があれば、1人でも2人でもまた自由に来てくれて構わない。」
「りょう…かい?」
最後に珍しくスイネグ先輩が、サヤカに研究室の入室許可を出したところで話が纏まり、私達はお昼休みが終わる前に退室することにする。
その時、彼女のお弁当箱が目に入り、それをどこか他の場所でも見たような気もしたけど、結局ぼんやりとたイメージは固まること無く霧散してしまう。
そして、教室への帰り道
「さっきの話、私も聞いて良かったのかな?」
「ダメなら部屋に入れてないと思うわよ。あの人、先生でも平気で部屋から追い出すから。」
「そうなんだ。……レアの先輩は凄い人だね。」
「うん。私、あの人に会えて良かったと思う。それだけでこの学校に来た甲斐があったなって。」
「そっか。もう一人の先輩から教わるのちょっと楽しみになってきた。」
「あはは…。教わること、あると良いわね。」
サヤカとセイラ先輩と言う組み合わせに、どこか不安を覚えつつも、あの無愛想な先輩が褒められているのを聞いて、私はそれを自分の事のように嬉しいと感じている事に気が付くのだった。




