82 体調不良?
「この道場はこれしか置いてないのね。」
そう言って私は、サヤカ曰く『木刀』と呼ばれる剣を、ブンッブンッと振り下ろしてみる。
学校の訓練所には、刃を潰したものや、これと同じように木製のもの等、幾つかの種類の武器が貸し出されているのだけど、どうやらここには、サヤカがよく使う『刀』と呼ばれる武器、その形を模したものしか置いてないようだった。
けれど、私は元々武器を使うことはそんなに無かったし、サヤカも訓練所ではこの木刀を使っているそうで、『ちょうど良い。』と言って、私達はその事に特に不満を持つことなく、練習を開始する。
「この大陸だと、剣を振るのにも作法だとか、なんかやることがあるらしいんだけど、わたしは良く分からないから、実践形式で教えるね?」
「ええ。私もこれの練習ばかりに時間を割ける訳じゃないから助かるわ。」
道場の入り口で説明を受けたときも、何とか流派って言ってたけど、聞いた限りは対人に特化した技術のようだった。
恐らくは、魔物に襲われる心配が無いゆえにこの大陸で発展した技術なのだろうが、あいにくと私やサヤカには関係の無い話だった。
「うん。とりあえず、レアがどれくらい出来るのか確かめたいから、まずは適当にわたしに攻撃してみて。」
「適当にって言われてもね。はっ!やっ!こんな感じかしら?あなたの見よう見まねだけど。」
ひとまずやってみないことにはと、私はサヤカに向けて木刀を振り下ろしてみるが、それはカンッカンッと当然のように防がれる。
「さすがね。全部防いじゃうなんて。」
「………?もう少し強く打ち込んで来て良いよ。」
「分かったわ。いくわよっ!やっ!たっ!はぁっ!!」
だが、サヤカは何か違和感を感じたのか、剣を握る手をじっと眺めている。
どうしたのか尋ねようとしたが、その前に気を取り直してそう言ってくるので、私は彼女の言う通りに、先程よりも強めに攻撃を仕掛けていく。
「っ……!?」
「だ、大丈夫!?」
「大丈夫……だけど…」
しかし、何発か打ち込んだところで、衝撃に耐えきれ無かったのか、彼女の手から木刀が落下する。
私はやり過ぎてしまったと思い、急いでそう声をかけて攻撃を中断する。
「ごめんね。ちょっとやり過ぎちゃったみたい。」
「ううん、違う。」
「どうしたの?」
「…なんか、いつもより力が入らない気がする。」
サヤカは、私の攻撃を防ぎきれなかった事よりも、そちらの方が気になるようで、落としてしまった木刀には目もくれずに、拳握ったり開いたりしている。
「力が入らない?」
「うん。ちょっと違うな。何て言うか、いつもの感覚に体が着いてきてないような。」
「………どうする?調子悪いなら…
「もう一回!さっきと同じぐらいで!」
「わ、分かったわ。怪我しないでよ?」
調子が悪いなら、今日は止めとこうか?そう言おうとしたのだけど、サヤカが続行を望むので、私は一応さっきよりも間隔を開けて攻撃をするのだが
「っ……」
やはり何度目かの攻撃で、衝撃に耐えきれなくなり、彼女は木刀を床に落としてしまう。
本人の自覚が有るかに関わらず、本調子でない状態でこれ以上打ち合うのは危険だと判断し、私は1度練習の中断を彼女に告げる。
「むう…さっきまではいつもと変わらなかったのに。」
私たちは足を崩して座りながら、サヤカの不調の原因を考えるが、彼女曰く、私から攻撃を防ぐまでは違和感を感じて無かったそうだ。
「ふーむ。その感覚を信じるとしたら、体調が原因って訳じゃないのよね。」
「あっ、…ひゃっ!…レア?」
「んー。別に腕を捻ったとかでも無いわよね。」
「んっ、…ふぅ…。れ、レア!!」
「あっ、ああ、ごめん。ちょっと考え事に夢中になっちゃった。」
体調以外に、怪我などないか考えてるうちに、無意識に私は、彼女の前腕部分を摘まんだり、腕を肩口からなぞったりしてしまい、ピクッピクッと体を震わせながら抵抗を訴える彼女に気付いたところで、急いでパッと腕を離す。
痛がってる様子も無かったので、特に怪我が理由と言う訳でも無さそうだがと、そこまで考えたところで、私は『あっ、』と声を漏らす。
「ん?」
「ねぇ、サヤカ。あなたっていつも回路に魔力を通してるわよね。」
「うん。」
「それは寝るときもって事よね。」
「多分…無意識で。」
「やっぱり…。そう言うことかしら。」
「何か分かったの?」
私はここで、頭に浮かんだ考えを彼女に話してみる。
「……成る程。レアの言う通りかも。」
「…この話、スイネグ先輩にも話してみようかしら。」
「わたしもその時一緒に行きたいな。」
「そうね。あの人の事だから、実験とかに巻き込まれるかも知れないけど。」
「強化魔法でサーチする方法を、教えてくれたのも、確かその人なんでしょ?なら、巻き込まれても良いかな。」
私の説明に納得の表情を浮かべるサヤカは、私がスイネグ先輩に会いに行く話をすると、珍しく同行を希望してくる。
と言うのも、彼女はこれまでの経験から、身体強化以外の魔法を使うことを諦めていたのだけど、スイネグ先輩ならそんな彼女でも使える技術を知ってるかもしれないと、興味を持ったようだ。
今サヤカが言った方法も含めて、魔力を使った技術は、ほとんどノートには書かれてないが、それはきっと私が勝手に練習をして、倒れるなんて事が無いようにするためだろう。
だが、意図的にそういった情報を排除してるなら、サヤカにはその技術を教えてくれる可能性は高いだろう。
彼女がスイネグ先輩の実験に抵抗がないなら、断る理由など無い。
「それなら、早速今から…は、無理だから、明日のお昼に一緒に行ってみる?多分研究室に居るだろうし。」
「うん!明日のお昼。分かったよ。」
そうして、私の提案にサヤカが嬉しそうに返事をすると、今度は攻守を入れ替えての練習を再開するのだった。




