78 元旦
「うー、すっごくすっごく寒いよ~。」
今日は1月1日。新しい年が始まる日だ。
この日私達は、メリッサから早朝に屋上が解放されると言うことを聞いて、皆で初日の出を見に来ていた。
一応それぞれに防寒対策はしてきたのだけど、やはり朝日が昇る前の暗闇に包まれた屋上では、暖を取れるものなどろくに無く、風が吹く度に身体を震わせることになる。
私達以外にも結構人が来ているようなので、まだ空が暗いにも関わらずここはざわざわとしていて騒がしい様子だ。
今もまた、屋上を強い風がビューッと吹き抜けていくが、レイナが自分の体を両手で抱き締め、そう呟く声もざわめきの一部として辺りに溶けていくだけだった。
しばらくは私も同じように体を震わせていて、周りを見る余裕も無かったのだけど、段々と日が昇り、辺りが明るんで来る頃には、なんとか体が寒さに馴れてくる。
そうして、今にも布団に逆戻りしたくなるような寒さと戦って、ハーッハーッとすっかり冷たくなってしまった両手に息を吹き掛けていると、私達から少し離れた所に意外な姿を見付ける
「スイネグ先輩、来てたんですね。」
「あぁ、アルトレアか。明けましておめでとう。」
「はい、明けましておめでとうございます。スイネグ先輩も初日の出を見に来たんですか?」
私は皆に一言断ると、その人物、スイネグ先輩の所へ挨拶にいく。
近くに他の先輩は居ないようなので、彼1人で来たのだろうか。
「似たようなものだな。日の出はどちらかと言えばついてだが、お前が来たならちょうど良いかもしれん。」
「また研究ですか?なんとなくそんな気もしてましたけど…。」
「まぁ、そう言うことだ。近いうちに聞きたいことがあるんだが良いか?」
挨拶してる時は気付かなかったが、良く見るとその手に計測器のようなものを持っている。
元旦だと言うのに、スイネグ先輩は相変わらずだった。
「良いですけど、今日は友人と一緒に来てるのでまた後で…」
「あぁ、かまわない。今日の魔素の濃さと、アリアス大陸では、正月に魔素の量が変わることがあったかどうかを聞きたいだけだからな。」
「………なるほど。だから計測器を持ってきてるんですね。」
まぁ、この先輩が純粋な気持ちで初日の出を見に来たとか言うなら、そっちの方が驚きではある。
「ちなみにですけど、故郷では1年を通して特に魔素の濃さが変わったって思う日は無かったです。特に意識したことがなかったので、気付かなかっただけかもですけど…。」
「そうか。今もそんなにか?」
「はい。普段と魔素の量に違いは感じないです。」
「はぁ…。やはり迷信のようなものだったか?分かった。とりあえず何か変化を感じた時だけ後日教えてくれ。」
「分かりました。じゃあ、私は戻りますね。」
用件が終わると、スイネグ先輩は視線を計測器の方へ戻したので、私はそう皆の所へ帰ることを伝えると、彼は視線はそのままに手だけをヒラヒラと上げて私を見送る。
「お帰りーレアちゃん。」
「ただいま。」
「おー、日が昇る前に帰ってきたな。」
「何の話をしてたの?」
「あー、えっとね。」
私はレイナ達の所に戻ると、先程スイネグ先輩と話した内容を簡単に説明する。
「なんつーか、変わってる人だな、その先輩。」
「うぅ…助手として否定する言葉が見付からない…。」
「あはは、そう言う人だよね。スイネグ先輩は。」
「………あの人、腕にレアと同じもの付けてる。」
それを聞くと、メリッサはなんだそりゃといった反応、レイナは仕方がないねというような反応を返すが、しばらく先輩の方を見ていたサヤカがそう言った途端、メリッサがニヤニヤとした顔こちらへ向けてくる。
「ふぅーん。先輩とお揃いのねぇ?」
「なっ、ちょっ!勘違いよ!?」
「んー?あたしはまだ何も言ってないぞ?」
「だから!これは、先輩が作った魔道具で、あんたが想像してるようなことは何もないの!」
「ほぉーん。そっかそっか。」
「ねぇ、信じてないでしょ!?ほんとなんだからね!!」
なので、私は余計な言われる前にそうやって弁明するけど、メリッサは真剣に聞く様子はない。
そうやって私達が言い合っていると、レイナが『あっ、そろそろ見えてくるかも。』と空を指差す。
その言葉に私も、彼女が指差す方へ視線を向けると、確かに空がさっきまでよりも明るくなっており、もう少しで日が昇って来そうなのが分かる。
周りも、それに気づいた人達が増えてきたのか、段々と皆の口数が減っていく。
そして、気が付けばあれほどまでに騒がしかった屋上が、もはや風の唸る音しか聞こえないほどに静まり返っていた。
そして…
「あ…」
知らずのうちにそんな呟きが漏れる。
山の奥からゆっくりと、太陽が昇ってくるのが見える。
それがまんまるの姿を完全に表したとき、屋上にはいつの間にかざわめきが戻っていた。
私達も、太陽から視線を外すとお互いの顔を合わせて
「「「「明けましておめでとう」」」」
と、誰ともなく改めて新年の挨拶を交わす。
「ふふっ。皆、今年も宜しくね♪」
それを見て、私は思わず笑みをこぼし、そう呼び掛けるのだった。




