76 負けないよ
「ふー、サヤカちゃんの料理美味しかったね。レアちゃん。」
楽しかった食事会も終わり、片付けはサヤカとメリッサでやると言うことなので、少し手持ち無沙汰気味だった私達に、彼女達は先にお風呂に入るように促し、現在私はレイナと一緒に湯船へ浸かっていた。
「そうね。あれを食堂から譲って貰ったものばかりで作ってるなんて信じられないわ。」
「お弁当もたまに作ってるって言ってたし、私もお料理教えてもらおうかな…。」
「確か、『来年も部屋は変わらないだろう。』ってメリッサが言ってたし、今日みたいに時々皆で集まって、ご飯を食べるのも良いかも知れないわね。」
1年生が終わってしまえば、私達が同じクラスになることはきっともう2度と無い。
恐らく私以外の皆もそれを感じてはいるだろう。
けれども、この半年以上の期間で育んだ私達の絆は、そんなことが問題にならないくらいに強固な物であるというのも、皆感じていることだろう。
「はぁ~あ。時間が経つのは早いなぁ。」
「本当ね。なんだか色んな事があったせいで、全然今年が終わるって実感が湧くないわ。」
「皆と離れるの、嫌だなぁ。」
「なによ。私だってすぐに追い付いて見せるんだから、ちゃんと待ってなさいよね。」
レイナは、しばらくお湯に口を付けて、ブクブクと泡を立てていたけど、大きくため息を吐くとそう言う。
私やレイナは、サヤカ達と違って同じ学校から来た人が居ないし、この4人以外に友人と呼べるほど仲の良い人も居ない。
それでも1年の間は、幸運なことに私と2人で行動する機会も多く、お互いに孤独を感じる時間が少なかったと言える。
だが、来年レイナがSクラスに上がるのならば、また新しいクラスメートと友情を深めていくことになるのだろうが、1年の間に少なからず仲の良い人同士のグループが形成されてるだろうし、そこに声をかけていくのは彼女の性格から見ても大変そうに思う。
しかもレイナとサヤカは、出身大陸も得意分野も違うので、私の時のようにお互いに協力しながら何かをするというのも難しいだろう。
そういう事情もあって、レイナが不安そうにしているのも理解出来る。
けれど私は、レイナにうかうかしてる暇は無いぞと、そう言って彼女に発破をかけていく。
「……そうだね。私だってたった1年でこんなに成長出来たんだから、レアちゃんだってすぐに追い付いてくるよね。」
「当たり前でしょ。分かったならそろそろ出ましょ。のぼせちゃうわ。」
「うん。ありがとう、レアちゃん。私、負けないよ。」
私の言葉を聞くと、レイナはしばらく首を落ち着きなく動かし、不安そうな表情を見せていたが、そう言って私を正面から真っ直ぐに見据え、それをキッとした力強い表情へと変える。
「私もよ。ふふっ。また負けられない相手が増えたわね。」
「えっ?何か言った?」
「何も言ってないわよ。」
「えー、ほんとかなー?」
それを見て私は、彼女はもう心配無いと安心すると共に、また強力なライバルが生まれてしまったなと、ふと故郷の幼馴染みの顔を思い浮かべるのだった。
そうして、皆がお風呂から出た後は、4人でこの学校を目指した切っ掛けだったり、来年の抱負を語ったり、メリッサから恋愛絡みの事でからかわれたりと色々あったけど、夜も遅くなってきて食事会もお開きということになり、私達は、寝室へ案内されていた。
「それじゃ、消すよ。」
「………。」
サヤカがそう言って消灯すると、すぐに隣からスゥスゥと寝息が聞こえてくるけど、私は少し寝付けずにいた。
「あら、あんたまだ起きてたのね。」
「そう言うお前もな。」
なので、私はレイナを起こさないように気を付けて部屋を出たのだけど、そこには先客がいた。
「あんたも寝付けないの?」
「いや、あたしは寝るのが遅いだけだ。お前らと違って早起きじゃねえからな。」
「私はそんなに早起きじゃ無いと思うけど。」
「あたしにとっちゃ早い方だよ。と言うか、寝付けないって…」
どうやら、リビングの先客…メリッサにとっては、この時間に起きているのは普段通りだったようで、彼女が頭に疑問符を浮かべる様子に、私は余計な事を言ってしまったと少し後悔する。
「別に大した理由じゃ無いわよ。ただ…、普段1人だから、人が居るのに慣れないだけよ。」
「ふーん、そっか。ならそう言うことにしといてやるよ。」
だけど、メリッサは別に詮索するつもりは無いようで、私の言い訳にどうでも良さそうな返事を返すと、それ以上会話が続くこともなく室内は静寂に包まれる。
その後もメリッサは、のんびりと背もたれに寄りかかり、私が来る前にしていた作業…恐らく冬休みの課題?に手を戻す。
私は、しばらくそれを黙って眺めていたのだけど、お風呂でのレイナや私と違い、あまりに彼女のいつもと変わらない態度に、つい
「あんたは…不安とか感じないの…?」
と、問いかけてしまうのだった。




