69 決着
「………それで止めを刺すわ。」
川を飛び越え、魔力針の指す場所で戦うことを決めた私達は、その場所へ向かうまでにサヤカに背負われながら簡単な作戦会議をする。
「来るよ…。」
目的地までもう少しという所だったが、今度はろくに時間稼ぎが出来ていないので、既に熊の姿が見えてきていた。
「良いわ、下ろして頂戴。」
「分かった。」
「ここまでありがとうね。疲れてない?」
「平気。それじゃあわたしは…」
「うん、少し離れててね。……ふぅ。」
「レア!?」
「心配しないで。作戦通りに。」
「………。」
私達は、四つ足でドドッドドッと猛スピードで駆けてくる熊を視界に納めながら、冷静に迎撃準備を整えていく。
その一環として、私は自分にかかっている身体強化を解いて、回路に流れる魔力を完全にゼロにする。
その行動を見てサヤカは驚いたのだろう、思わずといった風に声をあげる。
だが、私がそう声をかけると、何か言いたげな表情をしながらも、それ以上は何も言わずに私から距離を開ける。
「はぁ…気持ち良い。」
私はサヤカとの会話が終わると、そう言って目を閉じ、腕を左右に広げて大きく伸びをする。
もう回路に魔力は流れてないはずなのに、身体中の細胞に力が漲るのを感じる。
到着したその場所は、予想していた程では無いが、それでも前に先輩達と実験した時ぐらいには濃いめの魔素が存在していた。
「やっぱり私はこっちの方が良いわね。」
体を覆っていた魔力が無くなると、自然の空気や魔素を肌で感じられているような気がして私はそう呟く。
私が棒立ちのまま動かないからか、ドドッドドッと近付いてくる振動は、スピードを緩める様子がない。
「もう少し…もう少し…。」
それでも、魔素が大量にあると言うわけでは無いので、確実にダメージを与えるためにも、私は熊が呼吸の音も聞こえるぐらいに気配が近付いても、目を閉じたままでいた。
そして、その勢いのまま私をはね飛ばそうとした瞬間…
「はあぁぁぁ…!!」
そう叫びながら、両手を鉤爪のようにして前に出し、右下から左上へと振り上げる。
グアァァァァン
それと同時に、私の近くの地面が伸び上がり、完全に熊の視覚外からの一撃となる。
余程の衝撃だったのだろう、私が目を開けて後ろを振り替えると、熊はまだヨロヨロとして体勢を立て直せないでいた。
熊の肩に、まだサヤカの剣が深々と刺さっているのを見るに、やはり物理的な攻撃に弱いのは予想通りか。
「サヤカっ!今よ!援護は任せて!!」
とにかく、相手が体勢を崩しているなら今が畳み掛けるチャンスだと、私はサヤカへと呼び掛ける。
すると、ガサガサッと音を立てて木の上から彼女が飛び降り、熊の肩へと手を伸ばす。
そして、そこに刺さっている剣の柄をガッと掴むと、全力で熊の身体から引っ張り出す。
グガアァァァァァッ
予想外な攻撃の連続で困惑していた熊も、さすがに引き抜くときの痛みで正気に戻ったのか、大きな唸り声を上げてブンッブンッと腕を振り回す。
「下がって!」
最早かすっただけでも致命傷を負いかねないその攻撃に、私は空中に即席の足場や盾を作りながら、一度退くようにサヤカへ呼び掛ける。
タ、タ、ターンと、私の声を聞いてサヤカが後ろにステップを踏み、最後に大きく宙返りをしながら私の隣へ着地する。
「それで…どうするの?」
「そのまま作戦通りに…その剣をあの熊に…。」
「分かった。」
「無茶を言ってごめんね。その代わり、絶対にあなたを守るわ。」
「大丈夫…信じてる。」
ここで改めて作戦を確認して、互いに目を合わせ頷くと、サヤカが前傾姿勢で剣を構え走り出し、それと同時に私もその後ろを、氷の塊を発射しながら追い掛ける。
ガンッゴンッと、鈍い音を立ててその塊がぶつかり、熊は思うように腕を振り上げられないでいるが、それでも体勢を崩すことなくどっしりと、私達が近付くのを待ち構えている。
「そこっ!」
ガァッ
サヤカが熊の正面へたどり着き、攻撃を繰り出そうとすると、さすがの熊も命の危険を感じたのか、私の攻撃を無視してサヤカへ腕を振り下ろそうとするが、その瞬間に私は、熊の顔の前で爆発を起こす。
「たあぁぁぁぁぁ!!」
突然爆発を喰らい熊が一瞬怯んだ隙に、サヤカが叫びながら全力で剣を熊の胸の中心へと突き刺す。
「これで良いっ!?レアっ!」
「完璧よっ!後は任せて!!」
そして、剣が深々と突き刺さったのを確認すると、サヤカが後ろへ下がり今度は私が前へ出る。
2人で命をかけて作ったチャンス。無駄にするわけにはいかない。
確実に止めを刺す為にも、私は一番得意な魔術を形成していく。
『詠唱か…。今まで考えたことも無かったけど…もし、この技に名前を付けるなら…』
「燃やし尽くせ!炎雷!!」
キィン………ゴオォォォォォン!
魔術を発動すると、まるで雷のような一筋の光が私の頭上から放たれ、それが熊の胸に刺さっている剣へと触れた瞬間、途轍もない轟音と爆風が巻き起こるのだった。




