67 嫌な予感
「居た…。どう?気付いてそう?」
今私達は、話し合いの結果2人でもう一度戦い、倒しきれなさそうなら全力で撤退すると約束をして、熊の姿を追っていた。
最初はサヤカに熊の位置を探ってもらったら、1人で時間稼ぎをするつもりだったのだけど『本当に時間稼ぎだけ?』とか、『わたしが居たら足を引っ張っちゃう?』なんて言われたら、その選択肢を取ることは私には出来なかった。
そんなふうに話し合いながら、さっきまでと違って姿を隠す必要も無いので、私は出てくる魔物を倒しつつ巨獣を追うのだけど、私は魔物を倒す度に違和感があった。
「ねえ、サヤカ?なんか、さっきから遭遇する魔物、少し硬いような気がするんだけど、私の気のせいかな?」
「そうなの?わたしが班の皆と戦ってた時の相手は、いつもより切りやすいって思ってたけど。レアちゃんの魔法の威力が下がってるとか?」
「うーん、威力は変わってないと思うんだけどなぁ。」
最初は、私が今日ほとんど戦闘に参加出来てなかったせいで、この大陸での感覚にまだ慣れていないからなのかとも思ったけど、私はサヤカの返事を聞いて嫌な予感がした。
そしてその予感は、巨獣と遭遇した時、最悪な形で的中する事になる。
「居た…。どう?気付いてそう?」
「まだ、別の匂いに気を取られてるみたい。」
「と言うか、この道…1度通ったわよね。」
「うん。きっと、皆もこの道で引き返してるんだと思う。」
「やっぱりこいつ…子熊の後をと言うか、班の皆を追ってるみたいね。」
「走り出す前に追い付けて良かった…。」
しばらく走ると、巨獣の姿を視界に捉えるが、どうやらそいつは、地面に鼻をつけて匂いの後を追っているようだった。
「うん。別れる前の皆の様子からして、こいつに遭遇したら全滅していたかもだからね。」
「あの信号弾の所の人達みたいに?」
「そう…ね。あの男の子、無事に保護されてればいいんだけど…。」
「それで、わたし達はどうする?」
「……剣よりは使いにくいかもだけど、これ…はい。」
「ありがとう。それじゃあ、合図は任せるよ。」
「わ、私が!?まぁ、良いけどさ。」
私はこの状況でも、逃げずに隣に居てくれるサヤカを頼もしく思いつつ、武器を失ってしまったサヤカに、代わりとして土を固めて作った棍棒のようなものを渡す。
サヤカがそれを受け取り、感触を確かめて軽く頷くのを確認すると、私はこちらに気付いてないのか、全く振り替える様子の無い巨獣の背中へ向けて先制攻撃とばかりに、あわよくばこれで気絶してくれと願いながら雷を繰り出す。
「喰らいなさいっ!!」
その言葉と同時にビシャーァンと音を立てて雷が巨獣へと命中する。
ググゥ…
巨獣は、攻撃を受けて僅かに唸りをあげて動きを止めるので、私達はその隙に熊との距離を詰めていく。
その間も私は次の攻撃を準備しておくが、それを放つ前にサヤカへと声を掛ける。
「サヤカっ!もう一発行くわよっ!3…2…1!!」
ビシャアァーン
ボゴッ
グウゥ
先程よりも強烈な攻撃に、熊は完全に動きを止め、私の合図で飛び出したサヤカが、その無防備となった脳天へ棍棒を振り下ろす。
ここまで圧倒的な耐久を見せてきた巨獣も、さすがに頭部への一撃は重かったようで、苦しそうに呻き声をあげる。
「どうだった?サヤカ。」
私は、熊からの追撃を避けるために、バックステップでこちらへ戻ってきたサヤカに問い掛ける。
「手応えはあった。けど、倒すのは難しそう。」
「そうみたいね。私の魔術もあんまり効いてなさそうだし。これはもう、尻尾を巻いて逃げるしか無いかしらね。」
「残念だけど、わたし達を敵と認めたみたい。逃げるのは難しくなった。」
私達が話し合ってるうちに、巨獣も体勢を整え、2本足で立ち上がりながらこちらを睨み付けていた。
「まー、引き付けは成功したって事で、隙ができたら逃げましょうか。」
「賛成。いざとなれば、わたしがレアを背負う。」
「頼もしいわね。それじゃあ、逃げる前に少しでもダメージを与えときましょうか。」
「これは?」
サヤカに渡した棍棒は、さっきの攻撃で壊れてしまったので、巨獣がこちらを警戒して動かないでいるうちに、今度は氷で槍の形をしたものと、熊の肩に突き刺さったままの剣と同じような形の武器を作りサヤカに渡す。
「何度も同じ手が通じるとは思わないから、それで駄目だったら逃げましょう。」
「分かった。それで、逃げる方向は?」
「あっちの川がある方に。…3…2…1!やあぁっ!!」
バリバリバリッビシャアァーン
『ふっ………やっ!』
ドスッ…ザクッ
合図と共に、私は避けられないように、今度は広範囲に広がる雷撃を放つと、それを払い落とそうとしたのか、腕を振り上げたところで攻撃が直撃する。
そこを間髪いれずにサヤカが槍を投げ、そして、剣を腰に添えるとそのまま前傾姿勢で熊の元へ突進し、その勢いを乗せた横薙ぎの一撃を熊の腹へとお見舞いする。
だけど、槍は先端が刺さるだけに留まり、剣の方もほんの少し熊の体を傷付けた所で完全に動きを止めてしまい、どちらも致命傷にはならなさそうだった。
「サヤカ…下がってっ!逃げるわよっ……喰らえっ!」
それを見て私はすぐに撤退の判断を下し、熊の頭上に火球を出現させると、サヤカが後ろに飛び退くのを確認して腕を振り下ろす。
グギャゥゥ…グウゥゥ…
そうして顔面を火に覆われたことで、ドタンバタンと暴れだす熊を横目に、私達は再び道を外れて森の中を走り出すのだった。




