66 助っ人
「なっ!?」
孤立無援、絶体絶命にも思えたその瞬間、後ろから声が響き巨獣の右肩に一本の刀が突き刺さるのが見える。
私は、声の主がここに居る事に驚くが、今の内に巨獣から距離を開けねばと後ろへステップを踏む。
「…やっぱり今の声はサヤカだったのね。どうしてここに?」
私が後ろへ下がり横を見れば、そこに居るのはやはりサヤカだった。
彼女は班のリーダーとして、皆を率いて帰還している筈なのに、信号弾が上がった場所からも離れているのに、何故ここまで来れたのか。
疑問は尽きないが、とにかく今は目の前の驚異をどうにかするしかない。
しかし、今のあいつは私の全力攻撃を喰らい、サヤカの刀が肩に刺さっているのに、特に大したダメージを受けた様子もない。
「リーダーをカツミに任せて、急いで追い掛けた。」
「そう。それで、たった今私の全力がこいつに通じないのが分かったところだけど、あんたは何かあいつを倒す方法があるかしら?」
「…無い。たった今わたしの武器も無くなった。」
「そう、ならば…ここは一旦、退くしか無いわねっ!!」
私はサヤカの答えを聞いて、対抗策が無いのを悟ると、巨獣の目の前で砂嵐を起こす。
グギャゥ!
「よし!今のうちよっ!」
そうして相手が怯んだ隙に、私はサヤカに声を掛けてそこから逃げ出す。
「はぁ…はぁ…。さすがに疲れたわね。」
「はぁ…わた…しも、少し…休憩したい…。」
巨獣から逃げてしばらく、私達はそいつの姿が見えなくなったところで一度息を整えていた。
まだ危機が去った訳では無いが、ようやくゆっくり話すタイミングが出来たので、私はサヤカに疑問をぶつけていく。
「それで、何で追い掛けてきたの?」
「うぅ、レアが1人で心配だったから…。」
「だからってねぇ。それにしても、よく居る場所が分かったわね。」
「さっきレアに教わった魔法を使った。」
「なるほどね。来てくれてありがとうね、サヤカ。」
私は、自分と成績がそこまで変わらないカツミに、指揮を任せるのをリュウレンが受け入れた事に驚くが、魔力針を見る限り誰かが魔石を砕いた様子は無いので、恐らくうまく帰路に着けているのだろう。
「今のところ熊の姿は見えないけど、1ヶ所には留まれないわよね。」
「うん、もうわたし達は敵として認識されただろうから何処までも追ってくると思う。」
「はぁ…全く。巻き込んじゃってごめんなさいね、サヤカ。けど、私達の方を追ってくるなら、他の皆は大丈夫そうね。」
「えっと、その事なんだけど…実は……」
今の私達では、あの熊に対抗する術が無いけども、それでも自分達の方にターゲットが向くなら、他の班員が森を出るまでの時間稼ぎをしつつ、自分達も逃げ切ることが出来るだろうと私は考えて、少し肩の荷が降りたように感じる。
しかし、ホッとする間も無くサヤカからとんでもないことを告げられる。
「嘘でしょ!?あの子熊と一緒に行動してるの!?」
「う、うん…。わたしでは止めきれなかったし、多分カツミも…。」
「うぅ~そうよね。強くは言えないわよね…。」
まさかなのだが、私が班を離れる原因になった子熊に、フレアがお弁当の残りをあげてしまったらしく、少なくともサヤカがカツミに指揮を任せるまではずっと付いてきてたらしい。
ベネウッド組が自然に慣れていないのは想定していたが、この展開は完全に予想外だった。
この話を聞いてしまうと、あの熊の姿が見えないことが、逆に危険に思えてしまう。
「そうなると困ったわね。私達が親熊から離れすぎたら、きっとそっちの方を追い掛けるわよね。」
「うん。間違いなく。」
「サヤカ、まだあの熊の居場所を探知することは出来る?」
「う、うん。けど、多分…後1.2回ぐらいしか…。」
「………はぁー。それじゃあ仕方ないか。」
「レア?」
自分の事だけを考えるなら、今のうちに少しでも森の外を目指して歩く方が賢いのだろう。
けど、そうすることで他の班員に危害が及ぶ可能性が上がるなら、私の中でそれは取れない選択肢になった。
サヤカに探知魔法で位置を探ってもらい、付かず離れずの距離を保つと言う作戦も考えてはみたのだが、あのやり方は私が思ってる以上に体力の消耗が激しいのだろう、今もまだ疲れが取れない様子の彼女はそう答える。
それに、彼女は今、私を助けるために武器を手放してしまっているので、仮に巨獣と相対したところで出来ることは少ないだろう。
それでも、今日の校外学習を皆で無事に終えたいなら、例え私1人だけでも、後1度はあの巨獣を追い掛けるしかないのだと、そう覚悟を決めるのだった。




