05 憂鬱な時間
「それじゃ、私はこっちだから」
お昼休みが終わり、午後の授業のために皆がグラウンドに出ると、サヤカはそう言って私たちとは別の方向へ向かう。
実技の授業では、座学の時と違って前衛と後衛、のようにグループ分けが大雑把になる。
彼女は、魔法を使うよりも剣を使う方が好きなので、1人前衛のグループへ向かう。
それを見送り、私たちも後衛のグループへ向かう。
後衛の、主に魔法を使う人たちは、出身地がバラバラと言うこともあり、魔力の扱いなど感覚に差が出るため、1年目はまず環境に慣れる事を優先させられる。
そして、慣れる前に余計なイメージを付けさせないようにと、教師からの指導らしい指導はなく、今の時間は、生徒達で危険の無い程度で魔法の練習をすることになっている。
「うーん、やっぱり向こうと同じようには風魔法使えないねぇ。レアちゃんはどーお?」
「私はレイナよりも全然ダメだよ…。相変わらず複合魔法どころか、1つの属性魔法すら維持するのが難しい」
「メリッサちゃんは元々この大陸出身だから何の問題も無いらしいけど、違う出身の人からコツを聞くのは2学期までダメって言われてるし、私がレアちゃんに教えてあげられればいいんだけど…」
この時間、メリッサは同郷の人達と練習に行ってしまうので、レイナと2人で魔法の練習をしていると
「おーい、落ちこぼれが落ちこぼれに何を教えるんだ?」
と、馬鹿にした声が聞こえる。
「リュウレンくん、私のことはなんて言ってもいいけどレアちゃんの事をバカにしないで!」
「あんた、レイナは学校に認められてこのクラスに入ってるのに落ちこぼれな訳ないでしょ」
2人でリュウレンに言い返すが、彼はあまり気にすることもなく
「学校の判断が正しいとは限らないけどな。ここにちょうどいい例が居るし」
と、私の事を見下しながら言ってくる。
「あぁ、なんで落ちこぼれ同士で練習してるのかと思ったら、今年はAクラスにお前らしかアリアス大陸の奴が居ないのか」
「リュウレン、いい加減に黙って。練習の邪魔だからさっさと向こうに行って欲しいんだけど」
「そんな寂しいこと言うなよ。もしかしたら次の試験次第でお別れになるかも知れないのに。最後の交流ぐらいさせてくれよ」
どうやら私が休みの日に、試験についての説明があったらしく、まさか成績によっては退学させられるのか、と考えていると
「大丈夫だよ、レアちゃん!レアちゃんが休んでるときに先生が、Aクラスの人は試験の結果で待遇を変えることは無いって言ってたから」
と、レイナが言う。
「教師側は何もしないだろうけど、こいつが恥ずかしさで学校を辞めるかも知れないからな」
「わざわざ家を出て入学したのに、そんなんで辞めるわけ無いでしょ。そもそも、何しにこっちに来たのよ。まさかわざわざお喋りするためにきたの?」
私たちの険悪な様子にレイナは口を挟めずにはオロオロしているが、こんなのは日常茶飯事だ。ホントに午後の授業は憂鬱だ。
「いくら口出しするのはダメだって言ってもな。視界の端でおままごとやってるのが見えれば、誰でも気になるだろ」
「私たちのがおままごと?そう見えるならリュウレンくんの魔法使っているところも見せてよ」
私たち2人をバカにされたからなのか、珍しくレイナが怒っている。
「俺の魔法を見せても仕方がないだろ。レイナはともかくアルトレアがやっているのは、誰がどう見てもおままごとだろ。他のクラスならともかく、このクラスで初級レベルの魔法を練習してる奴なんか見たこと無いぞ」
「それでも!6つの属性全部を使ってるんだから、全然おままごとじゃないよ!!」
私は、だんだん怒りが強くなっていくレイナの肩を抑えて落ち着くように促す。
「怒らないで、レイナ。今やっていることのレベルが低いことは私が一番よく分かっているから」
「でも…。」
「こっちに来てから、最初はまともに火を出すことすら出来なかったんだから。その時と比べたら今はだいぶましになってるし、試験が終わったら少しコツを教えてくれるんでしょ?」
「本当は今すぐ教えたいけど、絶対レアちゃんは無理するから…」
私と話しているうちにレイナも落ち着いてきたようだ。
「焦らないでゆっくりでも、小さな積み重ねが大事なのはこの前の失敗でも実感したから」
「基礎もまともに出来てないくせに積み重ねもくそもねえだろ」
2人の間にまたリュウレンが口を挟んでくるとレイナが先ほどまでよりは落ち着いた口調で
「リュウレンくん、余計な事を言わないで。魔法の使い方が違ければ、基礎だって変わってくるんだから。私たちから見たらリュウレンくんだって基本的な事が出来てないよ」
と、彼に言う。
それを聞いてリュウレンは
「あっそ。まぁ、せいぜいクラスの評価を落とさないように頑張れよ」
そう言って私たちの前から去っていく。
「あいつは結局何しに来たんだろう」
私はそれを見ながら呟くと
「他の事ばかり気にしてたら授業終わっちゃうよ」
レイナがそう言うと、私たちは残りの時間を無駄にしないように魔法の練習を再開するのだった。