65 戦闘…開始!
「強化魔法、やっぱり凄いわね。道を外れても移動がスムーズに感じたわ。」
森の中と言えども、利用者が多いせいか、自然に出来た道があったので、私達はその道に沿って森を歩いてたのだけど、あの熊から逃げる際に余計な接触が増えないようにと、私はその道を逸れて走っていた。
「ここまで来れば良いわよね。」
奥まで行きすぎても、他の班と遭遇する可能性もあるので、ある程度離れたところで私は足を止める。
いよいよ孤立無援と言った状態だが、これまでの経験と相手が1頭しか居ない事で、私にはそこまで悲観的な気持ちは無かった。
「さぁ、追い掛けてきたわね。ここは木に囲まれているから、私もあなたも気を付けないとね!」
後ろを振り返ると、ゆっくりと熊がこちらへ来てるのが分かるので、私はそう言うと先制攻撃を仕掛ける。
「まずは…やぁっ!」
出来る限り、距離を詰められる前に決着を付けてしまおうと、私は最初に牽制として、石の礫を相手の全身目掛けて放つ。
「怯んだ、よし!どんどん行くわよ。」
ガガガッと礫を喰らって相手が動きを鈍らせたのを確認すると、次に私はさっきよりも大きい礫を周りに浮遊させると、その形を鏃のように鋭く尖らせていく。
「これぐらいなら、強化魔法を維持しながら出来るみたいね。さぁ、行け!」
実戦で魔法と魔術を同時に使うのは始めてだったけど、私はまだ熊との距離があって、集中する時間があるうちにどんどんと攻撃を重ねていく。
「はぁ!やぁっ!!」
そして、更に幾度か石の刃を飛ばしダメージを与え、相手がこちらを警戒して動きを止めたところで、私は直径一メートル程の大きな水球を用意していく。
「まだまだ行くわよ。これでも…喰らえ!!」
そうして掌を顔の前に出し狙いを付けると、水球を勢い良く射出していく。
それが熊に当たると、バァンッと大きな音を立て、後ずさるほどのダメージを与える。
「ここから更に…っ!」
下準備を終えたところで、私はトドメと言わんばかりに強力な電撃を放つ。
バリィッバリバリッ
グガアァァァ
電撃が直撃すると、巨獣は苦しそうな呻き声をあげてその場に倒れ伏す。
突発的に戦闘が始まってしまい落ち着く暇もなかったので、私はここでようやく安心してホッと息を吐く。
戦いが一段落付いたので、私は今の大きな音に反応して、他の魔物や獣が集まってくる前にここを立ち去ろうと、熊に背を向ける。
「さて、まずは道に戻らなきゃね。皆とも合流出来れば良いんだけど…。」
そんなことを呟きながら、私は魔力針を見てみるが、班員の中に魔石を砕いた人は居ないようで、針は特にどこを指すと言った風でもなかった。
「まぁ、はぐれた人は居ないって事かしらね。とりあえず森の出口へ向かいましょうか。」
今は自分1人しか居なく、誰かとペースを合わせる必要も無いので、私は皆と居た時よりも、幾らか気楽な気持ちで歩き出そうとするが、何処からかザッザッと言う足音と、荒い呼吸音が聞こえた気がした。
「まさか…。」
私は不穏な空気を感じとり、信じられないと言う気持ちで後ろを振り返ると、視界に映ったのは、先程倒したはずの熊が助走を着けてこちらへ向かってくる姿だった。
「う、嘘でしょ!?生きてたの!?」
思わずそう叫ぶと、私は足元に魔力を集中し、全力で横へ跳ぶことでそいつの突進を回避する。
「くそっ!さっきのは気絶してただけってこと!?」
予想外の攻撃に、私はつい悪態をついてしまうが、すぐに気を取り直して臨戦態勢へ入る。
「次は確実にトドメを指してあげ…ぅぐっ…」
そして、強力な魔術で一気に方をつけようと、炎と雷の魔術を放とうとしたが、魔術としての形を形成する前に、一瞬強烈なめまいに襲われる。
「っく…強化魔法を使いながらだと、これ以上は無理なのね。」
今まで練習では、強化魔法と同時に一種類の魔術を使うことしかやってこなかったので気付けなかったのだろう。
私は頭上から振り下ろされる鉤爪を、相手の脇へ倒れ込むことで回避しながら次の手段を考える。
「だったら…!これならっ!!」
そう言って私は、空中に小さな氷の礫を生成すると、それらを纏めて拳大の大きさにして一斉に射出する。
ガッゴッ
と鈍い音を立てながら礫が巨獣の頭や腹に当たると、さすがに大きいダメージが入ったようで、相手はよろよろと後ろに後退る。
「今度こそ!最大出力よ!いけーーー!!」
最後に私は、巨大な火球を全力で相手へと叩き付ける。
直撃した瞬間
ドオォォーン!
と大きな音を立てて衝撃が走り、もうもうと辺りに煙が立ち込めて周りが見えづらくなる。
「はぁはぁ…終わった…の?」
全力を出したせいで体力を一気に持っていかれ、私は魔術を放ったままの体勢からしばらく動けずに居たが、呼吸を整えようと顔を上げた瞬間、煙の奥から鋭いものが飛び出してくる。
「……っ!?」
不意を突かれたせいか、それが頭上に振り上げられた鉤爪だと認識した途端、体が一瞬固まってしまう。
今すぐにでも動き出さなければならないのに、まるで世界がスローモーションになったみたいに、私はその爪を見つめることしか出来ない。
そして次の瞬間、『避けてっ!!』と言う言葉と同時に、私の頭上を銀色に光るものが通り抜けていくのだった。




