64 現れた巨獣
『居た……この感じは…魔物…とは少し違う?』
私は、ようやく感じ取れるほどに近付いた気配を探ってみると、相手が予想していた状態と少し違うことに気が付く。
『成る程ね、もっと近くに居ると思ったのに、全然離れていたのはこう言う事だったのね。』
私は向こうでは魔物ばかりを狩っていたので、ちゃんとした知識があるわけでは無いが、森の中で子熊に遭遇するのが危険だと言うのは聞いたことがあった。
本来ならあの子熊と遭遇した時点で、いつ親熊が現れてもおかしくなかっただろうが、幸か不幸かこいつは魔物化している途中で、その為か子熊から離れており、体格も想像してたよりは大きくない。
しばらく実戦から離れているとは言え、こいつよりも大きい魔物を私は1人で狩った事もある。
状況によっては班員皆でこいつを討伐する未来もあったかもしれない。
しかし、獣を狩る機会の多いユニウス大陸の2人が怯えており、森の中で動く事に慣れていないベネウッド大陸の人達も居るなかで、その行動を選択するのは正しいとは思えなかった。
だが、私やフレアがあまり戦闘に参加出来てなかったとは言え、私達の班は順調に魔物を討伐していたのだ。
きっと説明したところで、リュウレンが更なるポイント稼ぎとして、討伐を提案してくるのは想像に固くない。
けれど、彼らが狩っていたのは小型の魔物がほとんど。
そんな中でいきなりこいつに遭遇してれば、誰かが大怪我を負う可能性も、その怪我が原因で他の班員がパニックに陥る可能性もあっただろう。
1度敵対してしまえば、地の果てまで追い掛けてくるのは、魔物であろうが獣であろうが変わらない。
だからこそ、余計なターゲットを増やさないためにも、私は皆と別れて1人で様子を見に行くと決断したのだ。
『どうだろう、そんなに動いてる感じがしないけど、こっちに気付いて無い?今ならここを離れて皆と合流出来る?』
とにかく、追い掛けてくる様子が無いなら、わざわざ戦う必要も無いだろう。
そう思って私は、来た道を引き返そうとするが、少し前方で自分と同じように息を潜めている少年が居る事に気が付く。
彼の回りには、他の班員の姿が見えないがはぐれてしまったのだろうか。
それを聞こうにも、今の状況で声を出すのはあまりにリスクが高すぎる。
そんなことを考えていると、緊張感に耐えきれなくなったのか、少年が不意に救助信号を打ち上げる。
すると当然、その音で熊に気付かれたのだろう、少年が『ヒェッ』と声を上げて後退りをする。
けれど、恐怖で周りが見えていなかったのか、足下の根っこに気が付かずに踵を引っ掻けてしまい、ドサリと尻餅を着いてしまう。
「こ、こっちに来るな!あっち行けよー!」
「グルオォォォ!!」
「ひ、ひぃぃ!」
「もう、この…ばかっ!!」
考えてる暇はなかった。
私はその少年の前へ飛び出し、遂にその脅威と対峙する事になる。
大きさは二メートルを越えているだろうか、口元や手を血で赤く濡らした巨大な熊がそこには居た。
そして私は、そいつの周りに転がっている物を見て、子熊から離れていた理由に気付いてしまう。
『うぅ…ぐちゃぐちゃだ…。でも、一歩間違えたらそうなってたのは私達だったかも知れない。』
私は彼らをなるべく視界に入れないようにしながら、あり得た未来にゾッとする。
『思わず飛び出しちゃったけど、元々やろうとしてたことだ。今更怯んでなんかられない。』
けれど、今はやるべき事があると、そう考えると私は、熊から視線を逸らさないように気を付けながら後ろの少年に声を掛ける。
「あんた、動ける?さっきので足を挫いたりなんかしてないでしょうね。」
「う…うぇっ?」
「ううん、動けなくても関係無い。死にたくなかったらさっさと真っ直ぐ後ろの方に逃げなさい。」
「えっと…えっと…」
「早く!」
少年は、その場からなかなか動けずに居たけど、私が声を掛けたことでようやく立ち上がり、その気配が段々と遠ざかっていく。
「さて、ここで戦うのもあなた達に悪いし、場所を移そうかしらね。」
ここで耐えていれば、信号弾も上がっているし、そのうち救援も来るかも知れないが、私は独りそう呟くと、熊に向かってバチッと稲妻を撃ち込み注意を引いたところで、更に森の奥の方へと駆けていくのだった。




