63 一人歩く森の中
「…うーん、けっこうで離れてるわね。サヤカにどこまで探知してたのか聞くべきだったかしら。」
私は皆から離れた後、慣れない身体強化魔法を使いながら、サヤカが指を指した方向へ向かっていたのだが、1人で歩いてるせいか、前に先輩と話したことや、さっき彼女がやっていたことが自然と頭の中に浮かんでくる。
『やっぱり特異体質…ですか。』
『あぁ。恐らくだが、それが10月31日にお前の友人が体調を崩した原因だろうな。』
『別に友達では無いですけど。』
『そんなことはどうでもいい。とにかく、その魔素を吸収する体質というのは俺もあまり聞いたことはないが、お前の考察が正しければ、他の大陸にも存在するだろう。』
それは文化祭より数日後の事だった。
私は、10月31日に体調を崩す人が居ると言うのは、単なる噂話ではなく実際に理由があってそのような状況が生まれている可能性があると言うことをスイネグ先輩に話していた
具体的に言うと、あの日は朝から空気中の魔素が濃くなっていて、その魔素の濃度と魔力の濃度が合わない人が体調を崩していたのではないかと言うことだ。
『そうだな…何故その1日だけ魔素が濃くなるのかまでは分からないが、ベネウッド大陸だけが10月31日に体調を崩したり、その日に関する噂が多くあるのか理解出来た気がするな。』
『逆に他の大陸ではあまりこんな噂を聞かないのも理由があったりするんですか?』
私自身がまだ、魔素とか魔法について分かっていない部分が多いので、ちゃんと説明出来たか不安だったが、スイネグ先輩にはどうにか話したい内容が伝わったみたいで、続く私の質問にも答えてくれる。
『考えられる理由としてだが、まず、ユニウス大陸では、魔力の扱いに長けている者が多いため、空気中の魔素が濃くなったところで、それを吸収したところでデメリットに感じる人は少ないだろうな。』
『魔力の循環とか上手ですもんね。』
スイネグ先輩の言葉に、私はサヤカの姿を思い浮かべながら答える。
『後はそもそも魔力の濃度が濃い奴が多いのもあるだろうな。』
『そうなんですね。でも、それだとアリアス大陸の人達は…』
『そっちだとあの日の魔素濃度が普通なんだろ?俺には違いが分からなかったがな。向こうの大陸では魔法を使う奴が少ないんだろ?魔素を吸収してもそれと同じで、噂になるほど普段との違いを感じ取れるやつはいないんじゃないか?』
『そうかも知れませんね…。』
スイネグ先輩とそう話して、私は今回の話が彼の理論を証明するのに役立ちそうか聞いてみたかったのだが、途中でセイラ先輩が研究室にやって来たことで話題が魔力針の方へ切り替わり、私自身もそっちの方へ興味が移ったことでこの事を聞けずにその日は解散することになった。
そうしてしばらく経ったある日、私はスイネグ先輩から突然『ふむ…そうだな…。お前は魔法と魔術を同時に使うとき、派生魔法の使用を禁止する。』と言う言葉と共に、研究の進捗を知らされるのだった。
『えっ!?ど、どうしてですか??』
いきなり告げられたその言葉に、私は当然納得いくはずもなくそう聞き返す。
けれど、スイネグ先輩はいつものように私の言葉を無視して、研究の結果を語り始める。
どうやらスイネグ先輩は、あの後も話した内容について検証を進めていたようで、その副産物として私が以前魔法の練習をしようとして倒れた原因が、なんとなく分かったらしい。
『いやぁ、本当にお前が助手に来てから、行き詰まった研究が幾つも進んで、本当に嬉しい限りだ。』
『そうですか。…それは何よりです?』
先輩の表情を見るに、その言葉に嘘は無いようだが、その前に言われた言葉のせいで、私はどんなリアクションをしていいのか分からなかった。
ひとまず、私は先輩が上機嫌に検証結果を話すのを聞いていたが、内容を纏めるとこうだ。
今までアリアス出身の人にも研究の手伝いをしてもらっていた訳だが、検証が上手くいかなかった原因として、その人達のほとんどが既に無意識に強化魔法を纏う事が出来るようになっていたからだというのが、今回新たに判明したらしい。
『おまけにあいつらは、使う魔術もこっちの大陸用に最適化してるから、結果として独自性が失われて魔法を使うのと大して変わらなくなってる。まぁ、一部例外はいるが。』
『私はまだ意識してないと身体強化が出来ないから影響が少ないのね。』
『それもあるだろうな。』
そうして検証した結果、魔法と魔術を同時に発動させるのに必要な魔素の濃度に差がある時、例えば、片方は酸素タイプ、片方はオゾンタイプといった場合に、魔力の制御が非常に困難になり暴走する可能性がある事が分かったそうだ。
『こっちに順応した奴らは、酸素タイプ以下の魔素しか必要としない魔術しか使わないからな。そのせいもあってオゾンタイプの魔素がある事もなかなか気付けなかった。』
『そもそも、魔素に種類がある事に気付けるのも凄いと思いますけど…。』
『まぁ、そう言うわけでお前は複雑な魔術を使う時は、同時に魔法を使うのを禁止する。どうしても練習したい時はセイラが居るときにしろ。』
『うう…分かりました…。』
セイラ先輩がいても、どうせいつも応援してるだけな気がすると思わなくもないが、それ以外の部分は納得することしかないので、私はしぶしぶそう返事をする。
そんなことがあったなと思い返してると、少し離れた位置に魔物の気配を感じたので、私は息を潜めて、迫り来る戦いの予感へと緊張を高めるのだった。




