56 準備期間
「どうだい、もうすぐ11月も終わるけど、君のお友達は順調そうかな?」
いよいよ校外学習まであと数日となったある日、私はいつものように上級生に囲まれながら、当日の自分の仕事を確認していると、息抜きの合図とでも言うように、サク先輩がそう話し掛けてくる。
「えっと、皆どんな依頼でも受けられるようにって準備してるから、最近はお勉強と体力作りで忙しいみたい。」
「ふふ、1年生は森に入るのが初めての子も多いものね。」
「は、はい。けど、レアちゃんもサヤカちゃんも、元々狩りとかの経験があるみたいだから、特に心配する事は無さそうだって。」
「確かその2人は同じ班になったんだっけ?」
私が手を休めてそれに返事をすると、同じようにセイラ先輩も手を止めて、会話に入ってくる。
「うん。けど、メリッサちゃんが1人だけ違う班になっちゃって、ちょっと拗ねちゃってるみたい。」
「メリッサか。俺は会ったこと無いが、元Sクラスの奴だったか?」
「そうね。見た目は随分変わったと思ったけど、寂しがり屋なところは変わってないのねぇ。」
「え?メリッサちゃんってSクラスだったの!?」
私がもう1人の友人、メリッサちゃんの様子も答えると、一緒に座ってたスイネグ先輩から、びっくりする話が出る。
「あら、聞いたことないの?彼女、中等部ではずっとSクラスだったのよ?」
「そ、そうだったんですか…。」
「そうよ、それに…
「まぁまぁ、彼女が話してないのには何か理由があるかも知れないし、ぼく達が勝手に言わない方が良いんじゃない?」
「わ、私もそう思います…。」
「そう、貴方達が言うなら仕方ないわね。」
メリッサちゃんが元Sクラスなのは驚いたし、色々とお話しを聞いてみたい気持ちはあったけど、私はサク先輩が言うことももっともだと思い、そう答える。
「それはそうと、貴方達も体力作りはしっかりするのよ?救護班だって現場に向かうこともあるんだから。」
「そうだね。あそこに行ったことのあるぼく達ならともかく、レイナは初めてだから、迷子にならないようにちゃんと上級生と一緒に行動するんだよ?」
「は、はい!足を引っ張らないように頑張ります!!」
最初、救護班と言うことで試験でも特別措置を取られることに、少し後ろめたい気持ちもあったのだけど、ここ数ヵ月の間に、地形を覚えるのと回復魔法の練習、そして、セイラ先輩が言うように体力作りも平行でするという、忙しい日々を過ごしていたので、もはやそんな気持ちは何処かへ吹き飛んでしまった。
その代わり、私達の役割がそれだけの準備が必要で、重要な部分を担っているという自覚を持つことが出来、私はサク先輩の言葉に気合いを入れ直す。
「それにしても森の中を捜索なんて、いくら信号弾があるとは言え、ちゃんと見付けられるか不安だわ。」
「そうだね。信号弾が上がらないのが理想ではあるけど、そうもいかないだろうからね。」
「はぁ、スイネグのそのあーちゃんとお揃いの、変な魔道具がもっといっぱいあれば良いのにね。」
そうして話していると、セイラ先輩が試験の事を思ってか、憂鬱そうな声をあげる。
「これは材料の入手が難しいんだから、個数が少なくなるのは仕方がない事だろう。それに、これの名前は魔力針だ。いい加減覚えろ。全く、これだから…」
「はいはい分かったわよ。魔力針、魔力針ね。覚えたわよ。別に魔力コンパスでも何でも良いじゃない、名前なんて。もう、そっちの反応が見たかったんじゃないのに、つまらないわぁ。」
セイラ先輩に言われたことに、スイネグ先輩が反応するが、望んでた答えじゃないことに不満そうな顔を見せる。
私は今の話に出てきた魔道具がどういうものなのか気になったので、スイネグ先輩に恐る恐る質問をしてみる。
「あ、あの…この魔力針って何をする道具なんですか?」
「ん、これか?これは特定の魔力を感知して、その方向を指すだけの魔道具だ。」
「ま、魔力を感知!?それがあったら、捜索の時物凄く便利じゃないですか!」
「そうでもない。まだこれと一緒に作ったもう一対と、専用に調整した魔石にか反応しないからな。」
最初に会ったときのイメージもあって、聞いても教えて貰えるか心配だったけど、意外な事に私の驚いた声にも返事をしてくれる。
そして、そのままスイネグ先輩の腕に巻いてある魔道具、『魔力針』についての解説が始まるのだった。




