45 文化祭・前編
「遠目に見たことはあったけども、人がこれだけ集まっていると騒がしいわね。」
文化祭当日、私達はいつもの4人で教室を出たのだが、1年生のエリアを抜けるとそこにはもう昨日までの雰囲気は無く、色とりどりの装飾品で飾り付けられた通路と、自由な服装で歩く人達で埋め尽くされた風景が広がっており、いかにもお祭りと言った空気が漂っていた。
「凄い…。わたしの村のお祭りよりも賑やか。」
「さすがにそれは言い過ぎなんじゃない?って言いたいけど、この後学校以外の人も来るから、もっと増えるのよね。」
「武術大会の時も凄かったけど、文化祭では同じ様な事を、先輩達だけでやってるんだよね?」
初めての光景を前に、私達は口々に感想を言い合い、1度似たような光景を見たであろうレイナですら、このイベントが生徒主導であると言う事実に驚きを隠せないでいた。
「まー、文化祭自体はこっちの大陸ならやってる学校は多いだろうが、ここまでの規模でやってる所はそうそう無いだろうな。」
「来年は私達も準備をお手伝いするんだよね?うぅ、こんな風に出来るのか不安だよぉ~。」
「一応毎年これをやるって決められてる訳じゃ無いけどな。」
そうして私達は、話しながら上級生のクラス等、様々な出し物をしている部屋を練り歩くが、私は朝から少し気になっていたことをメリッサに尋ねてみる。
「ねぇ、今日は服装は自由で良いって言われてたけど、あんな風に包帯をぐるぐる巻いてたり、動物の毛皮を被っているのって何か意味があるの?」
「あー、あれか。どんな意味があるかって聞かれると…。そーだな、言っちまえば悪霊とか、化け物から身を守るためだな。」
「身を守るため?」
「あぁ。お前らはあれがヴァンパイアとか、狼男とかの仮装をしてるってのは分かるか?」
「お伽噺に出てくるような人達だよね?」
「お伽噺、そうだな。簡単に言っちまえば、他の所は知らねぇがあたしらの地域ではそれが本当にあったこととして伝えられてるんだ。」
聞いてみると、どうやらあの仮装にはちゃんと意味があるようで、メリッサは、この文化祭で彼らが仮装する理由を語り始める。
「皆は、魔物と聞いたら獣の姿を思い浮かべると思うんだが、昔はこの時期になると人に近い姿の魔物も現れていたらしいんだ。」
「さっき言ってたヴァンパイアとか?」
「他にも色々だな。そんで、今はここらではあんまり見かけないからどうなのか分からねえが、この時期は獣の方の魔物も何故か動きが活発になるみたいでな、近くの奴らで集まって、撃退するようになったらしいんだ。」
あまり意識をしていなかったが、思い返してみると、私の街では確かに、この時期になると魔物の出現が多くなっていたかもしれない。
他の2人に聞いてみると、やはりレイナは同じ様な感想だった。そしてサヤカも、魔物こそほとんど見掛けないが、獣の動きは似たようなものだそうだ。
だが、そこまで聞いても、今のところ仮装が必要になる理由が分からない。
「魔物にせよ獣にせよ、お前らのところはこの時期大変なんだな。まぁ、その話は一旦置いとくとして、何故仮装が必要なのかだな。」
「えぇ、この時期に人や食糧が集まって、そこに魔物とかが惹き付けられるって言うのは分かるんだけど…、そこに人の姿をした魔物も来るようになったって事?」
「そうだ。ただ、そいつらは火に弱かったり、自分と似たような姿をしたやつを襲ったりはしなかったらしくてな。」
「知性は獣と大して変わらなかったのね。」
メリッサとの話で、去年の今頃は大人達が冬を越す為の食糧や木材を集めていたことを思い出し、何の心配もなくこの時期を過ごせている事に、改めてアリアス大陸との技術力の差を感じさせられる。
そして、辺りを見渡して仮装をしている人の多さに、先程の話がきっと広い範囲で浸透している文化なのだろうと思い、今度スイネグ先輩に詳しく聞いてみようかなんて考えていると、
「あっ、あーちゃーん!こっちこっちー!」
と、大きな声が辺りに響き渡る。
私がその聞き慣れた声のする方を向くと、そこには疲れたような表情で狼男のような仮想をしたスイネグ先輩と、大きなローブを羽織ったサク先輩、そして、ブンブンっと嬉しそうに手を振って、こちらへ走ってくるセイラ先輩の姿が見えるのだった。




