40 不満の理由
「むぅ…」
私は今、訓練所で魔術の練習をしながら1人唸っていた。
と言うのも、今日は朝から私のクラスだけでなく、1年生全体がとある話で持ち切りになっていたからだ。
「1年生はダメみたいなこと言ってたくせに、観に行ってた人けっこう多かったんじゃない…。」
それに加えて、レイナから聞かされた話もあって、ますます先輩達への不満や不信感が溜まっていき、私はそう呟く。
「あら~、あーちゃんたら随分と不機嫌そうな顔してるじゃない。いったいどうしたのかしら?」
しばらくそのまま練習をしていると、そう言いながらようやくセイラ先輩がやって来る。
「どうしてって、そんなの決まってるじゃないですかっ!!」
セイラ先輩は心配して声をかけただけなのに、私は先輩が自分達の都合で、必要以上に制限をかけているんじゃないなと思い、彼女のとぼけたような態度に、つい声を荒げてしまう。
「私は先輩達に言われて、他の1年生も同じように大会の見学すら許可がないと出来ないと思っていたのに、今日は私のクラスも、他のクラスも武術大会の話で持ち切りだったんですよ!?」
「うーん、そ~ね~。正直わたしも、あーちゃんだったら別に大会の見学くらい良いと思うんだけどねぇ。」
どうやらセイラ先輩によると、私にどこまで実際に魔法を使っているところを見せるか、と言う話を先輩達でしていたようで、最終的に私の事はスイネグさんに一任されることになったらしい。
「と言うわけで、詳しい話は本人に直接聞いた方が早いわね。さぁ、行くわよ!!」
セイラ先輩は、私にその事を説明すると、そう言ってぐいぐいと私の手を引っ張って歩き始める。
「ちょ、ちょっと待ってください!行くって何処にですか!?」
私は、セイラの早すぎる決断と行動に戸惑い、目的地を尋ねると
「決まってるじゃない、スイの所よ。」
と言う答えが返ってくる。
「さぁ、着いたわよ。」
「こ、ここは…」
気が付くと私は、今まで来たことないエリアへと案内されていた。
周りに上級生ばかりが居ることを考えても、ここは研究棟のような場所なのだろう。
ここが目的地と言うことは、この目の前の部屋にスイネグさんが居るに違いない。
けど、いきなり部屋に押し掛けても大丈夫なのだろうかとか、私が来ても大丈夫な場所なのかとか色々と聞きたかったのに、それよりも先に
コンコンコンッ
「スイー、入るわよー。」
と、セイラ先輩は返事を待たずに、何の躊躇いもなく扉を開け放つ。
「ちょ、ちょっと!セイラ先輩!?」
「お前達か。こんなところまでわざわざ、いったい何の用だ?」
「あーちゃんに聞きたいことがあるみたいなんだけど、私から言うよりも貴方からの方が良いと思って連れてきたのよ。」
「そうか。それで、何を聞きに来たんだ?」
ここまであまりに怒涛の展開過ぎて、セイラ先輩からグイッとスイネグさんの前に押し出されても、私は戸惑って
「えっと、その…。」
しか口にすることが出来ない。
それを見て、時間の無駄だと思ったのか、スイネグさんが
「何にも無いならさっさと部屋から出ていってくれないか?」
というので、私はこの部屋から閉め出されてしまう前に急いで聞きたかったことを纏める。
「あの、今日1年生の間で武術大会の事が話題になってたんですけど、もしかして、先輩達から許可を貰わなくても見学って出来たんですか?」
「そうだな、別に見学するのに許可は必要ないだろうな。」
「そ、それじゃあ、私も観ようと思えば観れたって事なんですか?」
「見学自体は自由だから観れたんじゃないか?」
「そんな…自由なら、どうして私はダメだったんですか?」
私は、淡々と返されるその答えに衝撃を受けて、ついスイネグさんに尋ねる口調が荒くなってしまう。
「何回か説明していると思うが、また言わないと駄目か?」
「余計なイメージを付けさせないため…ですよね?」
スイネグさんの面倒臭そうな言葉に、私は最早不満を隠そうとはせずそう答える。
「なんだ、理解してるのか。分かっているなら、何故わざわざここまで聞きに来たんだ?」
「それは…セイラ先輩に急に連れてこられ…、じゃなくて、先輩の実験の為に私がここまで制限をかけられる必要があるんですか?レイナだってサク先輩から色々と教えてもらっているのに、私はまだ…」
最初は、スイネグさんからの問いかけに素直に答えようとしたが、もういっそのことと思い、私は前々から言いたかったことを全てぶちまける。
「ふむ、やはり見学を許可しなくて正解だったな。お前は俺が思っているよりも他人の影響を受けやすそうだ。アルトレア、お前はこの学校を卒業した後も此方の大陸に残るのか?」
「残るつもりは無いですけど、何でそんなことを聞くんですか?」
そんな私を、スイネグさんは特に怒るわけでもなく、落ち着いた態度で別の質問を投げ掛けてくる。
「簡単な話だ。お前は元の大陸に戻ると言うのに、此方の大陸で使う技術を磨いてどうするつもりなんだ?まぁ、そこまで考えた上でさっさと学びたいと言うなら、これ以上特に制限を掛けないが。」
「あっ…」
私はスイネグさんの言葉にハッとなる。
「なるべく向こうに戻ってからも、そのまま使える技術を優先して習得してもらおうと思っていたが、お前が気にしてないならば、もう好きに他の上級生なり同級生に魔法でも何でも聞けば良いんじゃないか?」
「あの…、私…そこまで分かってなくて…ごめんなさい。その…色々と考えて下さって、ありがとうございます。」
以前の言葉もあって、スイネグさんから実験に便利な駒程度にしか考えられていないと思っていたのに、自分以上に今後の事を考えてくれていたことを知り、私は彼に対してのイメージが少しだけ変わったのを感じる。
「さて、もう聞きたいことは無いか。そろそろ研究を再開するから用事が終わったなら…、いや、そうだな。せっかく来たなら少し今やってることを見ていくか?」
「えっ?それは見ても大丈夫なんですか?」
「まぁ、これぐらいなら大した影響は無いだろう。」
ここへ来た用件が終わると、そう言ってスイネグさんはこの前の実験で分かったこと、これからやろうとしていることを纏めたノートを見せてくれる。
分からないことや聴きたいことがあると、スイネグさんは教えても大丈夫な範囲で全て説明してくれるので、私はさっきまで抱えてた不満など、すっかり忘れてスイネグさんの実験に夢中になる。
そしてスイネグさんも、自分の研究についてここまで興味を持ってもらうことが無いようで、楽しそうに実験を此方にも見やすいように行ってくれる。
「あらあら、うふふ。」
そしてそんな2人様子を、セイラはのんびり椅子に座って、微笑ましげに見ているのだった。




