33 杖
「はっはっは!!おい、聞いたかセイラ!?」
私の返事を聞くと、何が可笑しいのかスイネグさんは、大笑いしながらセイラ先輩に話し掛ける。
「あ、あの…そんなに変なこと言いましたか?私。」
セイラ先輩のびっくりしたような表情から察するに、この人がこんなに笑うのは珍しい事なのだろう。
私もこんなに上機嫌なスイネグさんが話し掛けられたら戸惑ってしまう。
「あーちゃん、ごめんなさいね。この人は頭のネジが他の人とちょっとずれているからたまにこうしておかしくなっちゃうのよ。」
「おいおい。こいつが来てから、あんなに行き詰まってた研究が、面白いぐらいに進むんだぞ?しかも俺の想定以上の結果を持ってだ。これが笑わずにいられるか。全く本当にサクは、なんて奴を紹介しやがる。」
最後に何かを呟いていたが、どうやら彼が喜んでいる理由の中に、自分の存在も絡んでいるようで、直接何かを言われた訳じゃないのに、なんとなく私も嬉しく感じてしまう。
「はぁ、さて。今回の実験についてだったな。」
しばらくして、スイネグさんが落ち着くと、ようやく説明が始まる。
「まず、この俺が持っている木の棒だが、これは杖と言って魔法を使う時の補助具として使われる。」
「この『杖』が補助具?聞いてもあまりピンと来ないんですけど…。」
「まぁそうだな。こいつを使うのはB.Cクラス以下の奴らが多いからな。」
「私の知っている杖とは違うものなんでしょうか。」
実物を見せられても、私にはそれはただの棒にしか見えず、どのように使うのかが想像できない。
「この杖の役割については、魔法と魔術の感覚の違いについて説明してからの方が分かりやすいだろう。」
「宜しくお願いします…。」
「この2つの違いは、ざっくりと言ってしまえば、内側から発動するか、外側で発動させるかと言うことにある。」
「本当にざっくりとですね。」
それでも、この前受けた講義のおかげで、何となく言ってることは理解できる。
「そして、魔法は体の内側で魔力を変化させ、それを放出することで発動する訳だが、体内で循環させることだけをしていた者にとっては、この放出と言う作業がイメージしにくい。」
「私も、これから先魔法を練習するときの課題になりそうですね。」
私は、まだその循環すら出来ないので、魔法を1から習得するのは大変なのだと言うことを改めて実感する。
「いや、恐らくお前の場合は、魔力を循環させられるようになったら、比較的すぐに魔法を使えるようになると思うぞ。」
「そうねぇ。さっきの感じだと、自分から離れた所で魔術を発動させるのも平気そうだったものね。」
しかし、意外なことに先輩2人からは、それに関しては大丈夫だろうと言ったような反応が反ってくる。
「ど、どうしてですか?」
「放出するのが難しい理由の中に、その変化させた魔力を、自分からどのように切り離すのかが分からないと言うのがある。」
「ファイヤーボールを撃とうとしたら、手から離れなくてそのまま的に当てに行った子も居たわねぇ。」
セイラ先輩の話もそれはそれで気になると、説明から脱線しそうになるが、スイネグさんが最後に纏めることで、なんとか抑えられる。
「まぁとにかく、それを補助する為に使われるのが、この杖と言うわけだ。これを使うことで、自分がどこに向けて魔法を撃つのかもイメージしやすくなる。だから慣れないうちは、以前説明した詠唱と合わせて使われることが多いな。」
「そんなの覚える方が大変じゃない。あーちゃんも詠唱なんか必要無いって思わない?」
「え、?えぇと…、はい。」
杖の役割は理解したのだが、突然セイラ先輩から同意を求められ、私はどちらも使ったことが無いので、ついそのまま頷いてしまう。
「そいつの言うことは適当に流しておけ。詠唱にも、発動させる魔法をより強固にイメージしやすくなるってメリットはあるんだからな。」
「私も覚えた方が良いんでしょうか?」
「同時に複数の属性を扱えるなら、必要無いだろう。」
説明を聞いてると、魔法を習得するには、杖や詠唱があった方が楽なように感じるが、そのどちらも私には必要無いと断言するのは何故なのか少し気になるので、スイネグさんに聞いてみる。
「どうして私には必要無いんですか?」
「元々魔法は、その性質上、2属性以上同時に発動させられる奴があまり居ないからな。なるべく余計なイメージを持たせたくない。」
「えっ?でも、試験の時に幾つか同時に魔法を発動させてる人が居ましたよ?」
だが、彼の答えによって、私には更なる疑問が生まれてしまうのだった。




